山田玲司が語る、永田照喜治。 〜植物の声をひたすら聞く男〜
(C)山田玲司/「週刊ヤングサンデー」連載中

その3 おまえ、なにメガネかけてんだよ。

山田 永田照喜治さんはね、朝、畑に
植物の声を聞きに行くって言うんだよ?
トマトが「そろそろ水くれ」って
言うらしいんです。
「いやいや、まだだろ、お前。
 ほんとの気持ちは
 まだだろ?

って、そういうかんじらしいッスよ。
ほぼ日 ハハハハハ。
山田 「もう、だめ!」ってときに、
いまだったら、う〜まいヤツができるだろうなぁ、
と、水を与える。
鬼コーチみたいなもんですね。
ほぼ日 永田農法はスパルタ農業とも
言われていますし。
山田 野菜ががんばるのをとにかく見守って、
ギリギリの最後の最後に手を差し伸べて
「あああ、オレ、気がつきました!」と
野菜に言わせる。
鬼コーチやスパルタに例えると
みんながわかりやすいんだろうけど、
でもね、原産地は、そうなんだって。
トマトの原産地とされているアンデスの大地は、
カラカラに乾いているらしい。

野菜の力を出させるには、
原産地の環境を再現するしかない、
ということに、
ほんとうに尽きるんでしょうね。

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  豊かな国に引っ越してしまった、
元・原産地の人がいたとする。
昔のことを忘れて、
ゲーム機で遊んだり
家でパソコンに向かう仕事をしている。
そんな人のもとへ永田さんがやってきて、
「おまえ、母国のことを忘れてんな?
 もっとジャンプができただろ?
 なんでメガネかけてんだよ」
と声をかける。

メガネをかけざるを得なくなった
トマトの遺伝子は
「そうッスよね」
と気づくんです。
「オレ、もっと甘かったはずです」
「そういや水に沈んでました、オレ!」
「いまはなんで、浮いてんですかね?」
そういうことを、気づかせる農業なんです。
ほぼ日 トマトにとってのパソコンもゲームもあるような
日本という場所で
原産地の環境をつくり出す、ということは
大規模な農業では、
難しいことなのかもしれません。
それで希少価値が上がってしまい、
「高級野菜」「ぜいたく」というイメージが
ついてしまうんでしょうか。
山田 うーん。でもね、
「ぜいたく」って
いろんな種類があると思うんです。

これまで、ぼくたちは
「きれいなものを一年じゅう食べる」
という種類の「ぜいたく」を選択してきたんです。
いつでもトマトは食べられます、
旬の野菜というものはないです、
という「ぜいたく」を満たすために
発展してきた農業です。
しかしそれでは、
健康によくないし、あんまりおいしくない。
大量で見ばえのよいまずいものを買うことに、
みんな、うんざりしてきている。
それで、気がついたのが
もうひとつの「ぜいたく」なんですよ。

「この時季しか食べられないよね」
「子どもも生で食べられるタマネギなんだよ」
おなじ「ぜいたく」というものなんだったら
永田式の「ぜいたく」のほうに、
みんなが飛びつきますよ。
しかも、こっちのほうが体にいい。

そうやってみんなが
永田さんのやり方を選択していくようになったら、
いままでの農業がとってきた方法は、
もうやめていってもいいんじゃないのかな?

いま、日本の食料の自給率は
26%とか、言うでしょ?
だったら量も必要なんだ、ということになると、
敷居を高くなんかしちゃいられない。
永田さんのトマトを
みんなが食べられるようにするには
どうしていけばいいのか、
手間もかかるしなぁ、ということになって
出てきた発想が‥‥。
ほぼ日 ロボットですね。

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山田 そう!
ほぼ日 ロボットの話は、
永田先生から何度うかがっても
あまりよくわからなかったのですが、
山田さんの漫画で、やっとわかりました。
あれは、壮大な計画ですね。
山田 でも、永田さんの考えているロボットってのは、
チョロQぐらいの大きさのものなんだよ。
GPSでコントロールして。
ほぼ日 チョロQ? はい、はい。
山田 オレもね(笑)、
いったいどういうイメージなんだろう、って、
かなり考えたんですよ。
きっと、南仏かなんかの
大規模なプランテーションで、
広大な畑の近くにパラソルを出して、
みんなで優雅にモバイル片手にワインを飲みながら
植物の声を機械で聞けるようなデータを管理する。
「今日の畑はどうお?」
「虫はどれくらいいる?」
そんなイメージかな。
ほぼ日 永田先生は、機械化がよくない、とか、
大量生産がよくない、とか
思っているわけじゃないんですね。
山田 だってさ、とりあえずこの地球の人口は
80億人にも達するといわれているわけです。
現実として、みんな、
死なないようにせんといかんだろう、
ということになったときに
「少なくて高いけどうまい野菜」なんて
のんきなことは言ってられないでしょう。
その視点は、永田さんには
すごく強くあるんです。
ほぼ日 おいしい野菜を、
値段をつり上げて
売ろうとしているわけではない。
山田 ぜんぜんちがう。
そういう匂いを嗅ぎつけた人たちは、
そういう騒ぎも起こすでしょうね。
「そんなもん、ヒルズの連中が食ってんだろう?」
ということを言う人たちもいっぱいいて。
ほぼ日 永田先生は、そのあたりの
誤解のようなものを
どのように考えているんでしょう。
山田 うーん、もう、
わりと「あきらめ」入ってちゃってるでしょうね。
あの世代の人だし、
旗を振ることに対しての危機感もあるでしょう。

だから、
「いや、それはいいよ、
 とりあえず牛乳飲めよ、
 その卵も食ってみろ」
って(笑)、そっちにいくんだよね。
「うまいッスね」
「うまいだろ? な?」
というところに、あの人は
いつもいらっしゃるんじゃないかな、と思います。

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  ぼくが永田農法研究所へ行ったときも、
ややこしい話をする前に
「まずは食ってみろ」
「畑に行ってみよう」
の連続でした。
これからの日本について
何か言葉をいただきたかったんですけど、
なかなかそうもいかなくてね(笑)。
帰り際、トマトやらタマネギやら
大量の永田野菜を「持ってけ、持ってけ」って、
おみやげに持たされて、最後の最後、
オレたちがタクシーに乗る寸前に、
「山田さん、
 日本はよくなりますよ」
って言ってくれたんです。

帰ってからも、ぼくはずっと
永田さんのことを考えてましたよ。
  (つづきます!)

2006-03-31-FRI