山田 |
永田照喜治さんはね、朝、畑に
植物の声を聞きに行くって言うんだよ?
トマトが「そろそろ水くれ」って
言うらしいんです。
「いやいや、まだだろ、お前。 ほんとの気持ちは
まだだろ?」
って、そういうかんじらしいッスよ。 |
ほぼ日 |
ハハハハハ。 |
山田 |
「もう、だめ!」ってときに、
いまだったら、う〜まいヤツができるだろうなぁ、
と、水を与える。
鬼コーチみたいなもんですね。 |
ほぼ日 |
永田農法はスパルタ農業とも
言われていますし。 |
山田 |
野菜ががんばるのをとにかく見守って、
ギリギリの最後の最後に手を差し伸べて
「あああ、オレ、気がつきました!」と
野菜に言わせる。
鬼コーチやスパルタに例えると
みんながわかりやすいんだろうけど、
でもね、原産地は、そうなんだって。
トマトの原産地とされているアンデスの大地は、
カラカラに乾いているらしい。
野菜の力を出させるには、
原産地の環境を再現するしかない、
ということに、
ほんとうに尽きるんでしょうね。 |
(C)山田玲司/「週刊ヤングサンデー」連載中 |
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豊かな国に引っ越してしまった、
元・原産地の人がいたとする。
昔のことを忘れて、
ゲーム機で遊んだり
家でパソコンに向かう仕事をしている。
そんな人のもとへ永田さんがやってきて、
「おまえ、母国のことを忘れてんな?
もっとジャンプができただろ?
なんでメガネかけてんだよ」
と声をかける。
メガネをかけざるを得なくなった
トマトの遺伝子は
「そうッスよね」
と気づくんです。
「オレ、もっと甘かったはずです」
「そういや水に沈んでました、オレ!」
「いまはなんで、浮いてんですかね?」
そういうことを、気づかせる農業なんです。 |
ほぼ日 |
トマトにとってのパソコンもゲームもあるような
日本という場所で
原産地の環境をつくり出す、ということは
大規模な農業では、
難しいことなのかもしれません。
それで希少価値が上がってしまい、
「高級野菜」「ぜいたく」というイメージが
ついてしまうんでしょうか。 |
山田 |
うーん。でもね、
「ぜいたく」って
いろんな種類があると思うんです。
これまで、ぼくたちは
「きれいなものを一年じゅう食べる」
という種類の「ぜいたく」を選択してきたんです。
いつでもトマトは食べられます、
旬の野菜というものはないです、
という「ぜいたく」を満たすために
発展してきた農業です。
しかしそれでは、
健康によくないし、あんまりおいしくない。
大量で見ばえのよいまずいものを買うことに、
みんな、うんざりしてきている。
それで、気がついたのが
もうひとつの「ぜいたく」なんですよ。
「この時季しか食べられないよね」
「子どもも生で食べられるタマネギなんだよ」
おなじ「ぜいたく」というものなんだったら
永田式の「ぜいたく」のほうに、
みんなが飛びつきますよ。
しかも、こっちのほうが体にいい。
そうやってみんなが
永田さんのやり方を選択していくようになったら、
いままでの農業がとってきた方法は、
もうやめていってもいいんじゃないのかな?
いま、日本の食料の自給率は
26%とか、言うでしょ?
だったら量も必要なんだ、ということになると、
敷居を高くなんかしちゃいられない。
永田さんのトマトを
みんなが食べられるようにするには
どうしていけばいいのか、
手間もかかるしなぁ、ということになって
出てきた発想が‥‥。 |
ほぼ日 |
ロボットですね。 |
(C)山田玲司/「週刊ヤングサンデー」連載中 |
山田 |
そう! |
ほぼ日 |
ロボットの話は、
永田先生から何度うかがっても
あまりよくわからなかったのですが、
山田さんの漫画で、やっとわかりました。
あれは、壮大な計画ですね。 |
山田 |
でも、永田さんの考えているロボットってのは、 チョロQぐらいの大きさのものなんだよ。
GPSでコントロールして。 |
ほぼ日 |
チョロQ? はい、はい。 |
山田 |
オレもね(笑)、
いったいどういうイメージなんだろう、って、
かなり考えたんですよ。
きっと、南仏かなんかの
大規模なプランテーションで、
広大な畑の近くにパラソルを出して、
みんなで優雅にモバイル片手にワインを飲みながら
植物の声を機械で聞けるようなデータを管理する。
「今日の畑はどうお?」
「虫はどれくらいいる?」
そんなイメージかな。 |
ほぼ日 |
永田先生は、機械化がよくない、とか、
大量生産がよくない、とか
思っているわけじゃないんですね。 |
山田 |
だってさ、とりあえずこの地球の人口は
80億人にも達するといわれているわけです。
現実として、みんな、
死なないようにせんといかんだろう、
ということになったときに
「少なくて高いけどうまい野菜」なんて
のんきなことは言ってられないでしょう。
その視点は、永田さんには
すごく強くあるんです。 |
ほぼ日 |
おいしい野菜を、
値段をつり上げて
売ろうとしているわけではない。 |
山田 |
ぜんぜんちがう。
そういう匂いを嗅ぎつけた人たちは、
そういう騒ぎも起こすでしょうね。
「そんなもん、ヒルズの連中が食ってんだろう?」
ということを言う人たちもいっぱいいて。 |
ほぼ日 |
永田先生は、そのあたりの
誤解のようなものを
どのように考えているんでしょう。 |
山田 |
うーん、もう、
わりと「あきらめ」入ってちゃってるでしょうね。
あの世代の人だし、
旗を振ることに対しての危機感もあるでしょう。
だから、
「いや、それはいいよ、
とりあえず牛乳飲めよ、
その卵も食ってみろ」
って(笑)、そっちにいくんだよね。
「うまいッスね」
「うまいだろ? な?」
というところに、あの人は
いつもいらっしゃるんじゃないかな、と思います。 |
(C)山田玲司/「週刊ヤングサンデー」連載中 |
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ぼくが永田農法研究所へ行ったときも、
ややこしい話をする前に
「まずは食ってみろ」
「畑に行ってみよう」
の連続でした。
これからの日本について
何か言葉をいただきたかったんですけど、
なかなかそうもいかなくてね(笑)。
帰り際、トマトやらタマネギやら
大量の永田野菜を「持ってけ、持ってけ」って、
おみやげに持たされて、最後の最後、
オレたちがタクシーに乗る寸前に、
「山田さん、
日本はよくなりますよ」
って言ってくれたんです。
帰ってからも、ぼくはずっと
永田さんのことを考えてましたよ。 |
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(つづきます!) |