山田玲司が語る、永田照喜治。 〜植物の声をひたすら聞く男〜
(C)山田玲司/「週刊ヤングサンデー」連載中

漫画家の山田玲司さんが、 ヤングサンデーに連載中の 「絶望に効くクスリーONE ON ONEー」 (通称「ゼツヤク」)で 糸井重里を描いたのは、3年前。 それ以来なかよくなって、 「ほぼ日」の企画に ご協力いただいたりしてきました。 そして、おなじ山田さんの「ゼツヤク」に、 永田農法の永田照喜治さんが登場。 40歳になった山田玲司さんには、いま、 どんなことが見えているのでしょうか。 永田照喜治さんのことからはじまって、 いろんなお話、うかがってきました。

その1 糸井さんの体が求めたんだよ。

 
(C)山田玲司/「週刊ヤングサンデー」連載中

ほぼ日

山田玲司さんは、週刊ヤングサンデーで
「絶望に効く薬ーONE ON ONE」
連載していらっしゃいます。
その「第58夜」で、永田農法の創始者、
永田照喜治先生が登場するのですが、
永田先生って、その‥‥、
不思議な方ではありませんでしたか?
山田 不思議でしたよ。
ああいう、孤独で、
「思ったらこうやる」タイプの方は、
いらっしゃるには
いらっしゃるんですけれども
なかでも独特でした。

ぼくが取材したときは、なんだか、
ふつうのおじいちゃんの家に
遊びに行ったような感覚でした。
ぼくが難しい話を振ると、永田さんは
フワッとかわしたりするんです。
ほぼ日 わかります。
この漫画を読んでいちばんに思ったのは、
よく短時間でここまで永田先生に話が聞けたなぁ、
ということでしたよ。

山田

ハハハハ。もうね、
入り込むしかなかったです!
「わかんないんで、お願いします」
「わかんないんで、お願いします」
「あ、いまのも、わかんないんで」
そればっかり言ってた。
あんなに「間(ま)」が
長い取材もはじめてだったし。
ほぼ日 質問しても「シーン」としつづけて3分経過、
なんてことは、永田先生相手だったら
ありますものね。

山田

「こうなりゃオレも
 話をぜったいに割らないで待つぞ」
って、決めました。

言ってみれば、永田さんは
禅のお坊さんみたいな人でしたね。
禅のお坊さんのお師匠さん、みたいな感じ。
ほぼ日 そのまたお師匠さん、ですか。

山田

そう。すごい境地にいる
お師匠さんみたいな人は、
いきなり来て「仏とはなんぞや?」と
訊ねた人間に対して、
きっとすぐには答えないでしょ?
「ぼくはこんなに悩んでいるんです、
 何か教えてください」
と、出合い頭に言ったような人に、
簡単に答えを与えるお坊さんはいない。

名だたるお坊さんは、
真逆(まぎゃく)のことを言ったり
トリッキーなことを言ってしかけたりします。
そんな、いじわるに思えるようなことをしながら
後ろからポンと肩を押してくれているんです。
ふとした拍子に「こういうことか」と悟らせる、
まさにそういう教え方の人なんです、
永田さんという人は。

(C)山田玲司/「週刊ヤングサンデー」連載中
ほぼ日 そうですね。
たやすく相談して回答を得ても
自分のための答えにはなりにくいですから。

山田

そういえば、
「何でも相談しちゃうのは、よくない」
というのは、
糸井さんが言ってたことですよ。
相談しちゃうとそこで終わっちゃう、って。

でも、「ほぼ日」のいるインターネットは
スピードの世界だから、
すぐ人に聞ける、というほうに
メディア的には向いているのかもしれませんけど。
ほぼ日 糸井は、ああ見えて、あんがい考えを
ため込むタイプでもあります。
プロセスをちょこちょこ出したりしますけれども、
何年か越しで、じっとあたためたものを
出してくることが多い。
もともと、あたためているものの数が
たくさんあるようなんですが。

山田

そうか、ため込むのか。
そうだよ、そうだろうなぁ。
糸井さんは、きっと自分の体が
永田照喜治さんを呼んだんだと思うよ。
ほぼ日 それはどういう意味で?

山田

糸井さんは、広告の世界に長くいたでしょう。
クライアントがいて、代理店がいて
クリエイターとしての自分がいて、
「これで金を取るんだろ?」
「どうなんだよ?」
というところにずっと身を置いていた。
そんな状況がつづいていたとしたら、
楽しいものも楽しくなくなっちゃうでしょう。
でも、糸井さんの背負っている看板って、
「楽しい糸井重里」なわけです。
「おまえの扱うものは、全部楽しいんだろ?」
と言われることを
全面的に受け入れる仕事をしてきたわけですよ。
それはね、ほんとうに、
えらいなぁ!!と思います。

頭がいいと言われてきた人たちに
たくさん囲まれていただろうし、
そういう人のもっている小賢しさとか保身にも
糸井さんは敏感だったと思います。
だって、あの人は、「頭のいい人」よりも
もーーっと、頭がいいから。

だから、永田さんのつくるような食べものを
自然と、求めていたんだと思います。
ああ、熱くていいな、こんな話、
ひさしぶり!
ほぼ日
あの‥‥。

山田

はい。
ほぼ日 山田さんも、どちらかと言うと
「熱い」と言われませんか?

山田

いまはそうでもないんですよ。
昔はね、すごく熱くて
めんどくさい人間だったと思います。
でも、自分のエネルギーが大きくなればなるほど
まわりはつらくなる。
太陽は、あんまり近くにいたらいけないんです。
オレに燃やされて
灰になっちゃう人が出る可能性もあるので、
それは気をつけなきゃな、と思います。
ほぼ日 大人な発言ですね。

山田

大人な発言になってきましたねぇぇぇ、やだなぁ!
ほぼ日 この「絶望に効くクスリ」は
毎週連載なんですよね。
考えただけでしんどい!!

山田

しんどいですよ。
昨日も胃カメラを。
ほぼ日
そうなんですか。

山田

取材がたてこんで
複数の人について重なって描いているときは、
とにかく苦しいですね。
でもね、こんな経験させてもらっている漫画家は、
たぶん、ぼくだけですから。
ほぼ日 登場するみなさんが、
すごい方ばかりですからね。
オノ・ヨーコさん、水木しげるさん、
五味太郎さん、河合隼雄さん、‥‥

山田

すごい人が、会ってくれるんッスよ。
ほぼ日 話を聞き出すのが難しそうですね。

山田

いや、人に話を聞くときには、
どんなにすごい人が相手でもおなじです。
まじめに勉強していって、
おごらないで誠意をもって話を聞けば、
だいたいの人が、
そんなに悪い気分にはならないものなんです。
この芸風もね、そもそも、
糸井さんに教えられたんですよ。
ほぼ日
糸井に? 芸風を?

山田

人をリスペクトする芸風。
糸井さんは、子どものときから
「うわー、すげえなぁ」
と言ってる子だったというし、
いまでも、
いいなと思ったらストレートにほめるし、
この人とこの人をつなげばいいのに、
と思ったらすぐやる。
麻雀の人数が足りなかったら行くぜ、
といういうような生き方をしている。
糸井さんに会ったあと、ぼくは完全に
インタビューが楽になりました。
 
(つづきます!)

2006-03-27-MON

いままでの対談。
その2 どうして、ゆるがないのか?
その3 おまえ、なにメガネかけてんだよ。
その4 何度も死んでる、死なない人たち。
その5 虫みたいに見えてんだろうな。
その6 江戸っ子を演じてみてごらん。
永田照喜治さんは、誰の言うことを聞いてきたか。
永田照喜治さんは、誰の言うことを聞いてきたか。