山田玲司が語る、永田照喜治。 〜植物の声をひたすら聞く男〜
(C)山田玲司/「週刊ヤングサンデー」連載中

永田照喜治さんは、誰の言うことを聞いてきたか。

山田 永田照喜治さんの考え、広まるといいですね。
永田さんは
日本の農業を全部変えたいと言っているし、
いったんこのしくみはぜんぶなくなりますよ、
とまで、言ってますからね。
どんどん悪くなればいいんですよ、
倒れるから、と。
ほぼ日 戦争でいちど崩壊を
見ているからでしょうか。
山田 さすがだな、と思いますよ。
いったんおじゃんになっていくところと、
そのあと世の中がどうなったかを
見てきたわけです。
それを「前世」みたいに
体でぜんぶ知っているから
あのときはこうだったし、
これからはこうだよ、だから
そんなに心配することないよ、と
おっしゃるんですね。

実際にどういうことになるのかを
ワーワー言ったってしょうがないから
具体的にこうやろう、と
着実に言ってるわけですよ。
ほぼ日 「だれでもつくれる永田野菜」DVDでは、
家庭菜園をみんなに伝えようとしています。
山田 うん。植物を育てることは、
しかも、食べものを育てるのは、
とてもいいことだと思います。
植物って、しゃべりますからね。
地球の代弁者なんですよ。

植物を食べる、ということは
環境を食べることにつながるんです。

何でもコンビニに行けば手に入るという
暮らしをしている人たちは、
ベランダガーデニングでもなんでもいいから、
土をさわってみると、
いろんなことがわかるんじゃないかな。
「トマトひとつつくるのには
 こんなにタイヘンなんだ」
ということもわかったら、
たとえば、大量に買って捨てるということも
なくなるかもしれない。
ほぼ日 野菜を育てると、
私たちが住んでいる場所に
一歩近づくことになるかもしれませんね。
山田 植物を育てていて思うのは、
すべての環境がそろわないと育たないもんだな、
ということです。
ほぼ日 そういえば、山田さんの事務所は
植物でいっぱいですね。
山田 植物だらけですよ。
ストレスたまるたんびに
ひと鉢ずつ増えていく(笑)。
ほぼ日 ハハハハ。
山田 事務所の中央に置いてあるパキラは、
デビューのときからいっしょなんです。
小さかったのにどんどんのびて。
ほぼ日 いまじゃ天井につくくらいですね。
山田 「何回切ってもぼくは平気です」
みたいな感じです。
植物とは、対話がありますよ。
植物との対話は、女の人との対話に
似ていますね。
ほぼ日 というと?
山田 女の人とつきあうということは、
その女の人がいた環境とつきあう、
ということだと思うんです。
どんな両親に何を言われて、どんな間取りで
何を食って育ってきたのか、
お父さんに対してお母さんは
どんな態度だったのか、
それらすべてが「彼女」なんですよ。

すなわち
「君が好きだ」ということは、
「君を育てた環境が好きだ」
ということでなければ、成立しないんです。
「君は好きだけど
 君のお父さんとお母さんは嫌いだよ」
ということでは、
のちのち、たいへんな戦争が待ってます。
ほぼ日 ハハハハ。
山田 汚れた水槽のなかに飼ってる魚が病気になってて
その魚に向かって
「おめぇなんで病気なんだ!」と言ったって
しょうがないでしょう。
食べものも、まさにそう。
永田さんが言ってましたよ、
「子どもが野菜嫌いなのは、野菜のせいなんです」
ほぼ日 子どもが悪いんじゃない。
山田 さらに言えば、トマトやタマネギが
悪いんじゃない。
こういう環境で、
こういうふうに育てられたから、
子どもが食べないような味になるんです。
ほぼ日 家庭菜園をやるのは
いいことかもしれない。
山田 めちゃめちゃいいことですよ。
そうやって野菜を育てることによって
食べものの環境をつくることを
自分でやるわけですから。
食事の何%かを自分でつくったものにすれば
体にも関心が持てることになるし、
いいことづくめだよ。

なにしろだいいち、
植物を育てるのは、ほんとにいいです。
ぼくは、植物がとにかく好きです。
ほぼ日 どういうところが?
山田 日ごとに変わっていくところ、かな。
風水でいうところの、
「木火土金水(もっかどごんすい)」
あれに囲まれていないと、
人間はバランスを
くずしてしまうんじゃないかな、と思います。
そのうちのどれかだけ、というのは
よくないんじゃないかな。
ほぼ日 バランスを崩しても平気だ、というペースで
社会が急ピッチで歩いてきた、ということが
これまではあったのかもしれません。
山田 「イッパツ飲んで気合い上げていくぜ!?」
という、その瞬間は楽しいですよ。
でも、そのあとどうするんだ?
通風になったり肝臓壊したり、
ということが待ってる。
あんとき酒やめときゃあな、
たばこやめときゃあな、
と思うときがくるんです。
ほぼ日 永田先生は見てきたんですね。
「イッパツ飲んで」の、悲惨な末路を。
山田 何度も、見てきたんだと思います。
さぞえらそうに永田さんに命令した人は
いっぱいいたでしょうし、
バカにした人たちもいっぱいいたでしょう。


(C)山田玲司/「週刊ヤングサンデー」連載中

そこで、永田さんは、何をしていたか?
植物と
しゃべっていたんです、
いつも。
ほぼ日 永田先生がぶれないのは、
植物の声を聞いているから。
山田 うん。
過酷なところで育ったミカンがなんでうまいのか?
「そういうこともあるよな!」
ということではすまさないで、
ずうっとミカンとしゃべりつづけたんだと思います。


(C)山田玲司/「週刊ヤングサンデー」連載中

いま、みんなが永田さんになりにくいのは
情報が多すぎるから、ということも
あるんでしょうね。
「ドラマ見てる?」
「おめぇあの女と?」
「まじッスか、先輩!」
って話をされちゃうと、
植物の声なんか聞いてるひまねぇよ!
ということになりますね。
しょうがないよね。

毎日畑に行って、
風の音と、鳥の声と、波の音しか
聞こえてこないような場所にいることで、
耳に入ってくることがある。
もし、いまの若者が
ポンとそういうところに行けば、
永田さんのような人になれる可能性だって
あるんじゃないでしょうか。
 
(つづきます!)

2006-04-12-WED