山田玲司が語る、永田照喜治。 〜植物の声をひたすら聞く男〜
(C)山田玲司/「週刊ヤングサンデー」連載中

その6 江戸っ子を演じてみてごらん。

山田 糸井さんに取材させていただいたときは、
まるでお菓子の家にいるみたいでしたよ。
あれもおもしろい、これもおもしろい、
どこを食べてもおいしい。
あんな人も、まあ、めずらしいです。
糸井さんも、ここまでに
いろいろあった人ですからね。
ほぼ日 あんな、カッコいいふうに
描いていただいて、
「ほぼ日」スタッフはみんな、
感激して読みました。
山田 糸井さんの美学というものを見ていると、
「情けは人のためならず」
という言葉を思うんです。
人をよろこばせたら、必ず戻ってきます。

でも、みんなは、自分のやったことが
直接返ってくると思うから厄介なんですよ。
そうじゃなくて、
これがああなって、こうなって、
あいつのところへいって
それにオレは助けられているのかもしれない、
という、そのくらいわかりにくい
変形した長距離やわらかブーメランのような
返り方なんです。

あのね、ぼくは
人形町生まれの江戸っ子なんですけど、
やせがまんが大好きなんですよ。

ほぼ日 やせがまんが。
山田 もう、だっい好き!
腹が減ってるのに、
「オレは腹は減ってねぇからおめぇが食え」
と言うのが好きなんです。
江戸っ子って
金がないのにおごるんですよ。
「また、しょうがねぇな、カッコつけやがって」
「いいんだ、いいんだ」
あの「やせがまんの美学」を
もっと大事にしたらいいと
ぼくはこのごろ、思うんですよ。

「クレクレクレクレ、私を認めてクレ!」
という暮らしをしている人は、
まわりのエネルギーは吸うわ、
「どうせ私なんか」と言い出すわ、
タイヘンなんです。
これをどうにかする方法はないものか、と
ぼくはずっと考えていたんです。

ほぼ日 愛に飢えたスパイラルを解決するのが
やせがまんの美学、ということなんですね。
山田 「オレはいいからよぉ」
というのを、演じてみろ、と言いたい。
ほぼ日 まずは「演じる」から、なんですか。
山田 演じるといったって、苦しいと思います。
でも、そこをがんばって、
「オレなんか認められなくたっていいんだ、
 おめぇがすげえ!」
と言ってみろぃ。
ほぼ日 (山田さん、口調がどんどん江戸っ子に‥‥)
その文化は、たしかに、
考えてみると、なくなってますね。
山田 みんな、奪い合いですよね。
誰が儲かった、あっちが得した損した、
そんな話ばかりでしょ。そこに
「いや、オレがいちばん儲かってない!
って、よくねぇ?
「なんなら自分の取り分もおめぇにやるよ」
そんなふうに生きていく。
ほぼ日 しかしいま、そうしようとすると
いろんな危険が口を開けて
待ち受けている気がします‥‥。
山田 いやいや、
そんな大げさなことじゃなくていい、
ささいなことでいいんです。

しょうもない例でいうと、そうだな、
「ごちそうがこれだけあります、
 何個分しかありません、
 あんたの分はありません」
という状況のときに
「あ、オレはいらねぇや、
 さっき食ってきたからさ」
これくらいでいいんです。

ほぼ日 あ、そのくらい(笑)。
わかりました。
保証人になりまくる、とかではなくて。
山田 そういうんじゃない、そういうんじゃない。
言葉でいいんですよ。
「すごいね、かわいいね」
これだけでいいんです。
「愛情クレクレタコラ」の人は、それは言えない。
人をほめることができないんですよ。

いやんなっちゃうのは、
評価があがったら、今度は
ねたみもついてくるということなんです。
誰かが認めたら、
つぶしたがる連中も同様に現れる、
というこの生き方は、ぜったいに楽しくないよ!
リスペクトマン糸井重里の美学は、
このスパイラルを止める性質があるんです。


(C)山田玲司/「週刊ヤングサンデー」連載中
ほぼ日 リスペクトマンですか。
スペクトルマンみたいですね。
山田 リスペクトマンですよ。
「あれもいいぞ、これもいいぞ」
「あなたは?」といわれて
「いや、オレはいいからさ」
という糸井重里は、
やせがまんの美学の人ですよ。
人知れず、泣いている人ですよ。
ほぼ日 あの‥‥この若輩者が言うのは
なんなんですが、あれはつらい。
山田 あ、そう!
ほぼ日 あの休まないのは、何なんですか?
山田 あああ、糸井さんは、休まないね。
それは、使命感もあるんじゃないでしょうか。
他者とかかわるということは、
使命も帯びちゃうんですよ。
糸井さんがもしも小説家だったら
休めちゃうんでしょうけど、
リスペクトマンは休めない。
「お前何してんだよ」って
いろんなところから言われちゃうだろうし。
ほぼ日 そういう意味では、山田さんも
そんなことになってきていませんか。
山田 ‥‥そうなんですよ、
タイヘンなんです。
ほぼ日 止まれないですね、もう。
山田 止まれないです。
でも、窮地に追われると
盛り上がってくるので。
ほぼ日 もしかして‥‥
山田 マゾです。
逆境が好きです。
のっぴきならない状況で
アドレナリンがドバッと出ます。
そういう経験があると、エスカレートして
「だったら、もう一本受けちゃおうかな、
 やるよ、やるやる」
となるんです。
  (つづきます!)

2006-04-11-TUE