ありがとうが爆発する夜
矢沢永吉バースデー記念
スペシャルイベントまでの日々。

第12回
矢沢永吉49歳・糸井重里50歳
ありがとうが爆発する対談



8曲目
「10回は殺されてもおかしくはなかった」
矢沢: だけど、まあ、こういろいろ言ってきたわけだけども、
よく消されなかったよね。
まぁ、イトイなんかよく知ってるように、
もう堂々と言ってたもんね。
糸井: 要するに、
何回死んでもいいようなことをしてきてるよね。
矢沢: (笑)してきてるよね。
森進一さんがレコード大賞とったとき、
俺、ラジオ出てさ、
「なーんで森進一がレコード大賞よ?」
矢沢さん、どういう意味ですか?
「あんなもんテレビ局が裏で大ウソこいて、
だれかスターをつくりあげてるんだろぉ!」
って言ったわけよ。
矢沢さん、じゃあ誰だと思いますか?
「そりゃあ、井上陽水に決まってんじゃん。
“氷の世界”今100万枚売れてんだろ、
陽水にレコード大賞あげなきゃダメじゃん!」って。
「このラジオ聴いてる人に言いたいけど、
ホントにウソばっか、ウソばっかよ、
みんなセンズリこいてんだもん」。
それでおしまい。

そしたら、森進一さんのファンから
「なんてふざけたことしゃべらせてるんだ!」
って局に抗議の電話があって、
ディレクターからメモ渡された。
「あっ、今このラジオ聴いて、すぐに、
反論の電話がかかってきた。なんだ?
ふざけたことをべらべらしゃべらせるんじゃない?
オマエは許せん?
あ、こういうこと言ってきたらしい。
俺が言ってること事実だろ!
オメー電話でぐちゃぐちゃ言わないで、
ちょっといいから局まで来い!」
糸井: (笑)わっかりやすいなぁ。
矢沢: 「局まで来い! すぐ!」って、
「俺はいつでも受けてたってやるから、
事実俺が言ってること、筋とおってるんだから」って。
来ないよね。
糸井: 俺、今こういうシーン思い出したよ。
広島の会場かどこかで、演奏中に目の前で
お客さんどうしのケンカが起こったときに、
いっかい曲止めて、「ちょっとやめて!」って言って。
何事もなかったように、もう1回はじめたの覚えてない?
矢沢: いや、そんなのしょっちゅうあったよ。
糸井: あれやってるかぎりは、何も怖くないよねぇ。
矢沢: いやぁ、でも考えたら二度と出てこないと思うよ、
矢沢みたいなの。
糸井: だって、目の前で血流してるやつとかいたからねぇ。
あんな時代だったんだよぉ。
今のお客さんは、アベックでさ、
今日はデートだわ、みたいな感じだよね。
矢沢: 俺らが京都の円山公園でやったときは、あーた、
7人意識不明で倒れてさ、
救急車きたとき、ちょっとヤバイと思ったよ。
こん棒で頭殴ってんだもの。
糸井: それ、ステージから見てるわけ?
矢沢: お客さんいなくなったら、7人重体で倒れたままよ。
で、担架が来て。やっぱ会場拒否になるよね、
ああいうことばっかりやってると。
糸井: (笑)でも、エーちゃんのせいじゃないんだよなぁ。
矢沢: だからさぁ、今振り返ってみるとね、
やっぱり純粋だからできたのよ、純粋だから言えたのよ。
糸井: あと、やっぱりさぁ、
弱い立場だったんですよ、長いこと。
矢沢: そうだよ。
糸井: 大きい芸能界のなかの、
小さい島が戦ってるみたいな感じだから、
ちょっといろんなこと許されるんだよね。
やっぱ弱い側だったからね。
今はもうエーちゃんっていったらねぇ。
矢沢: そのとおりよ。
「あれは許せない!」「これどうよ? 納得できない!」
ってことが言えた立場だったんだよ。
今度は、矢沢のひとつひとつの発言が
やっぱり責任が出てくるでしょ。
だからねぇ、つらいよぉ。
糸井: そうだよね、創っていかなきゃならないからね。
矢沢: 立場が逆になった。
糸井: 今ちょうどさ、ルールがぜんぶ壊れて、
当時のルールに反発してた時代の矢沢がいて、
今は、エーちゃんがもしかしたら新しいルールを
ひとつずつ創っていくんじゃないかって感じが、
矢沢のところに話をききに行こうって流れに
なってるんじゃないですかね。
矢沢: 矢沢がバリバリ言ってたときには
なにも前例がなかったから、
いろんなエピソードが残っているんだけど。
ホントに今はそのとーりになったよね。
今のロックバンド、ニューバンドにしても、
ニューシンガーにしても、
オレが言ってたとーりになってきたよ。
本当に今はひらけてますよぉ。
ロック部門はひらけてますよ。
一攫千金夢じゃないっスよ、当たったら。
糸井: でも、エーちゃんさぁ、そうは言うけど、
長い時間もった人はいないよ、その後。
今の若い子がそれこそエーちゃんが言ったように、
反抗的な姿勢もとるし、いろんなことができる、
で、ここまで来たか、ってとこまでは行けるけど、
3年経ったときに、その人たちが
同じことやってるかなって考えてごらんよ。
いないよぉ。
矢沢: 考えたら28年ってすごいね。
5回殺されてもいいようなことあったから(笑)。
糸井: 「こいつは5回殺されてもよかった」って。
矢沢: でも、そういう書き方はあっていいと思うよ。
矢沢は本来だったら10回は死んでる、と。
糸井: (笑)増やした?
矢沢: 10回くらいあったと思うよ。
10回は消されてもおかしくない、事実そうだよ。
でも考えたら、
10回消されてもしょうがないくらいのことってのは、
やっぱ革命的なことだったんだよ。
それは誰かがやらなきゃいけないし。
自惚れじゃないけど、ある雑誌で言ったことあるよ。
俺は日本の芸能界には出現しなきゃいけない男だったって。
出なきゃ行けない男だった、ぜったいに。
糸井: 芸能界だけじゃないんじゃない。
今でもこの人の言うこと聞いてみたい
って思うミュージシャンって
そんなにないみたいじゃない。
矢沢: これが矢沢だったんだよね。
ぜんぶあの時につながってるじゃない。
俺、文化放送かどっかに初めて行ったときに、
「これが放送局か!」って。
向こうが「おはようございます!」って挨拶してきたとき、
俺ナメられてんのかなってマジで思ったのよ。
「あの、すいませんけど」
「はい?」
「夜は“こんばんわ”って言うんじゃないんですか?」
って言ったら向こうが「は?」って言ってて。
矢沢さん、ちょっと、こっちこっち、って。
「昼でも夜でも“おはよう”って言うんだよ
この世界の人は」って教えられて。
「あ、そうなの? バカにしたわけじゃないんだ。
あ、どうも、よろしくお願いします」なんてよぉ(笑)。
そっからぜんぶきてるんだよね。
糸井: 野武士だよね。
ひもで腰に刀しばってるようなオジサンだよね(笑)。
矢沢: 知らないんだもの、業界(笑)。
だから、ぜんぶ、そっから始まってるんだよ。
糸井: 「なんか変だな」っていうまんまで
そのまま生き抜いてきたんだよね(笑)。
矢沢: なんにも知らないくせに、
ナメられることは許せないみたいなさ、
「ナメられちゃいけない!」というのはあるんだけど、
知識なんにもないんだよね。
糸井: だけど、それに見合うだけの努力もちゃんとするじゃん。
矢沢: いや、それはね、矢沢、勘がいいのよ。
「あ、これちがう」ってことはパパッとやめる。
これはもともともってるもんなんだね。
ただ、あなた、根性だけじゃこられないですよ。
ススッ、ススッと変えるものは
意外と几帳面なんですよ。
(つづく)

1999-08-18-WED

YAZAWA
戻る