ありがとうが爆発する夜
矢沢永吉バースデー記念
スペシャルイベントまでの日々。

第13回
矢沢永吉49歳・糸井重里50歳
ありがとうが爆発する対談



9曲目
「ツッパってるだけじゃ虚しいぜ」
糸井: 思ったんだけど、
エーちゃんに“ツッパリ”ってタイトルは似合わないね。
“ツッパってるだけじゃ虚しいぜ”ってタイトルだね。
矢沢: あー、いいこと言うねぇ。
糸井: 当時、「成りあがり」の時代に
それこそツッパリだったわけじゃない、人から見たら。
あの本“ツッパリ”ってタイトルだったら、
一時的にはもっと売れたかもしれないよね。
でも、ツッパリってタイトルの人だったら倒れてるよね。
矢沢: 倒れてるよ、ホントだって。
ツッパるだけじゃ限度あるもん。
俺つくづく思うね、今28年やっててさ、
矢沢は根性でやってきたとか、
根性で俺はここまで来た、とか、そんなのウソだよ。
根性じゃ来られないって。
根性は、矢沢のひとつの背景であるし、
モチベーションだし、気持ちであるんだけど、
なんでここまで来たかって言ったら簡単だよ。
「ニューグランドホテル」「ラスト・シーン」を書ける
才能があったからよ。そりゃそうだよ。
「アイ・ラブ・ユー,OK 」を書けるからよ。
「A DAY」とか「親友」とか、
あのメロディを書けるものがなかったら、
ぜったいここまで来ないよ。
だけど、メディアから見るとさ、
ツッパリのほうが扱いやすいじゃん。
どうやら根性らしい、とかさ。
糸井: まとめたがるってのあるからね。
矢沢: そのほうがレッテル張りやすいじゃん。
なんか“反抗”みたいな。
広島のカッペが、東京タワーを見に出てきた、とか。
糸井: それはもう、自分で映画にして売ってた部分だから、
このへん写真撮っておいてよ、みたいなもんだから。
矢沢: やっぱりどっかで音楽をもうちょっと
背中合わせに入れときゃよかったよ(笑)。
糸井: (笑)今になって。
矢沢: “川崎の不良”みたいなイメージが
やりやすかったんだろうね。
4人組の川崎の電気楽団、とかさ。
でもね、それを入れながらも、
となりにちゃんと入れとけばよかった。
“才能もすごいらしい”ってのを
常につけてもらいたかったね。
“才能は深い”とかさ(笑)。
それがなかったから。
後からその紐解きをやるのがたいへんだったこと。
だからその後で「ちょっと待てよ」と。
もう「成りあがり」とか、不良、暴力、
そればっかりでレッテルはらないでよ、と。
俺のメロディーラインと、コード進行、
分解してみてよ、深いから、ってこと言っても、
聞いてくれなかったよ。

それで、なんかしらないけど最近やっとだよ、
「矢沢のメロディーは……」って言われるの。
いや、同じ業界のやつはとっくに知ってたよ。
俺がそれよくわかったのは、あのバンド……
ミスターチルドレン、ミスチルが本出したのよ。
「矢沢さんの名前がしょっちゅう出るので届けました」
って本屋が持ってきた。で、読んだ。ミスチル知ってるね。
矢沢のコード進行におけるなんとか、ってように、
しょっちゅう矢沢が出てくるわけ。
彼ら矢沢の音楽、ぜんぶ分解しちゃってるよ。
たとえば、Aマイナーからの転調は、
よく矢沢が使うんだけど、それはこうでこうで、とかさ。
糸井: なにより強いのは、エーちゃんはさ、
無理やり新しぶらないで、変化してきたでしょ。
それって勇気いるんだよね。
エーちゃんは、受け手に仕事させたよね。
矢沢: そうかもしれないね。
なんで「アリよさらば」が、ヘボなりの演技だけど、
あれなりに温かかったのか、とかさ。
俺の別な面が出てるよね。
そういや音楽、けっこういい曲書いてるんじゃないの?
メロディー、けっこうわるくないよね?
本読んでると、いちばん最初にアメリカ行って
外国人ミュージシャン連れてきたの矢沢さんじゃないの?
洋盤に近いことやったのあの人なんじゃないの? とか。
わかる?
ひとつずつ、ポロポロ出てきてるわけよ。

だから、ブラックだの、暴走族の教祖だの
レッテル張られてきたけれども、
そりゃそうだよ、言われるよ。
あれだけのこと、ラジオでばかばか言って、
芸能界クソ食らえって言ってたから。
あの人危ねぇ、みたいなこと言われるよ。
でも、そのスタンスがよかったのかもね。
なぜかって言ったら、ぜんぶわかりえないから。
「なんか不思議だ」って。
アイツ暴走族の教祖だったんじゃないの?
それにしちゃ、なんで「お受験」出てハマるの?
みたいなさ。
今になってみたら、ぜんぶオッケー。
気づいたら28年、オール現役よ!
糸井: エーちゃん、今まで1回も利口ぶらないんだよ。
「わかんないけど俺はこう思う」ってことだけ言ってる。
意見は言ってるけど、自分以上のことは言ってないんだよ。
矢沢: だから、まあ偶然なんだろうけども、
いろんなこと考えたら、最近自分のこと、
おもしろいなぁ、と思うよ。すーごくおもしろい。
糸井: 運もよかったのかもねぇ、見えないところでねぇ。
矢沢: 僕、誰かに言ったことあるけど、
ぜったい何かに守られてるんですよ。
なにかには守られてる。
しかし、俺たち元気だよね。
なぜかって言ったら、イトイにしても、矢沢にしても、
やっぱりどっかで純粋だもん。
純粋だし、どっかでドリームちゃんと忘れてないもん。
イトイにしても、矢沢にしてもホント冒されてませんよ。
ホントにまともですよ。
糸井: 両方ちゃんと気が弱いしね(笑)。
矢沢: そう、気弱いし……気弱いよぉホントに。
糸井: で、コツコツやるしね。
矢沢: 遊び心もってるし。
いや、でもまあ、ホントに矢沢の28年、
あと何年やるかわからないけど、おもしろいよねぇ。
(つづく)

1999-08-19-THU

YAZAWA
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