松本 |
あのですねぇ、なんでもそうなんですけど、
みんな、その、ファンになるっていうと、
とことんファンになるでしょ。
それが僕はいまいち納得できないところがあってね。
うーん……その人が好きやからって、
すべて認めてしまうっていうところがねぇ。
だから、なんでしょう、たとえば……。 |
糸井 |
競争になっちゃうんですよね。ファンってね。 |
松本 |
たとえば誰かミュージシャンのファンになると、
恰好までそうなっていって、
お客が並んでるの見ただけで、
誰のコンサートかだいたいわかってしまうという、
ああいうノリがねぇ、どうも納得できないというか、
ちょっと信じられない……。
特に個性みたいなものを歌ってるミュージシャンの
ファンが、そのミュージシャンと同じ恰好して
コンサート観にくるっていう発想がね、
僕はちょっと信じられないんですよね。
矢沢永吉っていう人はすごいと思うし、
もちろん好きなんですけども、
そういう意味で、僕はいわゆるファンというのとは、
ぜんぜんちがうんやろなぁ、って思いますね。
タオル持って行ったりするでしょ。
ああいうの、僕はちょっとないんですよね。
部屋にポスター貼ったりっていうのもないし(笑)。
車運転してるとき、しょっちゅう曲聴くかっていうと、
そういうことでも……たまに聴くくらいで。
ビデオも、レンタルビデオ屋でたまーに借りて観るかなぁ、
っていうくらいのことで、そんなにねぇ。 |
糸井 |
いや、いいんじゃないですか(笑)。
本当はそうなはずだと思うんだよ、好きってのは。 |
松本 |
本当はそうなはずなんですよね。 |
糸井 |
(笑)俺もそう思う。 |
|
松本 |
好きになり方が、僕は普通やと思ってますけど。
だから、巨人ファンとか見ててもねぇ、
それ「巨人ってなに?」って感じに
なってくるんですよね(笑)。 |
糸井 |
いや、俺もそれは知ってるのよ(笑)。 |
松本 |
(笑)ま、そうですよねぇ。
で、周りにも巨人ファンが多いんですけど、
そのへんのところで話をしだすと、
どーも結局こたえの得られんまま、
「もう好きやからええがな」っていうふうに
されてしまうんですよね。
で、「ああ、まあ俺はええねんけど」って(笑)。
だから、巨人の原形ってなんなんやろ?
「俺は長嶋が好きやから応援してる」
って人もいるんですけど、
「長嶋が監督してないときもアンタ、応援してたがな」
っていうのがあって、うーん、どうも、
巨人ってなんなんやろ? ってところがね。
僕はああいう“好きになり方”ができないんですよねぇ。 |
糸井 |
いや、それはね、実はね、
野球チームのファンでも
俺なんか典型的にそうなんだけど、
「なんで、どこが好きなの?」
って追求したくてしょうがないわけよ。
たとえば、駒田選手が巨人にいたのに、
今は横浜にいて、打ったりするじゃん。
そうすると、ものすごく憎らしいわけよ。
駒田込みで巨人好きだったはずなのに(笑)。 |
松本 |
(笑)そ、そうでしょ。 |
糸井 |
それとか、よそのチームにいた選手が巨人に来て打つと、
ものすごくいいわけ。 |
松本 |
うーん、そうなんですよ。
阪神ファンも、まあそうんなんですけど。 |
糸井 |
野村監督の受け入れ方だってさぁ(笑)。 |
松本 |
阪神っていう人がいてね、その人がいろんなとこから
女かこってきてヤリまくって、
その子供をぜんぶ野球選手に育てていって、
ぜんぶ阪神の選手になって、
阪神っていうひとつの血統ならね、わかるんですけど、
結局、原形はないんですよねぇ。 |
糸井 |
それ考えると袋小路なんだ、けっこう(笑)。 |
松本 |
そうですよ。
答えぜったい出ないですよね。
まあ人間ってそんなもんちゃう? っていう。 |
糸井 |
たぶんそれって、好きになる異性のタイプに
近いんじゃないかねぇ。なんやかんや言ってもさ、
最初に「好きかも」って思うのって顔じゃないですか。 |
松本 |
そうですね。 |
糸井 |
で、「案外いい子だった」って言ったって、
そこから恋愛にはならないんだよね。 |
松本 |
そうですね。 |
糸井 |
「好きかも」って言ったときには、
もうアプローチしてるわけだし、
好き嫌いのことって、「顔の鼻の位置が……」
とか言っても答えはないよねぇ。
生き物としてそういうことがあるんだろうなぁ。 |
松本 |
それに近いんでしょうねぇ。 |
糸井 |
それ、だけど俺同じこと実は思ってるんだけど、
表われ方はちがうんですよ。
あの、俺、頭の中では広島ファンなんだよ。 |
松本 |
あ、そうなんですか。
ややこしいですね。 |
糸井 |
大脳は広島ファンなのよ。
「このチームが理想だよ」とか言ってんの。
でも、広島対巨人になると、広島のピッチャー見て
「打たれろ!」と思ってんの。
だから分裂してるの、ものすごーく。
だから、人には「広島ファンです」なんて
言っちゃいけないですよね。
理念として広島が好きなんですよ。
広島って貧乏だし、地元の選手入れて育てて、
みんながコツコツよく走ったり……、
あれが大好きなんですよ。 |
松本 |
うーん、そうですねー。
僕は辰吉(丈一郎)が好きなんですけどね、
それは個人的なつきあいみたいなものもあって、
まとめて好きみたいなとこがあって。
だから、一般の人がスポーツ選手を
ものすごく好きになるとかいうのがね、
いまいちわからないんですよね。 |
糸井 |
辰吉ってやっぱりおもしろいよねぇ。 |
松本 |
おもしろいですねぇ。
まあ別に、このことで語ってもしょうがないんですけど。
なんかもう“見えないベルト”をつかんでしまってねぇ。
チャンピオンベルト欲しくて
ボクサーはみんなやってるんでしょうけど、
彼は自分で知らないうちに、どこかのところで
見えないベルトをね、巻いてしまったなぁ
っていう感じがするんですよね。
だからもう別にチャンピオンじゃなくてもいいし、
本人はもちろんそれにこだわってるんでしょうけど、
僕らはもういいでしょう。 |
糸井 |
こないだの試合(対ウィラポン戦)が典型的だったよね。 |
松本 |
試合に負けてもベルトはずっとしてるんですよね。
“見えないベルト”ですよね。
なにベルトだか知りませんけども。
だから、すごい魅力ですよねぇ。 |
糸井 |
ぜったい計算どおりじゃないセリフはくしね。 |
松本 |
(笑)でも結果的にオッケーなんですよね。 |
糸井 |
オッケーなんだよ。
親父のガウンはおどろいたなぁ。 |
松本 |
そうなんですよ(笑)。
普通あんなんしたらね、
「オマエなぁ」ってなるんですけど、
もうオッケーなんですよねぇ。
|
|
糸井 |
辰吉って一見天才タイプに見えるけど、
実は秀才なのかもね。
生活人としては天才タイプだけど、
ボクシングに関しては秀才なのかもねぇ。
いろんなハンデ背負ってるし。 |
松本 |
うーん、そうなのかもわからないですねぇ。 |
糸井 |
それって、松ちゃんに似てるよね、パターンとして。
「ハンデあってもやる方法をワシは考えんねん!」
っていうさ。 |
松本 |
そうですねぇ。
ちょっと他人とは思えない部分もありますね。 |
糸井 |
あと、目に見えるベルト関係ないしね。
あくまで“俺のベルト”だから。 |
松本 |
俺のベルトやから。 |
糸井 |
そういう話聞くとね、永ちゃんって似てますよ。
みんなが誤解してるのは、永ちゃんのことを、
「やっぱりあんな人は2度と生まれてこない」みたいに、
特別な生まれをした特別な人として見ているけれど、
やっぱり秀才タイプですよ、本当は。
努力の人だし。
要するに「どんな細かいことでも、
ぜんぶ潰していけば、ここに立てる」
みたいなことを考えて実行するタイプですよ。
決していわゆる強気だけの人じゃないですし……。
(つづく) |