糸井 |
最近、吉本隆明さんとの対談で吉本さんが言ってたのは、
文学者で天才タイプは志賀直哉なんだけど、
そういう人って長続きしないんだって。
で、この人は才能ないよ、って人が生き残ってるんだって。
同じことをスポーツの
トレーニングコーチからも聞いた。
才能のある人でオリンピック出てる人はいないって。 |
松本 |
うーん……。 |
糸井 |
ちょっとインパクトあるでしょ。
たぶん才能のある人って、お笑いの世界にも
たくさんいたと思うし、松本さんって人が
本当に天分の才能があるのかって言ったら、
ちがうと思うんですよ。
要するに、自分に足りない部分を俺はどうするかって
考えて戦ってきたという。
それをやっていったら、
「俺は才能がある」と言ってた顔が
面白くてウケてた人は、
あきられておしまいになるけど、
松本さんは、俺はここが足りないからってところを
やってなんとかしてきた、そう見えるんだけど……。 |
松本 |
いや〜、そうなんですかねぇ。 |
糸井 |
いや、わからないですよぉ。 |
松本 |
僕にもわからないですけどねぇ。 |
糸井 |
あきらかにできるっていう人で
オリンピックに行く人はいないんだって。
2番目、3番目あたりで、
1番の人に勝とうとした人が
金メダルとるんだって。意外でしょ。 |
松本 |
うーん、意外ですけど……、
なんとなくそうかもしれんなぁってところで
納得のしかたはありますねぇ。 |
糸井 |
結局、天才は自分になにが足りないか考えないんだって。
……この話もちょっとレズビアン化するよね。
「いったい、いつイクんだ?」って。 |
松本 |
(笑)ああ、なるほど、そういうことですね。 |
糸井 |
終わりがない。
じじいになっても永遠に結末がないんじゃないの。
もう引退した榎本って野球選手がいて、
この人は引退して10年くらい経ってるときに、
まだ素振りしてたらしい(笑)。
明らかにヘンな人なんだけど、
ものすごくいい成績で引退してるんですよ。
だけど、引退した後もまだ練習してた。 |
|
松本 |
ただその、天才って……、
わかりませんけど、天才は金メダルを
あんまり目指してないのかなぁー、というね。
金メダルを到達点と考えるのは、
しょせん多くの人のなかのひとりというか、
天才はそれを目指してないのかもしれんな、
と思ったりもしてるんですよ。 |
糸井 |
ああ、なるほどねぇ。
いちばんズルイやり方は、
早く勝って早く死ぬことだよね。
これは永遠になるんですよね。
ジミー・ヘンドリックスですよね。 |
松本 |
それはそうですね。
もしくは、百恵ちゃんみたいになるしかないですよね。 |
糸井 |
だから、もしかしたら天才って、
終わりにするタイミング次第なのかもしれない。 |
松本 |
それがうまいのか、恵まれてるというのか。
うーん……。 |
糸井 |
ジョン・レノンが生きてて、今でもバンドやってたら、
商業的にはラルク・アン・シエルとかグレイに
負けると思うんだよ(笑)。 |
松本 |
(笑)うん、そうかもしれないですね。 |
糸井 |
商業的には、ただのバンドの人になっちゃうでしょ。
そういうことなんじゃないかと思うんですよね。
でも、そういう意味では、現役長い人ってのは
無条件で尊敬しちゃうの、俺。
ま、やり方しだいですが。
天才か秀才かを分けるのって、
やっぱその加減なんじゃないかって思うよ。
だから、松ちゃん今死ぬと天才よ。
そういう片鱗は見えてるわけだし、
秀才がぴょんぴょんジャンプしてる姿ってのも
あるわけだし。たぶん、そうだよ。
もう、血からちがうみたいな人たまにいるじゃない。
アメリカで10歳で大学卒業したみたいな人。
あれってある意味で上に吹きこぼれた人ですよ。
落ちこぼれの逆の、吹きこぼれですよ。
あの子は大統領になりたいって言ってるらしいけど、
はたしてあの子の経験とか、
どんなこと考えるかっていうことは、
俺、本でわかると思うんだよ。
仮に、彼が10歳で大統領になったとしたら、
「こういうことするだろうな」って
図面書けると思うんだけど、
68歳までホームレスやってましたという人が、
もし大統領になったら、計算できないですよ。
そっちの、生き抜いてきた力のほうが、
本当はすごいんじゃないかな。 |
松本 |
ああ。いや、僕もねぇ、そのへんのねぇ、
天才とかねぇ、そういうことについては
いろいろ考えるんですよ。
「なんで俺はそんなこと考えんねん」と思いながら。
夜考えて、寝られなくなったりもするんですけどねぇ。
いや、だから永ちゃんっていう人も……。 |
糸井 |
きっと自分の一部分が永ちゃんに反応してるわけだよね。 |
松本 |
反応してますねぇ。 |
糸井 |
それが僕は普通のことだと思うんだよ。
で、反応してる自分を全部にして表現したほうが、
近所でモテたりする人は、
全部にしちゃうんだと思うんだよ。
つまり「永ちゃーん!」って言って泣いてる人が、
家に帰ってきて彼女にさ、
「俺はさぁ、絶対やってみせるから!」って言うと、
永ちゃんがその人にダブるじゃないですか。
それはそれで、そういう生き方はあるってことはわかる。 |
松本 |
そうですね。
僕は矢沢永吉という人は好きやし、
尊敬もするし、ものすごく認めてるし、
でも、あの人のある部分をパーツとして
ひとつ取り入れただけであってね、
全部を取り入れるとそれはちがうし。 |
糸井 |
取り入れる部分がなにか
っていうのがわかればいいわけだ。 |
|
松本 |
でね、僕が矢沢永吉という人を好きになったのは
周りから考えると意外と遅いんですよ。
みんなは中学か高校で完全にハマって。
僕はその当時はぜんぜん
そんな感じじゃなかったんですよ。
で、本当にけっこうコンサート行ったり、
CDも聴くようになったのは、
自分がデビュー後の25歳くらいですね。なぜか。
それで、その間いろいろ取材されたりとかすると、
特に今よりもかなり言うてましたよね、
ガンガン言ってましたからねぇ。
「ほかのヤツはアホや」と、
「俺以外はボケなんておらへん」
みたいなことも言うてました。 |
糸井 |
今も言ってるけどねぇ(笑)。 |
松本 |
ま、言うてるんですけど。
で、けっこう言ってきて、
矢沢さんのビデオを観るようになると、
ものすごくかぶってることに気づいて、
まったく同じようなことも言ってるんですよ。
「芸能界にはいつまでもぶら下がるな」
みたいなことをね。
「いつまでも、形かえてまで生き残ろうとするほど
素敵な世界じゃないぞ」みたいなことをね。
あっれぇー? と思うて。
これは、矢沢永吉ファンが聞いたら、
「松本は昔からものすごい矢沢ファンで、
矢沢さんが言ってきたこととかを
ビデオでいっぱい観て、かなり真似とるな」
って思われるんちゃうかって思うと、
それがすごくいややったんですよ。
いややったというか……。 |
糸井 |
それは今回発表したほうがいいね。あえてね(笑)。 |
松本 |
「あ、俺みたいな考え方の人がいるんや!」ってことが
ものすごく衝撃的やったし、
それが矢沢永吉やったというのもすごく衝撃で、
「ああ、この人ってものすごく俺に近いところと
一緒のとこにおるなぁー」って思ってね、
で、聞いたら、
あんまり関係ないんかもわからないですけど、
乙女座のB型なんですよね。 |
糸井 |
関係あるのかなぁ? |
松本 |
関係あるのかなぁ? 僕もそうなんですよね。 |
糸井 |
じゃ、今月誕生日なの? |
松本 |
えー、一昨日でした。
で、やっぱそういうの関係あんのかなぁ。 |
糸井 |
俺は外から見てると、影響受けたっていうふうには
思わないんだけど、同じタイプだなって思う。 |
松本 |
ああ、それはすごくうれしいんです。
(つづく) |