第5回 宮崎駿さんが大好きでした。
糸井 美代子さんは、
年に5、6本が観ない方だとして、
よく観ていたときっていうのは、
いつ頃が最後ですか? 一番観ていたのは。
淀川 観ていたときは、1980年代ですね。
もう随分前ですね。
糸井 何の頃ですか?
「燃えよドラゴン」とかああいう時代かな?
そんな前じゃないか‥‥
(「燃えよドラゴン」は1973年公開です。)
「スター・ウォーズ」あたり?
(「スター・ウォーズ」は1977年公開です。)
淀川 「スター・ウォーズ」は観ましたけれど、
わたし、あんまり好きではないです。
糸井 はい、あのへんから
絵コンテ上で作った世界を
再現するっていう映画の作り方に
なっていきましたよね。
淀川 そうですね、あと、叔父が言ってたのは、
アメリカ映画はCGが主流だけれど、
あれは絶対映画の力をなくす、なくすって。
今、アメリカ、全部それですもんね。
全部、CGで。
糸井 時々だからそうじゃないものが出て来ると、
わざと意識的にやってるんだなあって
いうことを思いますね。
結局絵コンテで構図から何から
全部決めといて、
それに合わせて舞台やら人やら組んで。
だから、俳優さんがアニメーションの
出演者みたいな演技に近づいてる。
淀川 でも黒澤明先生はそうですね。
糸井 もともと、そうですね。
淀川 黒澤びいきだったんですよ、叔父は。
ものすごく。どんなものも認めちゃって。
糸井 どんなものも(笑)。
分かるんでしょうね、きっと、
その気持ちがわかっちゃうんでしょうね。
淀川 あと宮崎駿さんのアニメ。
あれもすっごい好きでした。
糸井 同じですもんね。
淀川 あ、そうなんですね。
糸井 黒澤さんが絵コンテができたときに
映画が完成してたっていうのと、
宮崎さんの絵コンテが
できたときっていうのは
同じじゃないかなと思いますよ。
‥‥ぼくは宮崎さんと
仕事をしてるものですから、
絵コンテができた分だけ
送られてくるんですよね。
そうするとそこにもう
絵が全部入ってるんですよ。
おそらく黒澤さんは
それを実写で回すんです。
淀川 「風の谷のナウシカ」、わたしは衝撃的で、
まだ観ていなかった叔父に奨めたんです。
「やっぱりアニメーションはねー‥‥」
とかって言ってたのに、観たら、
あたかも先に自分が見つけたかのように
言うんですよ、気がついたら。
もうぼくはもっと前から知ってたみたいな。
その後、ナウシカ以降かなと思います、
宮崎さんの作品を全部観て、
もう大好きになっちゃったんです。
「となりのトトロ」なんてすごい好きでした。
糸井 そうですか! なるほどな。
アニメーターっていうのは
絵コンテがおおもとですから、
黒澤映画の影響を受けた人たちが今、
アメリカで、CGを使うんで、
もちょっと面白い方法を
あみだしたりしていますよね。
で、逆にそっち使わないぞって
強い意志を持っている人たちも
多分いるんだと思うんですけど、
それはヨーロッパですね。
淀川 そうです、ヨーロッパの人は
なかなかCGを使いたがらない。
糸井 ヨーロッパは何か舞台の再現に
近いような発想で、
客席からあんまり目線を
動かさせないみたいな、
そんな印象がありますね。
淀川さん、一番、お好きだったのは?
淀川 わたしですか?
糸井 ええ。
淀川 昔の映画になっちゃうんですけど、
生涯に2本好きなのがあるんですよ。
それもいっくら、もう、
どんなにいい映画ができてきても
それだけは好きっていうのが、
「シェルブールの雨傘」
「冒険者たち」なんですけど、
ご覧になってないですよね?
糸井 観てないですね。
ヨーロッパ映画でしたか。
淀川 絶対お奨めです。
糸井 今みたらいいかもしんないな。じゃ。
淀川 もう「シェルブールの雨傘」なんて
全部歌なんですよね。
カトリーヌ・ドヌーヴで、
それがオペラでもなくて、
日常の会話が歌っていう、
後にも先にもあれ一本ですよね、
ああいう映画は。それで、ちょっと、
わたしがそれはもうすごく
若い時だったのに、もう信じられない、
この世界、みたいな感じで、
衝撃的だったんですよ。
‥‥別にレベルの高い映画じゃ
ないんですよ。
糸井 いや、みんなに受けていましたよね。
歌は覚えてます。ラララ‥‥♪
淀川 そうです(笑)。
ラストシーンがいいんですよ。
糸井 観ます!
淀川 観てくださいよ。
ラストシーンが、ガソリンスタンドに
雪がばーって降ってきて、
それをカメラがぐーっと引いて行くと、
その世界だけがSF映画みたいに、
ばーっと展開されて
もう涙なしでは観られないんです。
もう、わたし、泣きたいっていうときは、
必ず観てたんです、それ。
ビデオで持ってたんだけど、
引っ越しのときに、新しい機械は、
ビデオが見られないんだと思って、
みんな、捨てちゃったんですよ。
糸井 DVDで買い直せるといいですね。
「冒険者たち」っていうのは
アラン・ドロンですよね。
淀川 アラン・ドロンです。
糸井 これも観てないです‥‥。
淀川 いいですよ、すごく。
もう何とも言えない雰囲気。
もちろんほかにいい映画、
いっぱいありますよ。
でもこの2本は、わたし的には、
生涯の2本なんです。
糸井 そういうのを今、掘り出したくて
しょうがない時期なんですね、ぼく。
新しいものを、新しいぞって
紹介するのはもう、
誰かに任せておけばいいんで、
埋もれちゃってるのをこう
(磨くしぐさ)やっただけで
ぴっかぴか光るっていうのは
嬉しいですよね。
淀川 でももしね、もしかしたら
今の若い人とかは、
「シェルブールの雨傘」とか
「冒険者たち」とか観ると、
何かイライラするんじゃないですかね。
だって今の、当たってる日本映画って‥‥
糸井 劇画ですからね。
淀川 でもそういうのが好きなんですよね、
きっと。テレビの影響で。
糸井 ぼく、その気持ちがね、分かんないんで、
できたら行ったり来たりしてみたいもんだと
思うんですけど。
  (つづきます)
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テレビ朝日の「日曜洋画劇場」放映40周年を記念して
製作・販売されたDVDです。
本編に、淀川長治さんの映画解説50本を収録。
それぞれ、番組の最初と最後に放映されたコメントが
おたのしみいただけます。
特典映像として、現存するいちばん古い録画と、
淀川さんの最後の収録となった映像を収録しています。

【タイトルライナップ】

・荒野の用心棒
・史上最大の作戦
・燃えよドラゴン
・ローマの休日
・旅情
・ダーティハリー
・サイコ
・激突!
・ミクロの決死圏
・ハリーとトント
・オリエント急行殺人事件
・暗くなるまで待って
・戦争と平和
・アラビアのロレンス
・サタデー・ナイト・フイーバー
・ベン・ハー
・2001年・宇宙の旅
・シェーン
・エデンの東
・俺たちに明日はない
・ファール・プレイ
・がんばれ!ベア−ズ
・ゲッタウェイ
・ある愛の詩
・アメリカン・グラフィティ
・天国から来たチャンピオン
・スーパーマン


・ゴッドファーザーPART II
・JAWS・ジョーズ
・戦場のメリークリスマス
・普通の人々
・タワーリング・インフェルノ
・アマデウス
・めまい
・キングコング
・プロジェクトA
・ワンス・アポン・ア・タイム・
  イン・アメリカ
・ゴーストバスターズ
・007/ネバーセイ・
  ネバーアゲイン
・スター・ウォーズ・
  ジェダイの復讐
・刑事ジョン・ブック
・ダイ・ハード
・スティング
・羊たちの沈黙
・逃亡者
・シザーハンズ
・レイダース・失われたアーク
・王子と踊子
・ターミネーター
・バック・トゥ・ザ・
  フューチャー PART2
≪映像特典≫
・大いなる西部
・ラストマン・スタンディング
 
 
上映時間が長い映画もあれば短いのもあるわけですが、
番組の時間枠はある程度決まっていますから、
映画が短いときには解説の時間が長くなるんです。
淀川さんがいっぱいしゃべらなくちゃならない。
「エマニエル夫人」がそうでしたねぇ。
ほら、そういう映画ですから、
どうしてもテレビではカットせざるをえなくて、
だいぶ短くなっちゃった(笑)。
実は「エマニエル夫人」は僕が入社する前の放送で、
現場にはいなかったんですけど、
視聴者としてよく覚えてるんです。
9時から番組がはじまって、9時10分過ぎても
まだ淀川さんがしゃべってる(笑)。
入社後にきいたら「あれはたいへんだった」と。
淀川さんは、解説の長さも
考えなければならなかったんですね。
 
最初の解説のしめくくりに必ず、
これはアメリカ映画またはイギリス
あるいはフランスの製作と紹介しておりますが、
タイトルからファーストシーン20秒、このあたりで
「ああフランスらしいぞ」とか
「イギリス・ムードだよなァ」というふうに
お気づきになれば、
もうアナタはいっぱしの映画通ですよ。
一度試してみてください。
これも見方の一つの勉強です。
映画には必ずといっていいほど
食事風景が出てまいります。
そのときアメリカの中流家庭の
朝の食事はこうなのかとか、
朝食にはよくフレンチトーストを
ママがテーブルに運んでくるなァとか、
ジュースはほとんどオレンジジュースだなァとか、
あちらの食事風景を見て楽しむのも
見方の一つと申せます。
スープの飲み方やパンにバターをナイフでつける
そのつけ方も、もうよくわかっているようで、
映画の外人のそのやり方を見ますと、
なるほどなあと思って
食事のマナーの勉強になりますね。
アメリカの映画の中の食事といえば、
若者がよくスナックでハンバーガーをたべている
シーンが出てきますが、
そのハンバーガーやあるいはホットドッグを見て、
日本のより大きいなァとかとおもしろがるのも、
小さなことながら
アメリカ勉強の一つともいえるでしょう。
映画を楽しくおもしろく見る方法は
いくらでもありますよね。
かつて見た懐かしい名作がテレビで放映されたとき、
いったいどれくらいその各シーンを覚えているか、
試してごらんなさい。
意外にも見落としているシーンが多いのに
あらためて驚かれるでありましょう。
こんなシーンがあったのかと発見する楽しみも、
自分の記憶力のテストにもなるものです。
 
2007-08-17-FRI
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