淀川 |
わたし、『アンアン』の仕事してたとき、
すっごく忙しくて、映画観る機会が
なくなっちゃったんですけど、
そのとき叔父にいっつも言われてました。
「もっと映画観ないといけない」って。
「映画観ないと人生、損する、損する」
っていう感じで、
叔父は人格者だったとは
とても思えませんが、
やっぱり映画を観ると、
いろんな生活とかも
経験できるんじゃないか、ということを、
小さい頃からいつも言われていました。
「映画を観れば英語を覚えられる」
「映画を観れば何でも覚えられる」って。 |
糸井 |
ぼくが今、
急にそんな気持ちになってきているんです。
ぼく、映画をあんまり観ない人間でした。
普通には、観てるんですけど、
映画ファンが苦手だったんです。
つまりひけらかし合いの場面に立ち会うと、
勘弁してくれよってなっちゃって。
お前が作ったわけじゃないだろって。
若い頃ね。 |
淀川 |
分かりますよ、すごく、 |
糸井 |
で、自慢のし合いみたいなところには
あまりいたくないんで、
文学少年だの映画少年だのって
好きじゃなかったんです。
で、敬遠してたつもりなんですけど、
家のテレビが大きくなったでしょう。
で、今、急にまた観始めたんです。
そういうふうに観始めたら、何がいいって、
映画はあの、しょうがない人と、
でたらめに満ちてるんですね。 |
淀川 |
(笑)。 |
糸井 |
つまり、美代子さんも、
いろんな人に会ってると思うんですけど、
経営者の人たちの略歴のところ、
みんな、工学部なんですよ、今。
理科系の人が社長をやってる
会社ばっかりになったんですよ。 |
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淀川 |
うーん! |
糸井 |
そうするとね、理路整然としてるんですね。
人に説明できることを、
理屈に合ったようにやれる人が
上手い戦略を立てて上手くいった話が
今の世の中なんです。
するとね、そんなもんじゃないだろうって
気分があるんですね。
で、映画を観ると、もうそんな要素、
全くないですから。
特に昔の映画なんて、
それは無理だろうっていうことばっかり。
で、そっちの方に
人間全体のボディというか、
人間ってそこにあるものじゃないかなって。 |
淀川 |
本来はね。 |
糸井 |
うん。で、優等生ぶって理路整然としたり、
合理性とか整合性とかっていうのを
求めるっていうのは、
何かに都合がいいからそうするだけで、
ほんとは違うんじゃないの?
っていう気分がずーっとあったんですけど、
映画観てると、そこが癒されるんです。 |
淀川 |
やっぱりいろんな意味で
映画に癒されますね。 |
糸井 |
癒されますね。 |
淀川 |
観ないといけない、毎年、毎年、
今年こそ観るぞ、って言いながらも
観ないで‥‥。 |
糸井 |
その観ると観ないの違いは
どのくらいですか、本数で言うと? |
淀川 |
観ないときは年に5、6本ですよね。 |
糸井 |
あ、ぼくぐらいになっちゃうわけですね。 |
淀川 |
はい。 |
糸井 |
で、家でもですか? |
|
淀川 |
あ、何か、わたし、DVDって‥‥。 |
糸井 |
だめなんですか。 |
淀川 |
操作のしかたが分かんないんです。
このDVDを観るので、
ようやく覚えたんです。 |
糸井 |
よかったですね。 |
淀川 |
観るようにします。
でも何かDVDで映画観るんだったら
劇場に行きたいなっていう気持ちもあって。 |
糸井 |
上映館が思ったより
こっちの都合には
合わせてくれないんですよ。
ぼく、前橋っていうところにいたんですが、
よいしょと意気込むと100キロ離れてる
東京に映画を観に来られるんです。
で、田舎にいると、東京ってどんな映画も
全部やってると思い込んでいたんです。 |
淀川 |
(笑)。 |
糸井 |
でも実はそんなことなくって。
ネットで調べられる今と違いますから、
「あ、やってなかった!」ってことが
高校生のときにあって。
で、映画って追っかけきれるもんじゃ
ないんだなって思ったんです。
大学で東京に来たら来たで、
ゴダールの「気狂いピエロ」を
何回観たか、みたいな自慢のし合いに
巻き込まれるのもいやだったし。 |
淀川 |
そう、昔は何回観たかって、
みんな、言い合っていましたね。
「ウエスト・サイド物語」
何回観たかとか。 |
糸井 |
「ウエスト・サイド物語」は、でも、
何回も観るっていう理由、分かりますね。
ちょっと踊りとか好きだったら、
どうやってるんだろうって思うだけでも
愉快です。
ぼく、最近観ましたよ。
ものすごく新鮮でした。 |
淀川 |
そうですか、また観たいですね。 |
糸井 |
あとね、色に対する感覚が、
アメリカのあの時代の
希望に満ちてるんですよね。 |
淀川 |
うん、うん。 |
糸井 |
ストリート映画の走りじゃないですか。 |
淀川 |
そうですね。 |
糸井 |
道という場所で、
どうやって若い人が育っていくかみたいな。
で、あの後にたとえばパンクの
ムーブメントだとか、
ブレイクダンスなんとかっていうのに
つながると思うんで、
いつでも体を動かすって
道から始まってるんだなとか。 |
淀川 |
でも「ウエスト・サイド物語」は暗いですね。 |
糸井 |
暗い。ほんとはそうです。
だってやっぱりお話は悲しいんですよ。
で、そこが、映像として
むやみに明るいんですよね。
多分、チームの中で
全体のバランスを取ってたんでしょうね。
ディズニーの中に「白雪姫」みたいな
暗い話がある一方で、
ミッキーマウスが飛んだり跳ねたり、
っていうのと同じように、
アメリカっていつでも闇の部分を
入れざるを得ないっていう、
面白いところがありますね。
大型テレビのおかげで、
昔の映画少年じゃない見方が
できるようになりました。 |
淀川 |
そうですね。
映画館のように画面が大きくないと
つまんないなと思ってたんですけども、
でもいいですね。 |
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(つづきます) |