第3回 あの解説は、映画1本分の価値。
糸井 淀川長治さんが「日曜洋画劇場」で
活躍なさっていた当時も
言われてたことなんですけど、
今あらためて驚くのは、
観てるお客さん全部に届くように、
っていう解説の仕方を、
なさってることなんです。
あの加減がやっぱり、ぼくらの目標ですね。
淀川 うーん、ただ、どんな映画でも
褒めるってよく言われてるんですけど‥‥。
糸井 や、そんなことないですよね?
やっぱり褒め方に差がありますよね。
淀川 そう。それとかテレビじゃないところで
喋ってるのは、違うんです。
糸井 二重の映画評論を
いつもなさってるんですね、きっと。
淀川 そうですね。
糸井 決して嘘をついてない。
つまり、大勢に分かるようにって
いうことだからって
迎合してるんじゃなくって、
だったらこの部分を伝えようとか。
ぼくは自分でちょっと文章で
書いたことがあるんですけど、
異文化がぶつかるときって
低いところで出会うぐらいの意志がないと、
結局のところ、俺たちのがすごいぞって
言い合っておしまいになっちゃう。
だからちょっと低いところで
少し我慢するぐらいで
握手しちゃうっていうのが
大事じゃないかっていうのを、
年取ってから思ったんです。
だから淀川長治さんがなさってた
テレビの解説っていうのは、
低いからといって、曲げてないんですよ。
淀川 そうですね。あと、今、
テレビで映画の解説って
なくなりましたね。
こういう人がいなくなったっていうせいも
あるかもしれないですけど。
糸井 この人がいなくなったのは
大きいかもしれないですね。
淀川 前はいろんな人が解説していましたけれど。
糸井 淀川長治さんのようにできた人は
ぼくが思うには、やっぱりいないですね。
淀川 そうです‥‥ね。
映画評論でわたしが信用しているのは
中野翠さん、今野雄二さんかな。
糸井 中野さん、ぼく、落語の評論
素晴らしいと思うんです。
で、どれも仕事になってないっていうか、
たまたまその原稿として書いたみたいな
感じがするんですね。
落語で古今亭志ん朝さんを書いてるのを
読んで、「俺が思ってたことだ!」って
初めて思いました。嬉しかった。
淀川 そうですか。歌舞伎や落語とかもね、
すごく造詣が深いかたですよね。
糸井 歌舞伎は、ぼくは、
あの人のがどれだけ素晴らしいかって
いうのを言えるほど、
ちゃんと観てないんですけど、
落語はすごいですね。
何だろう、それもひけらかすところがなく
書けるのが、うん、すばらしいんです。
淀川 そうですね。
糸井 今野雄二さんも、ぼくはたまたま、
「ファイトクラブ」っていう映画が
面白いっていう、雑誌の企画があって、
しゃべる機会があったんです。
お会いしたらとっても面白かった。
ただ文章は読んでいないんです。
淀川 うん、話は面白いですね。
ただ文章は難しすぎて!
糸井 難しすぎますか。そうか。
そういう意味でも淀川長治さんの喋りって
ほんとうにすごいですよね。
ぼくはこのDVDを、
どのくらい面白いか知らないでかけて、
最初のほうの「旅情」っていう映画の解説で
やられちゃいました(笑)。
淀川 「旅情」! わたしも、もう一回
観たいと思いました。
あれ、いいですよ。
うちの母も「旅情」が大好きで、
キャサリン・ヘプバーンもすっごく素敵で。
そして昨日、改めてこのDVDを観て
もう一回観なくちゃと思って。
糸井 観たくなりますよね。
あの解説で、映画一本観たのと同じぐらい
嬉しい気持ちになるんですよ。
淀川長治さんって、いい感じで
感情っていうのを、こう、
溶かし込んで入れてるんですね。
「バカですねー、あのイタリア男!」
とか言いながら。
淀川 すごく、何かほんとに
切ない映画でしたよ。
糸井 観たいなぁ。
ぼくは一度も観たことがないんです、
「旅情」。
淀川 糸井さん、このDVD
『淀川長治の名画解説』
どこで見つけられたんですか?
宣伝しないから、
誰も知らないんじゃないかな、
って思ってました。
糸井 どうして知ったのか思いだせないんですが、
買ったのはアマゾンです。
もしかしたら、「淀川長治」っていう
キーワードで検索したんじゃなかったかな。
淀川 それで、買ってくださったんですね、
でもほら、ここで解説している映画、
あまり観られてないんじゃないかな。
若い人たちは。
糸井 そうでしょうね。
逆に言えばここに出てる映画の本編と
淀川長治さんの解説をセットにして
どうぞっていうDVDがあったら
ほしいですよね。
「淀長全集」みたいなね。
淀川 そうですよね、やってほしいですよね。
糸井 美代子さんは
映画コレクターではないんですか。
淀川 映画の? 全然!
コレクターじゃないですよ。
糸井 観ては忘れていく?
淀川 そうです。
でも一応ここに解説があるのは
全部観ていますよ。
糸井 いいなあ!
  (つづきます)
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テレビ朝日の「日曜洋画劇場」放映40周年を記念して
製作・販売されたDVDです。
本編に、淀川長治さんの映画解説50本を収録。
それぞれ、番組の最初と最後に放映されたコメントが
おたのしみいただけます。
特典映像として、現存するいちばん古い録画と、
淀川さんの最後の収録となった映像を収録しています。

【タイトルライナップ】

・荒野の用心棒
・史上最大の作戦
・燃えよドラゴン
・ローマの休日
・旅情
・ダーティハリー
・サイコ
・激突!
・ミクロの決死圏
・ハリーとトント
・オリエント急行殺人事件
・暗くなるまで待って
・戦争と平和
・アラビアのロレンス
・サタデー・ナイト・フイーバー
・ベン・ハー
・2001年・宇宙の旅
・シェーン
・エデンの東
・俺たちに明日はない
・ファール・プレイ
・がんばれ!ベア−ズ
・ゲッタウェイ
・ある愛の詩
・アメリカン・グラフィティ
・天国から来たチャンピオン
・スーパーマン


・ゴッドファーザーPART II
・JAWS・ジョーズ
・戦場のメリークリスマス
・普通の人々
・タワーリング・インフェルノ
・アマデウス
・めまい
・キングコング
・プロジェクトA
・ワンス・アポン・ア・タイム・
  イン・アメリカ
・ゴーストバスターズ
・007/ネバーセイ・
  ネバーアゲイン
・スター・ウォーズ・
  ジェダイの復讐
・刑事ジョン・ブック
・ダイ・ハード
・スティング
・羊たちの沈黙
・逃亡者
・シザーハンズ
・レイダース・失われたアーク
・王子と踊子
・ターミネーター
・バック・トゥ・ザ・
  フューチャー PART2
≪映像特典≫
・大いなる西部
・ラストマン・スタンディング
 
 
どういう解説にしようかっていうのは、
わりとスタッフみんなで話し合って決めてました。
とはいえ、ほとんどの場合、
淀川さんが書いた原稿からはじまる話し合いでしたけど。
「こんなの書いてきたよ」って、
紙をぱーっとひろげて、
「読みます」って、やりはじめるんです、解説を。
で、「どうだった?」と。
われわれが意見をいうと、
今度は白い紙に自分でポイントを書いていくんです。
それがそのまま、カンペにまでなっていましたね。
この、DVDをよくみてもらうとわかるんですが、
ときどきチラッとカンペをみている(笑)。
みているのは自作の原稿なんですね。
のびのびと楽しそうにしゃべっているので、
原稿がないんですよね? って、よくいわれるんですが、
毎回ちゃんと自分で用意したものがあったんですよ。
 
おかしな喜劇はお家族そろって、
大きな声を出してしゃべりながらごらんください。
映画館ではこれはダメですぞ。
お父さんはタバコを吸いながらごらんください。
映画館ではこれはダメですぞ。
お兄さんはラーメンを食べながらごらんください。
映画館ではこれはダメですぞ。
お母さんは編み物をしながらごらんになっても
観賞はできるでしょう。
映画館ではこれはダメですね。
おじいさんはどなたかにアンマをしてもらいながら
ごらんなさい。映画館ではこれはダメですね。
フランケンシュタインの怪物やドラキュラや
ゴースト映画では、
途中いよいよ恐怖の盛り上がるところで
お部屋の電気を全部消して見るのも効果がありますぞ。
映画館ではこれはダメですね。
 
2007-08-15-WED
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