糸井 |
はぁぁ。このあたりは、横尾さんがうぁーっと
気分よくなった時代なんじゃないですか? |
横尾 |
うん。
ここは「パラダイス」のシリーズなんだよ。 |
糸井 |
当時は、「いろんなものをパラダイスにする」
っていう時代だったんですよね。 |
横尾 |
そうそう。
パラダイスと精神世界的なものが、ダブってた時代。
そういうころにつくったものばかりなんだよね。
この絵は、もともとオフセット印刷だった作品を
あとで絵画にしたもので。
1971年、「第10回現代日本美術展」のために
制作されたオフセットの作品「Wonderland」を
絵画として描き直したものです。
タイトルは、「変容の海」。 |
|
糸井 |
この絵画のほうは、最近描かれたんですか。 |
横尾 |
この絵を描いたのは1986年。
オフセットで刷ったのは70年代だから、
最初の作品のあと15年経ってから
絵画にしようと思ったわけよ。 |
糸井 |
このあたりのイメージって
いまの若い子たちに
そうとう影響を与えてますよね。 |
横尾 |
あ、そうかなぁ?
うーん。 |
糸井 |
コラージュの加工のしかたや考えかたが
思いっきり開放的になったでしょう。 |
横尾 |
うーん。そうだね。
でもまあ、これなんかはねぇ、
もっと飛躍しないとおもしろくないよね。 |
糸井 |
あ、いま見ると。 |
横尾 |
うん。
「Wonderland」の上からいろいろな作品を重ね、
分割し、組み替えた「W Wonderland II」。 |
|
糸井 |
あ、これもおんなじモチーフですね。
これって、ひとつひとつ
別々につくったんじゃないんですよね。 |
横尾 |
これは、最初はこんなにばらばらじゃなかった。
もとの絵に近い、
まとまった絵だったの。
シルクスクリーンなんだけどね。 |
糸井 |
あ、刷ってあるんだ。 |
横尾 |
うん。それをまた10年後くらいに、
順番を組み替えてみようと思ったわけ。
パズルみたいにね。
さらにその上に別のモチーフを重ねて、
しあがったのは、95年だね。 |
糸井 |
さらに、刷ったんだ。 |
横尾 |
うん。上にね。
これね、少年王者がワニを退治しているの。 |
糸井 |
ああ、よぉーく見ると。
いるわ、少年が。 |
横尾 |
あ、ワニの頭どこにいったかな。
頭がないねぇ。頭、頭。
・・・あ、これ、これ!
これだよ。 |
糸井 |
ああ、はい!
|
横尾 |
これ、ワニの頭だよね? うん、そうそう。
こういう絵は、これからまたあとで
出てくるからね。
少年とかいっぱい出てくるし、
バラバラにしたものもいっぱい出てくるし。 |
糸井 |
(ボソボソつぶやくように)
聞いてもしょうがないかと思うんだけど、
なんでこういうことをやろうと思うのかねぇ。 |
横尾 |
(聞こえなかった)
ここからはねぇ、
「ヤレ」というテーマで括ってあるんだけど。
糸井さん、「ヤレ」って知ってるでしょ? |
糸井 |
はいっ。
印刷の「ヤレ」ですね。
「ヤレ」とは、印刷の用語で
重ね塗りのこと。
本刷りの前に、
インクをなじませるために
別の印刷物に重ね刷りをするのです。 |
|
横尾 |
うん。
要するに「ヤレ」っていうのはさ、
表現のためのものではなくて、
インクののりをよくするために、
古い印刷物に重ねて刷るんですよ。
いわば、世には出ない、試し刷りみたいなもんで。
その現象を、実際の表現としてやってみようとしたわけ。 |
糸井 |
この絵は実際に
サントリーの広告に使ったんですか?
|
横尾 |
ああ、これはね、ほんとに
サントリーから依頼があったの。
ビールとか、ウォッカとか
いろいろあるんだよ。 |
糸井 |
思えば「悪い印刷を使う」っていう手法は
もう「腰巻きお仙」のころからやってましたよね。
怪しい人の写真が真ん中に刷られていて。
写真や製版が「むちゃくちゃ悪い」みたいな、
ああいうざらつきのようなものに対する思いが、
横尾さんのなかにずっとあるんですね。 |
横尾 |
まぁ、そうね。
子どものころの、
印刷物に対するノスタルジーみたいなものかも
わからないね。
「版ズレ」とかさ。
ああいうのはけっこう、影響与えるんだよね。 |
糸井 |
何かをかき立てますね。 |
横尾 |
うん。それを意図的に
絵でやってみたかったのかもね。 |
糸井 |
なるほど。 |
横尾 |
セラミックの大きい作品なんかにも、
こうやって。
|
糸井 |
江戸八百八町。
これも、もともとの絵にもう一回
何かをのせているわけですよね。 |
横尾 |
バンバン組み合わせているねぇ。 |
糸井 |
ほんと、いっろんなものが組み合わさっていますね、
よく見ると! |
横尾 |
組み合わせてるねぇ・・・。 |