2021年の夏、東京では
横尾忠則さんの作品があちこちで見られます。
国内外の団体がここぞと力を出し合い、
類稀なる存在をあらためて知らしめる、
しずかで大きな芸術活動です。
ほぼ日もそのちいさな一端を担います。
50年来の友人である作家の瀬戸内寂聴さんは、
横尾忠則さんを
「近代日本を代表する天才的人物」と言います。
- ──
- 東京がこの時期に、スポーツだけでなく
芸術にも焦点を当てるということを、
応援したいと思っています。
スポーツは親しみ深くて、
エンターテイメントとしても
見ていておもしろいのでわかるんですが‥‥、
このたびふと思ったのです。
「なぜ、人間は芸術が必要で、
芸術をやるんだろう?」
寂聴さんは芸術についてどのように思われますか?
- 瀬戸内
- なぜ芸術が人間にとって要るか、ってこと?
- ──
- はい、そうです。
- 瀬戸内
- そりゃ、もう、
「なぜ」なんていうことじゃなくて。
- ──
- はい。
- 瀬戸内
- 芸術がなければ、
人間、やっていけないんじゃない?
芸術が必要かどうか、それがわからなければ、
人間ではないんじゃないかな。
(横尾 影の声)
人間でなきゃ、何だろうね。ミミズ?
- ──
- (笑)
- 瀬戸内
- でしょう。
- ──
- 芸術はもともと、
人間とともにあるということ‥‥。
- 瀬戸内
- そりゃもう、無意識でも、
それを求めてるんじゃないかしら。
「芸術なんかわからない」なんて言う人は
いっぱいいますけどね、
それは、自分がわかってないだけなんですよ。
例えば、どうしたって人間は、みんな、
美しいものに憧れるでしょう。
美しい音楽にも憧れる。
- ──
- はい。
- 瀬戸内
- 芸術がなければ、
人間らしい生活なんて、
できないんじゃないでしょうか。
- ──
- ああ、もう、ほんとうに。
- 瀬戸内
- 自分が歌うとか、演じるとか、
そういうことじゃなくてもいいんです。
そんなのを抜きにして、
生活の中に、すでに芸術があるんですよ。
小さな庭にね、
ちょっと木を植えるなんていうのもそうですよ。
日本の人はみんな、そういうことができるでしょ。
それはやっぱり芸術ですよ。
- ──
- そうですね、おのずと。
芸術についてちゃんと勉強してこなかった
我々のような者にも、
備わっていると思ったほうがいいですね。
- 瀬戸内
- 若い人は、年寄りよりも敏感なんですよ。
自分が気がつかないでも、
芸術の中にいるんじゃないかしらね。
若い女の人でも、男の子でも、
お化粧をするでしょう。
あれは芸術の一種ですよ。
自分を美しくしようとか、
身なりを整えようとする。
それができるということは、
芸術なんですよ。
まず人間は自分の体を
芸術的にいじるのは好きなんじゃないかな。
- ──
- 考えてみれば、朝起きたときからもう、
すでに芸術の一歩を踏み出していますね。
いま、コロナウイルス感染症で、
ちょっぴり閉じた心の具合になっていましたが。
- 瀬戸内
- どんな時代でも
自分を美しくしたいんじゃないかしら。
病気で寝てる人でも、髪をとかしたり、
寝間着を着替えたりするじゃないですか。
私はね、年齢がもう百だから、
美しくも何もないはずでしょ?
それでもやっぱり朝起きて、
顔を洗って、鏡を見たら、
「今日はみっともない」
「もうちょっとどうかしよう」
とか思いますもの。
それで、やっぱり死に顔はね、
「ちょっと美しいほうがいいなあ」とか、
そういうようなことを思うもの、百歳でも。
- ──
- ああ、そうですね、
「美しい顔」というのは、すごく魅力的で、
そうありたいです。
- 瀬戸内
- そうですよね。
- ──
- 先日、お風邪を召されたとうかがいましたが、
お具合いかがでしょうか。
- 瀬戸内
- うん、まあまあですね。
よくこの頃は入院するんですけどね、
それは、動けなくなるから入院するのでね、
大丈夫です。
- ──
- 体の不自由が溜まると、
入院されるということでしょうか。
- 瀬戸内
- そうそう。
この年になると、もう、
ほんとうに動けなくなるのよ。
だから仕方がないから入院して、
ちょっと何か、血圧なんかやってもらうと、
すぐ治るの。
- ──
- ああ、すぐに治るんですね。
- 瀬戸内
- だから、そういうこともあって、
いま考えてることはもう、
どうやって死ぬのかなって、そればかりですよ。
- ──
- ご自身の先々の最期について思い巡らす、
そういったことですか。
- 瀬戸内
- これまでいろんな人の死に顔を見てきました。
さっきも言ったことだけど、
やっぱりきれいな顔で死ぬ人もいれば、
そうでない人もいるのよ。
- ──
- ああ、そうなんですか。
- 瀬戸内
- だからね、やっぱり死に顔を人が見たときにね、
「ああ、安らかだな」とか
「きれいだな」とか思われたいです。
それが、最後のおしゃれね(笑)。
- ──
- 最後の‥‥芸術。
- 瀬戸内
- ええ、そうね。そのとおりです。
- ──
- ああ、ほんとうに、貴重なお時間を
ありがとうございました。
- 瀬戸内
- はい。
- ──
- では、7月の横尾さんの東京の展覧会、
どうぞ観にいらしてください。
- 瀬戸内
- はい、はい。這ってでも行かないとね。
(横尾 影の声)
健康な人でも10メートルも這えません。
※「横尾 影の声」は横尾忠則さんによる加筆です。
(おしまいです)
2021-07-02-FRI
この夏、横尾忠則さんの作品が
東京のあちこちで見られます。
ほぼ日は渋谷PARCO8階「ほぼ日曜日」で
横尾忠則さんのお人柄や生活にスポットをあてた
展覧会を開催します。
また、みなさまからの熱い要望により、
連載『YOKOO LIFE』を
糸井重里との新規対談を加えて書籍化します。
みなさま、この夏、
『YOKOO LIFE』の本を片手に
「東京YOKOOめぐり」をなさってください。
(めぐった方には横尾只海苔をプレゼント!)
『YOKOO LIFE』
横尾忠則(著)
糸井重里(聞き手)
1,320円(税込)
渋谷PARCO ほぼ日曜日で
7月17日より注文販売。
7月21日より先行販売。
東京都現代美術館のショップ、
横尾忠則現代美術館、豊島横尾館で、
7月21日より先行販売。
ほぼ日ストア、全国書店で
8月3日より販売開始予定。
打ち合わせや旅のあいだのおしゃべりが、
宝もののようで、聞き逃がせなかった。
だから録音機をできるだけまわした。
どうおもしろいのか、説明はできない。
そんなふうにおそるおそるはじまった、
横尾忠則と糸井重里による
「ほぼ日」のおしゃべり連載は、
通な方々のあいだでじわじわと話題となった。
「あれ、本にすればいいのに!」
という声をいただくも、
編集方針について迷いに迷い、数年経過。
この記念すべきYOKOOイヤーに、
思い切って追加の対談を収載し、
奇跡のような本を誕生させます。
本になって、さらに宝もののような、
貴重な内容です。
「YOKOO LIFE
横尾忠則の生活」
会期/2021年7月17日(土)→8月22日(日)
11:00→20:00
会場/渋谷PARCO8階「ほぼ日曜日」
入場料/450(¥OKOO)円
主催/ほぼ日
協力/朝日新聞社
2021年7月17日(土)→10月17日(日)
東京都現代美術館 企画展示室1F/3F
2021年7月21日(水)→10月17日(日)
21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー3
2021年7月17日(土)→9月5日(日)
丸の内ビルディング、新丸の内ビルディング
ジャケットとパンツを
2021年7月1日(木)から順次発売
ISSEY MIYAKE SHIBUYA(渋谷PARCO2階)、
A-POC ABLE ISSEY MIYAKE / AOYAMA、
ISSEY MIYAKE SEMBA、
ISSEY MIYAKE MARUNOUCHI、
ISSEY MIYAKE ONLINE STORE
横尾只海苔
(よこおただのり)
プレゼントします。
横尾さんの描き下ろし直筆文字入り!
渋谷PARCOの「YOKOO LIFE」展入口で、
東京都現代美術館で開催する
「GENKYO 横尾忠則展」のチケット
(電子チケットの画面可)をご提示の方に、
横尾忠則書きおろし文字入り
「横尾只海苔」(ホンモノの海苔)を
プレゼントします。
※「横尾只海苔」はなくなりしだい配布終了します。
「GENKYO 横尾忠則展」チケットは
観覧前、後どちらも可です。
(C) HOBONICHI