ヨコオとイトイの THE エンドレス
 
第3回 なんでおもしろかったんだっけ。
 
糸井 こんな、白く飛んでる写真もありますが‥‥。
 
横尾 なんで飛ぶのかわかんない。
糸井 わかんない。
横尾 わかんない。
糸井 これはたぶん、撮りはじめの1枚でしょ?
カメラが、おっとっとっと、という状態で
光量を測りまちがえたんじゃないかな。
横尾 その場所の1枚目?
糸井 さあ撮るぞ、の1枚目。
2枚目以降は、
「あっ、まちがえちゃった」と
カメラがそれなりに
色を落ち着かせるんですよ。
横尾 ウソだよ。
なに言ってるのか、さっぱりわかんないや。
糸井 ほんと、ほんと、ほんとですって。
横尾 このあたりのページは、
たまたま飛んだのを集めたの。
もっとあればもっと集めるんだけれども、
これしかなかった。
白く飛ばしたいと思っても、
どうして飛ばしていいかわかんないんだよ。
糸井 横尾さんは、飛ばしたいと思ってないですよね。
横尾 いや、ある。
糸井 うそ!
横尾 あるんだけど、
どうして飛ばしていいかわかんないの。
まあ、失敗作かもわからないけれども、
本の中にこういうのが入ると、
変化があっていいんじゃないのかな?
糸井 このチラチラするものは、なんですか。
横尾 これね、ちっちゃい雨が降ってきたの。
糸井 雨に光が当たってるのかな?
この写真の展覧会場の、
西村画廊の西村さんは、
「これは霊魂じゃないか」という説を
聞かせてくれましたが。
横尾 なにを言ってるの!
西村さん、奥さんが亡くなったからって。
糸井 語ってらっしゃいましたよ。
「もうひとつ、怖い話が‥‥
 霊魂ではないかという説もあるんですよ」
というように。
横尾 「説」って、それは自分の説だよ(笑)。
糸井 ははははは。
横尾 何度も言うようだけど、
同じような写真が撮れないんだよね。
カメラマンは、そうじゃないから
ひとつの様式やポリシーができるじゃない?
ぼくは、それがない。
同じところで「もう一枚撮っときましょう」と
シャッターを押しても、同じになってない。
「いま、撮りました」
「また一秒もしないうちに撮りました」
同じにならない。
糸井 なにかが
ちがうんでしょうね。
横尾 それがわかんない。
そうしたらもう、
わかんないで行こうっていうより
しょうがない。
糸井 わかんないで行こう(笑)。
横尾 うん。
ま、食べてください(ロールケーキを)。
糸井 ありがとうございます。
展覧会で、ひときわ大きく伸ばした
写真があったでしょ。
  あの場所を知ってた人がいたんですってね。
その方が、おいら岬の灯台守は、の
灯台を‥‥あれ? どんな話だったっけ?
横尾 また、西村さんの話でしょう?
糸井 そうです。
横尾 それはね、こういうこと。
ぼくが撮ったあの大きく伸ばしたY字路を
知ってるという人がいて、
そこに映ってるお寺に
お墓がある人じゃなかったかな。
糸井 ‥‥‥‥。
横尾 ‥‥‥‥。
糸井 そこまでじゃ、
話はおもしろくないんですよね。
もうちょっとおもしろくないと
いけないんだけどなぁ。
横尾 いや、ぼくもね、それ、
西村さんから聞いたんだけども、
なにがおもしろいのか、よくわかんなかった。
ぼくの理解度が
欠けてるのかなって思ってたんだよ。
糸井 ‥‥‥‥。
横尾 ‥‥‥‥。
糸井 そうだ、横尾さんが描いた
おいら岬の灯台守の灯台も
知ってる人だった、って
話じゃなかったっけ。
横尾 ああ、あの、白浜、和歌山のね!
そうそう。
その人が車で走ってて、
かつて西村さんのところで展示した
Y字路の絵と同じ場所が、
自分が運転してる目の前に
あったと言ってたな。
糸井 あぁ、そうだ。
横尾 その人は「ここだぁ」と、思った。
その話を西村さんにした。
そしたら西村さんも
あんな田舎の、通りすぎた一瞬で
よく記憶したなって、感動した。
しかもぼくの描いたのは絵だから、
デフォルメもされててわかりづらいよね。
その人が、また別のY字路の近くに住んでて
お墓もある、ということで。
糸井 そうそう、そういう二重の話でした。
加えて、ぼくはそのとき、
妙に不気味だったことがあるんです。
それは、その白浜の灯台が、
『喜びも悲しみも幾年月』という
映画の舞台だったことです。
横尾 あの灯台は、白浜のY字路のちょっと先だよ。
近いけどね。
糸井 だけどね、西村画廊に出かける少し前に、
ぼくは「お〜いら、みぃさきのぉ〜♪」という
『喜びも悲しみも幾年月』の歌を
なぜか思い出したんです。
昼間っからずぅっと頭の中で歌って、
歌詞を思い出そうとしていたんですよ。
「なんでオレ、こんな灯台の歌を
 歌ってるのかな、何年ぶりだろう」
という気持ちで画廊に行って、
その話を聞いたものですから、
ちょっとびっくりしちゃって。
横尾 ああ、それはすごいね。
糸井 ちょっといいでしょう?
横尾 ただのシンクロニシティとは思えないよね。
非常に霊的な感じがするわ(笑)。
糸井 西村さんが
「『喜びも悲しみも幾年月』の
 灯台の近くのね」
と、おっしゃったときに、驚いたんですよ。
横尾 いや、そういうことよ。
すごいわ。

(続きます!)
2009-11-23-MON
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