ほぼ日 |
まず、吉本隆明さんの姿を
映像に残したい、というところから
山口さんとの打ち合わせがはじまったのですが、
最初はどう考えていらっしゃいましたか。
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山口 |
吉本さんのことは、
一般教養として知っている程度で、
著書をちゃんと読み込んだことは
それまであまりありませんでした。
ぼくの大先輩に、
片島紀男さんというディレクターがいて、
その人がいわゆる“吉本ファン”でした。
いっしょにお酒を飲みにいって、酔っぱらっては
吉本さんの詩を朗読したり、
吉本さんといっしょに国会に突入したときのことを
話してくれました。
ですから、ぼくにとって吉本さんは
「尊敬する人の尊敬する人」という
位置づけだったんです。
その片島さんが、
三好十郎さんの特集番組を撮られたとき、
吉本隆明さんに出演してもらっていました。
だけど、片島さんは
「ほんとうは吉本さんで番組を作りたい」と
ずっと、おっしゃっていました。
片島さんがしつこく、そこまで言うなんて、
きっとすごい人なんだろうなぁ、と
思っていたんです。
片島さんは昨年末にお亡くなりになりました。
この番組の放映前に、病床で
仕上がりのVTRを
観ていただくことができました。
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ほぼ日 |
何か、ご感想はおっしゃっていましたか。
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山口 |
ぼくは、直接には聞いていません。
「やりやがったな」か、
「やってくれたな」か‥‥
うん、いずれにせよ
喜んでくださったんじゃないかなと思います。
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ほぼ日 |
吉本さんは、テレビ出演を
ずっと断りつづけてこられたんですよね。
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山口 |
そうなんです。
みんなが撮りたがってた人だから、
ぼくにとっても存在としては大きかった。
その人に会える、取材ができる、
誰もがやりたくてできなかったことができる、
ということで、
ぼくは最初、小躍りしました。
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ほぼ日 |
だけど、撮影の了承はもらっても、
放送の了解はとらないまま、
記録した時期が長くつづきました。
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山口 |
番組になるかどうか、
そして、番組になったとして
いったい誰が見てくれるのか、
そういうことは
とりあえず考えないようにしました。
放送すると必ず誰かが見てくれるんだし、
しかも、局内でこの企画が通らないはずがない。
だって、吉本さんが“出る”んですからね。
まずはカメラを回していい、と
吉本さんが言ってくれたんだから
何も決まってないからといって
そうしないわけはないです。
これで何もしないなら、
そんなNHKはいらないよ、って
視聴者のみなさんに言われちゃいます。
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ほぼ日 |
放映後、番組をごらんになった方から、
じつにたくさんの感想が届きました。
まず、講演の映像がすばらしかったという
意見が多かったです。
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山口 |
吉本さんの、あの講演を
あんなふうに「伝わるように」撮れたことは、
ぼくらもうれしかったです。
講演の本番中は、
TDさん、カメラマン、音声さん
技術スタッフ、みんなノリノリで
のめり込んで撮っていました。
ああいう映像は
講演を「ただ撮る」のではなく、
話の中身に反応しながら
吉本さんの表情を撮ることが
重要になってくるんです。
カメラは、小型カメラをあわせて
ぜんぶで6台ありましたから、
さまざまな角度から撮影ができました。
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ほぼ日 |
ふだん、吉本さんのご自宅に
撮影にいらっしゃっていたのは
山口さんとカメラマンの南波さんの
おふたりでしたが。
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山口 |
そう。あの講演の日は、
「当日のみ参加」のスタッフが
大半だったんです。
だけど、みんなが反応していました。
何に反応していたかというと、
やっぱり、吉本さんに、なんです。
「この人の“この日”に、自分も加われるんだ」
という気持ちが、
各自の持つ力を出すことになりました。
だって、吉本さんが、
あの日にどれだけのことを賭けたのか、
それがファインダーを覗くと
伝わってるんです。
きっと誰もが「この話はいい映像で撮りたい」と、
思ったんじゃないでしょうか。
そのエネルギーをいかす番組にしたかったから、
あとで編集でどうこうしようということは、
あまり考えなかったんです。
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ほぼ日 |
おっしゃるとおり、番組は
まるでライブを観ているような
臨場感ある構成だったと思います。
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山口 |
吉本さんがご自宅で
糸井さんに向かって話すときには、
またちがったエネルギーが出るんです。
吉本さんは、講演では
大きなかたまりをわかりやすく
話そうとなさいましたが、
糸井さんの前では、
「わかりやすく」ではなく、
「ほんとうのことだけ」を話そうとなさいます。
ですから、もしかしたら、
自宅での話の内容は、
一度見ただけだとわかりづらいのかもしれない。
今回、番組をDVD化するにあたり、
自宅映像を特典として入れました。
番組放映ではわかりにくい内容でも、
DVDなら何度でも
みなさんにごらんいただけますから。
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ほぼ日 |
自宅映像を含めると、
カメラが回ったのは
35時間くらいになりますよね。
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山口 |
総計ではそうですね。
NHKが持っている映像は、
いかすことができるように存在するわけですから、
素材はアーカイブとしてずっと残ります。
後世の人が使ってくれればいいと思うし、
いま、できないことでも
誰かがいつかどこかで
やってくれることがあると思う。
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ほぼ日 |
この1年を通して、
ずいぶん吉本さんの
お話を聞かれたわけですが。
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山口 |
ぼくは、吉本さんに、
まだまださわってないと思います。
すれちがった気分、という感じでしょうか。
ただ、ひとつわかったのは、
実際にお話しされることと著作物とに
交互に触れると、
吉本さんのお考えが立体的になって
自分の中で広がっていく、ということです。
ですから、このDVDをごらんになって、
あるいは『吉本隆明 五十度の講演』を
お聞きになったあとに、
さらに関連の著作をお読みになると
いいんじゃないかな、と
個人的には思います。
ほんとうに楽しい仕事でしたよ。
思想家って、亡くなってから、
周囲の人にあれこれ話を聞くことが多いんだけど、
吉本さんは生きていて、
会えるわけですから。
また、大きな講演をぜひやってほしいですね。
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