- ──
- 『沈黙』には、日本人の役者さん、
たくさん出てましたね。
イノウエ役のイッセー尾形さん、
通訳役の浅野忠信さん、
他にも加瀬亮さん、
笈田ヨシさん、塚本晋也さん‥‥。
- 窪塚
- マーティンに対する
塚本さんの心酔っぷりなんかもう、
ハンパなかったです。
- ──
- 映画監督ですもんね、ご自身。
- 窪塚
- 俺が
「宣伝活動、がんばりましょうね」
って言ったら、
「違うよ窪塚くん。布教活動だろ」
って言ってました(笑)。
- ──
- 鬼気迫る演技でした。
荒波の海で磔にされるシーンとか。
- 窪塚
- 本当に死んじゃうかと思いました。
塚本さんもそうだけど、
一緒に磔にされてた笈田さんとか。
- ──
- たしか、80歳、越えてますもんね。
ぜんぜん見えませんけど。
このシーンに身を捧げるみたいな、
ものすごい気迫で、おふたりとも。
- 窪塚
- 磔にされて、波、超食らってね。
塚本さんは、
あの状態で歌わなきゃならなくて。
息吸うタイミングで波が来て、
ほんと、死にそうになってたって。
- ──
- イッセー尾形さんの井上筑後守も、
恐ろしかったです。
- 窪塚
- いやあ、ほんと怖かったし、
もう、トリックスターでしたよね。
マーティンのスタッフも
みんな「イッセーすごい!」って、
口々に言ってました。
- ──
- 本当に大変な現場だったろうなあと
思うんですが、
とくにきつかったのって何ですか。
- 窪塚
- 5か月くらい、台湾にいたんですよ。
で、あっちに着いてすぐ、
プロデューサーに挨拶に行ったら、
「そんなに痩せてくれてありがとう」
って、言われたんです。
- ──
- ダイエットしていったんですか?
- 窪塚
- いや、俺は何にもしてなかったんです。
でも、その言葉の意味が
あとからわかるんだけど、
食事が、みんな、大変だったんです。
- ──
- ああー‥‥。
- 窪塚
- 痩せてなきゃなんないから、
超きつい食事制限かけられていて。
主役の神父さんをやった
アンドリュー(・ガーフィールド)も、
毎日スープだけとか。
- ──
- わー‥‥。たしかに
塚本晋也さんも、ゲッソリしてた。
- 窪塚
- 心がやさぐれてきちゃうんですよ。
- ──
- そうなりますよね。
- 窪塚
- でも俺は、ぜんぜん太らないんで、
好きなように食べてたんだけど。
- ──
- へぇ‥‥。
- 窪塚
- アンドリューも
最初はまだ余裕あったんですけど、
途中から、
ものすごい感じ悪い奴になってた。
いい加減キレそうになって
「俺、あいつになんかしたっけ?」
ってまわりに聞いたら、
その食い物のことが、まずあって。
- ──
- ひもじさで、トゲトゲしちゃって。
- 窪塚
- それにくわえて
「そもそも、ああいうのが
アンドリューのメソッドだから」
とかも言ってました。
- ──
- メソッド?
- 窪塚
- 「寝ても覚めても、その役でいる」
- ──
- はー‥‥。
- 窪塚
- 根は、すごくいいやつなんですよ。
でも、本気で切れそうになるほど、
ヤバかったんです、あいつ。
- ──
- そうだったんですね。
- 窪塚
- ただ‥‥映画の仕上がりを見たら、
「ああ、すげぇな」と。
ちゃんと納得させられたし、
やっぱりいい役者だなあと思った。
- ──
- 強く心に残りますね、あの映画は。
- 窪塚
- よかった。うれしいです。
劇中、一度も音楽がないんですよ。
- ──
- あ、「サイレンス」だから。
- 窪塚
- 鳴ってるのは、ぜんぶ自然の音。
蝉の鳴き声ではじまって、
風のそよぐ音、波濤が砕ける音、
鷹のピーヒョロロ‥‥とか。
- ──
- はい。
- 窪塚
- メロディらしきものがあったのは、
塚本さんの歌う歌と、
あとは、坊さんの読経くらいかな。
- ──
- 司祭が「転ぶ」シーンですよね。
- 窪塚
- あのお経、ちゃんと宗派を調べて、
正しいお経を当ててるんです。
時代考証もしっかりしてて、
丁寧につくってる映画なんですが、
一回、美術で入ってた
京都の職人さんが超怒ってたなあ。
- ──
- え、どうしてですか。
- 窪塚
- 隠れキリシタンの集落の家の戸が、
ぜんぶ「ドア」だったんです。
- ──
- あ、つまり西洋式の。
- 窪塚
- で、それを見た京都の職人さんが
「あれだけは許せねぇ」って、
速攻、引き戸に変えさせてました。
- ──
- あの映画を観たとき、
自分はどの人だろう‥‥と思ったら、
「いやだなあ」と思いつつ、
どうしてもキチジローなんですよね。
- 窪塚
- ええ。
- ──
- ただ、窪塚さんの演技からは、
なぜだか純粋な人って感じも残って。
それが、なんというか‥‥。
- 窪塚
- キチジローって、
主役のアンドリュー演ずる司祭と
表裏一体、
「2人でキリストを体現してる」
ってマーティンは言ってた。
- ──
- そういうようなことについては、
俳優同士、
つまりアンドリューさんとは、
何か話したりとかするんですか。
打ち合わせじゃないですけど。
- 窪塚
- しないですね。
- ──
- じゃ、カメラのまえで、はじめて。
- 窪塚
- そう。撮影前半は、
いっしょに出てるシーンについて
しゃべったりもしたけど、
さっき言ったように、
撮影が進むにつれて、
話せる状況じゃなくなってました。
- ──
- あ、お腹が空いて‥‥というか、
役に入っちゃってて。
- 窪塚
- 目も合わせてくれなかったんで。
- ──
- そこまでですか。
- 窪塚
- キチジローに対する「憎しみ」が
アンドリューのなかで、
どんどん、激しくなっていって。
その「憎しみ」が、同じように、
俺に対しても向けられて。
- ──
- はー‥‥。
- 窪塚
- キツかったっすね。
- ──
- でも、だからこそって感じがします。
あの作品が醸し出す何かというのは。
- 窪塚
- いや、ほんと、すげぇなって思った。
あの徹底の仕方とか‥‥。
でも、あいつ、
俺らよりいいホテル泊まってるよな、
みたいな、
腑に落ちない感もありつつで(笑)。
- ──
- でも、やっぱり、窪塚さんにとって
大きな作品、
大きな役柄、
大きな監督‥‥だったみたいですね。
- 窪塚
- ほんと、そうです。
いちばん大きいくらいの感じですね。
あの作品から、
自分でも「次に来た」感があるし、
もう一回、
マーティンと仕事できたらいいなと、
本気で思うし。
- ──
- ええ。
- 窪塚
- そのためには
やんなきゃなんないことが山盛りで、
だから英語もがんばって、
海外での活動をもっと広げたいです。
日本人の役に限らず、やりたいしね。
- ──
- なるほど。
- 窪塚
- ちょっと外行きません?
<つづきます>
2019-06-21-FRI
写真:荒井俊哉