- 窪塚
- 静かですね、ここ。
- ──
- 山﨑努さんインタビューのときも、
使わせていただいたんです。
- 窪塚
- 俺、山﨑さんと『GO』って映画で
一緒だったんですけど。
- ──
- めっちゃ殴られてましたよね。
- 窪塚
- そうそう(笑)。
あのシーンは、けっこう大変で。
山﨑さんから、
「おまえ、手ェ抜いてんのか。
本気で、
100の力で殴ってこいよ!」
って言われて。
- ──
- わあ。
- 窪塚
- 監督の行定(勲)さんに
「どうしたらいいっすかね?」って
相談に行ったら、
「窪塚くん、がんばって!」と。
- ──
- 山﨑努さんと、本気の殴り合い‥‥。
- 窪塚
- いや、本気でこいって言われても、
なかなか
本気でなんか殴れないんですよ。
怪我しちゃうかもしれないし、
また「本気じゃねぇだろ!」って
怒られたくないし、
キ○タマはブン殴られるし、
ギリギリのとこでやってる感じで。
- ──
- はあ‥‥。
- 窪塚
- で、ぜんぶの撮影が終わったとき、
山﨑さんから
「おまえ今すぐ役者やめろ、窪塚」
って言われたんです。
- ──
- え?
- 窪塚
- 役者やめろって言われた(笑)。
- ──
- どうして?
- 窪塚
- こわいでしょ?(笑)
- ──
- こわいです(笑)。
- 窪塚
- 意味わかんなかったんで、
「そんなにダメだったですか、俺」
って訊いたら、
「いや、そういう意味じゃなくて、
おまえはいいから、
このあたりで、一回、休んどけ」
って。
- ──
- でも、『GO』って
『池袋ウェストゲートパーク』の次、
くらいですよね。
あの時期に「やめろ」っていうのは、
すごいことですね。
- 窪塚
- とにかく「たくさん出すぎるな」と。
- ──
- はあー‥‥。
- 窪塚
- 次の『凶気の桜』ってやつで
原田芳雄さんと一緒だったんですが、
原田さんからは
「とにかく、いっぱい出とけ」って。
- ──
- 真逆じゃないですか。
- 窪塚
- そうなんですよ。
でも、そんとき俺は
「あ、同じこと言ってくれてんだな」
って思ったんです。
- ──
- と、いいますと?
- 窪塚
- ふたりとも「自分を見つめろ」って
言ってくれてんだなって。
そのための方法が、真逆なだけで。
- ──
- 山﨑さんは、役者をやめることで。
原田さんは、役者を続けることで。
- 窪塚
- うん。
- ──
- 当時は、窪塚さんが、
史上最年少で、日本アカデミー賞の
最優秀主演男優賞を
受賞したような時期だと思いますが、
そのタイミングで
「いま、自分を見つめろ」と。
- 窪塚
- そう。
- ──
- あらためて、
『池袋ウエストゲートパーク』って、
窪塚さんにとって
どういう位置づけの作品でしょうか。
- 窪塚
- あれは‥‥ちょっと、照れるっす。
- ──
- あ、そうですか。照れる。
- 窪塚
- 子どもが「こんなんあった」とか言って、
ネットの動画を見せに来たりすると、
なんかちょっと、赤面しちゃうというか。
他の作品は、ぜんぜん平気なんですけど。
- ──
- 何なんでしょう、その理由って。
- 窪塚
- 背伸びして届かしてる感じがあるんです。
しかも、いつもの背伸びより、
何か、もっともっとがんばっちゃってる。
- ──
- 観ていたぼくらのほうは、
「キング、自由自在」って感じでしたが。
- 窪塚
- ぜんぜん。極端に爪先で立ってますよね。
ただ、いまだに「すごいよかった」って
言ってもらえる作品だし、
「いちばん好き」って言う人も多いから、
不思議だなぁと思います。
- ──
- 俳優になってから、
まだ、そんなに経ってないころですよね。
- 窪塚
- そうですね。3、4年かな。
- ──
- 今見るとオールスターキャストですよね。
長瀬智也さん、阿部サダヲさん、
佐藤隆太さん、山下智久さん、
長髪の高橋一生さんも出てました。
- 窪塚
- うん、(渡辺)謙さんもいるし。
- ──
- はい。
- 窪塚
- 妻夫木(聡)もいたし、
サカケン(坂口憲二)くんもいた。
- ──
- 同世代の多い現場で、
部活感あったんじゃないですか。
- 窪塚
- うん、楽しかったですね。
役者陣はもちろん、
堤(幸彦)さんの演出が好きで、
堤さん自身も好きで、
キングってやつのことも好きで。
- ──
- ええ。
- 窪塚
- 俺は今まで演じた役から影響を受けて、
自分が変わって、
そこへまた別の役が来て、
また影響されて、
それでちょっと前に進んで‥‥って、
役に導かれて、
ここまで来てるような気がするんです。
- ──
- なるほど。
- 窪塚
- これまで演じてきた役が、
全員、俺のなかに存在してるんです。
だから、ペコも、キチジローも‥‥。
- ──
- キングも。
- 窪塚
- いるんですよね、自分のなかに。
- ──
- これまでの俳優人生で、
印象に残っている共演者は誰ですか。
- 窪塚
- (渡辺)謙さんは、カッコよかった。
IWGPでは警察署長の役でしたけど、
あのドラマに出たおかげで、
謙さんのなかで、
少し変化した部分もあると思います。
- ──
- あ、そう思われますか。
- 窪塚
- うん、謙さん、最終回で
「アイーン」の顔してるんですけど、
あれ、謙さんから「やりたい」と
言ってきたんだって、
堤さんが、すごくよろこんでました。
- ──
- そうなんですか。
- 窪塚
- 堤さんの演出があって、
宮藤(官九郎)さんの脚本があって、
これからの役者がいっぱいいて‥‥
みたいなカオスのなか、
変化した部分があるんじゃないかな。
- ──
- なるほど‥‥。
- 窪塚
- ロンドンへ舞台を観に行ったんです。
去年の夏。
謙さん主演のミュージカルで、
『王様と私』って作品なんですけど。
- ──
- 今度、日本公演がありますね。
- 窪塚
- すごいと思った。
- ──
- それは、どのように‥‥。
- 窪塚
- 1年以上も同じ演目、
同じ役をずっとやり続けてるのって、
過酷だと思うんです。
俺だったら、やりたくない。
でもそれを、
謙さん、やり切ってるなあと思って。
- ──
- ええ。
- 窪塚
- 終わって劇場を出るとき、
廊下を歩いてたら楽屋口が開いてて、
お、入っちゃえって思った瞬間、
奥のほうで「お疲れ!」って言って、
謙さんが、
あっちの共演者やスタッフみんなに
囲まれてたのが見えた。
でね‥‥そのときの謙さんの笑顔が、
ほんと素敵だったんです。
- ──
- 笑顔。
- 窪塚
- で、行くのやめました。
- ──
- ああ。
- 窪塚
- そのまま何も言わずに帰ったほうが、
俺、もっとがんばれる気がして。
いつか俺もあそこ行くんだと思って。
- ──
- なるほど。
- 窪塚
- 扉の向こうに見えた謙さんの笑顔が、
ケツ叩いてくれた感じ。
- ──
- じゃ、舞台の感想も、伝えずに。
- 窪塚
- 俺が行ったことも、知らないと思う。
- ──
- 渡辺謙さん。
- 窪塚
- 背中を見せてくれる人。
俺にとって、すごく大きな人です。
<つづきます>
2019-06-22-SAT
写真:荒井俊哉