- ──
- 少し前に、窪塚さんが
『赤ちゃんとママ』という雑誌の表紙に
出ているのを見て、
すごくいいなと思ったんです。
言葉ではうまく説明できないんですけど。
- 窪塚
- ありがとうございます(笑)。
いいパパ賞、もらいにいったりしてます。
- ──
- 当然、俳優さんにもご家族がいるわけで、
その人たちのことを
大切にしてるようすを目にしたりすると、
その人自身に触れたような気がして、
なんだか、うれしい気持ちになるんです。
- 窪塚
- 19のときの俺だったら、
インスタも何も絶対やってないと思う。
役者はミステリアスであるべきだって
信じ切ってたし、
役者がプライベートをさらすだなんて、
みっともないと思ってたから。
- ──
- でも、価値観が変わって?
- 窪塚
- 家族ができて、変わったんですよね。
ダダ漏れの私生活なんだけど、
そこを一瞬も感じさせない完成度で
演じればいいって思ってます。
- ──
- たしかに、キチジローの姿からは、
インスタグラムで見る
窪塚さんご家族のハッピーな絵は、
まったく感じませんね。
- 窪塚
- 映画を見ている人に、俺の家族のことも、
俺がマンションから落ちたことも、
レゲエやってることも、
何ひとつ思い浮かばないくらいの芝居を
やればいいと思ってます。
- ──
- なるほど。
- 窪塚
- 今、俺のマネージャーのうちのひとりが、
3歳から知ってる奴で。
- ──
- 幼なじみの方なんですか。
- 窪塚
- 幼稚園から一緒なんです。
- ──
- じゃあ、だいぶ長いお付き合いですね。
- 窪塚
- 俺のことをいちばん知ってる奴だけど、
最初は俺が出てる映画も
「なんか、照れくさくて観れないわー」
って言ってたんです。
でも『ピンポン』のとき、
「今回ぜんぜん気にならずに観れたよ」
って言ってくれて。
- ──
- へぇ‥‥。
- 窪塚
- 「俺、大丈夫かもしれない」と思った。
- ──
- 幼なじみが、そう言うなら?
- 窪塚
- そう、こいつがそう思ったんだったら、
俺は大丈夫かもしれない。
それで安心できたというのがあります。
- ──
- 身近な人の言葉って。
- 窪塚
- 安心させてくれたし、自信をくれました。
俺のことを、何もかんも知ってる奴が、
俺が出てるとか関係なく、
単純に楽しめたと言ってくれたことは、
すごく大きかったです。
- ──
- そんな何十年も一緒にいる友だちって、
関係性は変わらないんですか。
- 窪塚
- 腐れ縁ですかね。
- ──
- 縁って、不思議ですよね。
たまたま近い場所に生まれたとかで、
偶然出会っただけなのに、
一生の友だちになったりするわけで。
- 窪塚
- 同じ星のもとに生まれたみたいなね、
そういう感覚はあります。
- ──
- ご両親についてはどうですか。
いま、窪塚さんは良きパパですけど、
たとえば、お父さんとか。
- 窪塚
- 子どものころの俺は、
ま、うちの母親の刷り込みもあって、
「俺のお父さんはスゴイんだ!」
って、ずーっと思ってたんですよね。
親父の運転がいちばんうまいと
思ってたし、
親父のメシがいちばんうまいと
思ってたし。
- ──
- ええ。ごはんもつくるお父さん。
- 窪塚
- たまに。でも、自分も大人になって、
世の中の大きさや深さや広さを思い知って、
表があれば裏もあるってことが
わかってくると、
あんなに大きかった親父が、
ちいさく感じちゃう瞬間も経験しますよね。
- ──
- はい。
- 窪塚
- ちょっとホロ苦い感じもするんだけど、
大きかろうが、ちいさかろうが、
変わらない愛情を感じてますし、
逆に言えば、
自分の成長ということでもあるわけで。
- ──
- 経験を積めば積むほど
父親がちいさく見えていくってことは、
あんまり認めたくなくて、
これまで口にしたことはなかったけど、
たしかに、そうですよね。
- 窪塚
- だから、自分の子どもに対しても、
いつまでも
大きい存在でありたいと願う反面、
俺のことを
ちっちゃく感じるくらいに
大きくなってくれたら、
それはそれで、うれしいんだろうな。
- ──
- ネイティブ・アメリカンに伝わる
子育ての教えを、
どこかでおっしゃってましたよね。
- 窪塚
- 乳児はしっかり肌を離すな。
幼児は肌を離せ手を離すな。
少年は手を離せ目を離すな。
青年は目を離せ心を離すな。
- ──
- それを読んだとき、窪塚さんって、
言葉に対して、
すごく敏感なんだなと思いました。
それって、いつごろからですか。
- 窪塚
- 子どものころですかね。
- ──
- 本が好きだったとか?
- 窪塚
- まあ、本もそれなりに好きだったけど、
ちいさいころから、なにしろ、
いろんな言葉を知りたかったんです。
それで「集める」ことをしてたんです。
- ──
- 集めてた、言葉を。
- 窪塚
- で、いつしか、
言葉はちからなんだってことを知って。
- ──
- ちから。
- 窪塚
- 勇気って言葉を知ってる人は、
知らない人よりも勇気を出せると思う。
調和って言葉を知ってる人は、
知らない人より、
まわりの人と調和できると思うんです。
- ──
- なるほど‥‥。
- 窪塚
- そういうことって、あると思うんです。
よく言われることですけど、
花の種類によって「最後の表現」って、
ちがいますよね。
- ──
- 桜は「散る」で‥‥。
- 窪塚
- 椿は「落ちる」で、梅は「こぼれる」、
菊は「舞う」、牡丹は「崩れる」。
そうやって、
わざわざ言葉を使い分ける日本語って、
美しいなあと思ったり。
- ──
- 今日、窪塚さんとこうして話してて、
あらためて、
言葉には「その人」が出るなあって。
- 窪塚
- ああ、そうですかね。
- ──
- 自分は、誰かの話を聞くのが好きで
インタビューをしてるんですが、
中でも「俳優の言葉」って、
ある種、特別な感じがしてるんです。
小手先の編集ではごまかしきれない、
と言いますか、
言葉と顔がセットになってるんです。
- 窪塚
- その人そのものが出ちゃいますしね。
さっきの芝居の話と同じで。
ラーメン屋さんは
ラーメンに人間が出ると思うけど、
役者の場合は、
言葉に人間が出るんでしょうかね。
- ──
- じつは、
はじめて窪塚さんとお会いしたのは、
もう15年くらい前の、
ファッション誌の撮影現場なんです。
- 窪塚
- え、そうだったんだ。
- ──
- はい、窪塚さんが、
でっかいジープみたいな車に乗って、
ひとりで現れまして。
- 窪塚
- あー、チェロキーかな。
- ──
- すでにいろいろな賞に輝いていて
大人気だったのに、
ふらっと
おひとりでスタジオに来たことに、
まずは、びっくりしました。
- 窪塚
- そんな感じだったなあ。
- ──
- カメラマンさんはじめスタッフに
挨拶しながらスタジオに入ってきて、
ぽんっと椅子に座ったら、
あたりが、
ぱあっと明るくなった気がしました。
自然に人がまわりを囲んで、
真ん中に向日葵が咲いてるみたいな。
- 窪塚
- へえ。
- ──
- スターと呼ばれる人って、
本当にいるんだなあと思ったんです。
- 窪塚
- いやいや。
- ──
- 自分は当時、その現場では、
いちばん下っ端の雑用係だったんです。
で、部屋の端っこの方にいる自分にも、
わざわざ来て、明るく挨拶をしてくれて。
そのことに、すごい人だなと思った覚えがあります。
- 窪塚
- 役者だからえらいわけじゃ当然ないし、
監督だからえらいわけでもないし、
いつもフラットでいたいと思ってます。
そのへんは、
昔から大事にしてることかもしれない。
- ──
- だから今日、窪塚さんと話して
「この人が話す、この言葉なんだなあ」
と思いました。
- 窪塚
- ああ、なんでしょうかね。
それは、ありがとうございます。
<つづきます>
2019-06-24-MON
写真:荒井俊哉