「世界よわいの会議」
〜よわいかも座談会〜

 


『よわいかも座談会』
第1弾:糸井重里さん
連載 第4回め


イトイ「美容院では
    『なんか良くなるんじゃないか』
    と思って来た お客さんの立場と、
    『さあ良くなったでしょう』っていう
    ヘアーデザイナーの立場が、
    実は、ぶつかってるわけですよね〜」
MM 「…はぁ〜」
イトイ「で、俺はもう そういうの
    ぜんぶ捨てた人なんです。
    ずーっと寝てるか、本読んでるんですよ。
    で、『できました』って言われたら、
    『はい』って言っておしまいなんですよ。
    …でも、若いときには、
    違うような気がするんだよ。
    祖父江さんとか、思わないの?」
ソブエ「ぼくは〜、
    お店で寝てて、起きたらね、
    七・三にピシッと
    分けられてしまったことがあった。
    …マッシュルームカットだったのに。
    でも、お店の人には言えなかったんだ。
    …町の床屋さんだったんですけどね」
MM 「え、ソブエさんは、
    ずっと同じ美容室じゃなくて?
    いろんなとこへ?」
ソブエ「うん、貧乏だったんで
    だいたい自分で切ってたの。
    …今でも あまり行ってないけどね。
    で、そのときは、とても眠かったから、
    めんどくさくなっちゃって
    たまたま通りがかりにあった床屋さんに
    ふらっと入ってやってもらったの」
MM 「ふ〜む」
ソブエ「すごく熟睡しちゃってさ。
   『できました』って何度かおこされて、
    やっとのことで目を覚ましてたら、
    とってもバッチリな、
    他人のような七・三の自分が
    鏡に映ってたのよ。
    びっくりして、目は冴えたんだけど
    お店の人に
    『いかがですか?』って訊かれて
    笑顔で『はい』って答えちゃった。
    …お店を出て、しばらく歩いてから
    ぐちゃぐちゃにしたけど…」
イトイ「ウチ帰ったとたんに、
    髪洗っちゃったりするよね」
MM 「うん、する」
ソブエ「…したです」
イトイ「あれは何だったんだろうね。
    俺は今は、そういうことはもう、
    全くなくなったですよ」
ソブエ「今だったら、おもしろいから
    まず、みんなに見せるだろうけど、
    …でも、やっぱり、
    見せた後は、もどすかな。
    どうしてですかねぇ。
    自分へのこだわりですかね?
    よく見られたいって よわさですかね?」
MM 「何ですかねぇ。
    イトイさんの
    全くなくなったっていうのも、
    なんでですかねぇ」
イトイ「『あきらめ』ですね。
    自分は、自分の考えているような、
    素敵なものに、仕立て上げてる…」
MM 「ああ、
    それは言える」
イトイ「…できることなら、
    もうちょっと上にいたい
    と思ってた時期が、あるんだ」
ソブエ「うんうん、すごくあったな、
    それは」
イトイ「で、それが、だんだんと順番に、
    なだらかなスロープを
    降りるように…。
    階段じゃない、なだらかなスロープ」
MM 「わかる!
    あのね、上昇するときって、階段なのに、
    自分が落ちるときってスロープなの。
    ぜったい最近そう思う!」
イトイ「あ〜、
    そんなふうに思ってる?」
MM 「今、こんな金髪なんかにしてるから、
    すごい いろいろこだわりが
    あるんだろうと思われるんだけど、
    もう ず〜っと同じ美容師さんで
    座ったまま!
    …確かにこれ、
    ちょっと時間かかりますけどね、
    2、3時間かかるけど、
    なんっにも言わないで、
    しかもメガネ外してるから、
    よく見えないし」
イトイ「うはははははっ!」
MM 「ずーっと、じーっとしてて。
    それで、『あ、できたよ〜』
    って言われて、
    終わり」
イトイ「それ、俺の境地じゃないすか、
    もう」
MM 「もう、どうであろうと、
    その子(美容師)のいいと思ったように
    してくれたやつが、いちばん素晴しくて、
    自分がとやかく言ったのは
    ロクなことがないっていうか…」
ソブエ「…でもそれ、
    相手にもよらない?」
MM 「…まあねぇ」
イトイ「七・三にされたら、困るよね」
ソブエ「ちょっとねぇ」
MM 「…下手な美容室だったら、
    ちょっと怖いけどね」
ソブエ「ちょっとね。うん」


2003-07-30-WED

BACK
戻る