2018 新春とくべつ対談! 油井亀美也宇宙飛行士+糸井重里 人間を信頼する、人間の仕事。 2018 新春とくべつ対談! 油井亀美也宇宙飛行士+糸井重里 人間を信頼する、人間の仕事。
あけまして、おめでとうございます。
2018年の「ほぼ日」は、
国際宇宙ステーションに142日間滞在した
日本人宇宙飛行士、
油井亀美也さんと糸井の対談で幕開けです。

ふたりの話は、
「信頼・仲間・敬意・チームワーク」、
そして「人間」のまわりを、ぐるぐると。

プロフェッショナルの仕事論、
混成チームの組織論としても、おもしろい。
空の向こうの宇宙の仕事も、
自分と同じ人間がやっていると知ったら、
ぐっと身近に感じてきますよ。

のんびりしたお正月、
ふだんは「遠い」と思っている宇宙に
思いを馳せてみませんか。

油井亀美也さんのプロフィール

Background photo:
JAXA/NASA Photo by Kimiya Yui
第1回 いったんは、あきらめた道。
糸井
宇宙飛行士のみなさんは、
こういうインタビューのための訓練とかも、
受けたりするんですか?
油井
はい、日本とアメリカとで、一回ずつ。
糸井
あ、やっぱりあるんですか(笑)。
油井
ええ、あります。インタビューだけじゃなく、
たとえば、メールを書くときに、
どうしたら読んでもらえるか、というような、
コミュニケーション全般の講義がありました。
糸井
油井さん、そういうことは得意なほうですか。
油井
いや、苦手です。どちらかというと。

ですから、好きになるしかないと思ってます。
これは、わたしのモットーなんですが、
苦手だけど、
どうしてもやらなきゃいけないことって、
好きになっちゃうしかない。
だから、腹をくくって、やっている感じです。
糸井
なるほど。
油井
そのほうが続きますし、能力も伸びますので。
糸井
好きになっちゃったほうが。なるほど。

まあ、自分自身のことを考えても、
いわゆる
「コミュニケーション」みたいなことって、
じつは、そんなに得意ではなくて。
油井
え、そうなんですか。意外です(笑)。
糸井
とくに「段取り」のあるような役割は、
何ひとつダメな自信があるので、
もう、楽しもうって思うしかないです。

だから、ぼくも同じです。
とにかく、役者には、なれないんです。
油井
そうなんですね。
糸井
おととしでしたか、
NHKの番組で、まだ宇宙にいる油井さんと、
はじめてお話させていただきましたが、
あの企画をいただいたときも、
「俺でだいじょうぶか?」と思ったし(笑)。
油井
あのとき、わたしは
宇宙(=国際宇宙ステーション)にいたので、
なぜ糸井さんにお願いしたかは、
ちょっと、わからなかったんですけども‥‥。
JAXA/NASA Photo by Kimiya Yui
糸井
そうですよね。

おそらくなんですが、あらゆる「質問」には、
公式的な「答え」があるわけですが、
NHKとしては、
そうじゃない何かがやりたかったのかな、と。
油井
たしかに、そうかもしれません。
だから糸井さんにお願いしたんですね(笑)。

台本があったわけでもないし、
そのときに思ったことを答えただけなので、
自分としても、
あの番組は、とってもやりやすかったです。
糸井
インタビューさせていただくときって、
自分の動機とか興味が、
あればあるほどうまくいくんですけど、
その点「宇宙」って、
それこそ、とらえどころがないんです。
油井
ですよね。広すぎてしまって。

一言で「宇宙」と言っても、
さまざまな分野があって、
そもそも、
どの分野がどこと関連しているのかさえも、
わからないですよね。
糸井
油井さんの宇宙との関わりも、
そういうところから始まってるんですか?
油井
ええ、わたしが宇宙に興味を持ったのは
子どものころの、
「ああ、星ってきれいだなあ」からです。
糸井
へえ‥‥。
油井
わたしは、ちいさな村で生まれたんです。

そこで、空を見上げて星を眺めていたら、
「宇宙には、
 こんなにたくさん星があるのか」とか、
「きれいだなあ」とか、
「宇宙って、どれだけ広いのかな」とか、
そんなところがスタートです。
JAXA/NASA Photo by Kimiya Yui
糸井
つまり、他のみんなといっしょ。
油井
そうですね、とくべつなことはないです。

で、そんなところからいろいろ調べ出して、
「もしかしたら、
 将来、火星に行けるかもしれないんだ!」
ということを知ったりして、
だんだんと「宇宙飛行士、いいなあ」って。
糸井
でも、夜空を見上げて
「星が、きれいだな」と思っている地点は、
ある意味では、
いちばん本物の宇宙から「遠い」ですよね。
油井
ああ、そうですね。
糸井
だって、宇宙に近づけば近づくほど、
ただ単に
「きれい」だけではなくなるわけですから。
油井
はい、やっぱり宇宙は厳しいところです。

見ていてきれいだなあと思っていたときは、
そんなこと考えませんが、
当然、そこには空気がまったくないし、
昼と夜の温度差も激しいですし、
そのままでは、生き物は生きていけません。
糸井
ええ。
油井
だからこそ、自分たちの地球のありがたみ、
というものが、身にしみてよくわかります。
糸井
宇宙にいると。なるほど。

じゃ、星空を眺めていた子どものころと、
実際に宇宙に行った油井さんの間の距離は、
自然に縮まっていったんですか?
油井
いやあ、紆余曲折ありました。

宇宙飛行士への道は、やはり簡単でなくて、
宇宙飛行士になりたいと思ってから、
実際、宇宙に行くまでには、
だいたい「35年くらい」かかってますし。
糸井
はあ‥‥35年。
油井
高校を出て防衛大学校に入ってからは、
もう宇宙飛行士には
なれないだろうなとも思っていました。
糸井
いったん、あきらめてるんですか。
油井
はい。宇宙飛行士になりたかったのに、
部屋の掃除をしたり、
アイロンがけしたり、
訓練で地べたを這いつくばったり‥‥
このままでいいのだろうか、
自分の人生はどうなっていくんだろう、
何か、青春が逃げていくような‥‥。
糸井
そんな気持ちに。
油井
ただ、わたしには防衛大学校の
素晴らしい先輩がいて、
夢やぶれて落ち込むのはわかるけど、
何もせずにいたら、
将来の道は、どんどん狭まっていくぞと。

防衛大学校でやらなきゃならないことは、
たくさんあるけど、
それら課題ひとつひとつクリアしていくことで、
自分の気が付かないところで、
選択が増えていく。
だから、いま、なにかに迷っていたとしても、
とりあえずがんばれと励まされまして。
糸井
いい先輩ですね。
油井
はい、その言葉を信じるようにして、
自分なりに、がんばってやっていくうちに、
パイロットになる道も開けましたし。
糸井
ええ。
油井
最終的には、
宇宙飛行士になることができたんです。
<つづきます>
2018-01-01-MON