糸井と  永田の  思い立ったら、雑談。    満を持して禁煙を語る編
第2回 どんな言い訳も、黒幕がいる。
 
具体的な禁煙について話すと、
禁煙をしてみて、
ぼくにとっていちばん大きな壁は
「仕事になんない」
っていう言い訳だったんです。
ああ、その言い訳ね。
 
 
はい。吸いたいっていうよりは、
ほんと「仕事になんないぞ」っていう
自分のささやきが、困った。
実際、それを理由にやめてない人は
ぼくぐらいの歳の人でも、
けっこういるからね。
 
 
とくに、働いてる人にとっては、
それが大きなポイントなんですよね。
だから、もしも禁煙しようとする人がいて
ぼくがアドバイスするとしたら、
まず、そこですね。
「仕事になんない」の言い訳が通っちゃう人は
禁煙しないほうがいいと思います。
そうですね。
 
 
糸井さんが、「ほぼ日」の創刊当初に
やってみた禁煙も、
それで挫折したって聞きましたよ。
禁煙したつぎの日に任天堂の岩田さんが来て
けっこう重要な相談事があったんだけど、
ぜんぜんきちんと答えられなくて
「あ、いまは無理だ」って思ったっていう。
はい。
それも、やめたあとだと、
もっときちんと整理できるんだけどね。
あの、ニコチンが体に残っているとき、
吸いたいのに吸えないっていうのは
ものが考えられないから、
仕事にならないのはたしかですよ。
 
 
うん。
それは、そうだよっていうしかないですよね。
 
 
そう思います。
だから、そこに勝つような方法を探すよりも、
禁煙するなら、
仕事は片付けておくべきですよね、ある程度。
そうだねぇ。
あと、どのくらい自分の機能が減衰するか
っていう覚悟をしとくべきだよね。
その意味では、まわりの人の協力も、
やっぱり必要ですよね。
 
 
そう思います。
それは、励ますとか、そういうことじゃなくて。
うん。やっぱり、覚悟だね、どちらにとっても。
 
 
実際、糸井さんが禁煙に成功する直前の、
失敗しちゃった禁煙のときって、
「もう、吸ってください」って
社員みんなが思ったんですよ。
うん、それは、実際に言われた(笑)。
 
 
言いましたよね。
言った。
あれは‥‥‥‥きつかった。
 
 
やっぱり、1日80本吸ってたのを
ある日突然やめるって、
そうとうなことなんですね。
完全に中毒だからね。
 
 
ぼくの知っている範囲でいうと、
糸井さんの禁煙って3回あるんです。
最初が、その、岩田さんが来て
「仕事になんないぞ」ってやめた禁煙。
で、2回目が、いま言った、ぼくらが
「暗黒の禁煙」って呼んでる禁煙。
そのつぎの3回目の禁煙が、
いまに至るわけですけど。
その、2回目の暗黒のやつは、
あんまり覚えてないんだよなぁ。
 
 
ぼくは、入社当初だったので強烈に覚えてます。
ていうか、当時、明るいビルにいた人たちは
みんな覚えてると思う。
とにかくやめるぞ、ということで、
たぶん、2日ぐらいだと思いますけど、
こう、社長室にこもってるんです。
で、黒いパーカーのフードを、
減量中のボクサーみたいにずっとかぶって。
あーー、そうだったね。覚えてる。
もう、犯罪者のような。
 
 
だって、泣いてましたからね、糸井さん。
うん、泣いた(笑)。
もう、はっきり、情緒不安定だった。
だって、中毒ですからね。
要するに、禁断症状だよね。
 
 
そうですね。
そのときのビルは、
会社の奥が社長室だったんですけど、
スガノさんがいちばん社長室に
近い席だったんですよ。
だから、まず、スガノさんがもらい泣きをして。
「もう、吸ってもらったほうがいいん違う?」
っていうことを言って。
その、苦しんで、机を叩く音とかが聞こえるので。
え、机を叩く音?
 
 
そうですよ(笑)。
とにかく、糸井さんからメールが返ってこない。
原稿を見てください、タイトルを決めてください、
みたいなことの反応がまったく返ってこない。
で、会社の動きも止まっちゃってるし、
本人は机叩いて苦しんでるし、
もう、吸ったほうがいいよって、みんなで話して。
思うよねぇ。
で、みんながそう言ってるのは知ってるの。
 
 
あ、そうですか。
それも、いまだから言えるけど、
やっぱり甘えなんだよ。
だって、自分は車を運転して
会社までやってきてるわけだからね、
日常生活がままならないってことじゃないんだ。
つまり‥‥苦しんで見せてるんだよ。
 
 
うわ。
ほんとは甘えだと思う。
泣いてるのもそうだし、
机叩くのも、メールが返らないのも、
ものすごく厳密に言うと、甘えですよね。
 
 
ああー。
つまり、
そうやって甘えれば吸えるようになるぞって
ニコチンがささやいてるんですよ。
 
 
ああー、そうですね、うん。
苦しんでるときにはわからないけどね、
ぜんぶ、それですよ。
どんな言い訳も、黒幕がいるんですよ。
中毒っていう黒幕が糸を引いてるんです。
 
 
そうですね。
だから、その黒幕が持ち出してくる、
いちばんの言い訳が
「それじゃ、仕事になんないぞ?」
っていうやつで。
そういうことだよね。
 
 
それも、直接仕事になんないだけじゃなくて、
「みんなに迷惑かけるぞ?」
「ひいては、家族にも影響するぞ?」
みたいなことを考えさせるんですよね。
そうそうそう。
 
 
でも、そこで重要なのは、
ずっと仕事になんないわけじゃないというか、
「そもそもの能力が損なわれるわけじゃない」
ということだと思うんです。
一時的に混乱して仕事がうまく進まなくなることと
根本から仕事ができない人になってしまうことは
違いますからね。
だから、吸わない状態に慣れたら、違う習慣で、
本来の仕事をするようになるというだけで、
その意味では「仕事になんないぞ」っていうのは
ちょっと間違った言い訳なんですよね。
そう間違うように、
ニコチンが仕向けてるんですよ。
もう、まっすぐ訴えたり、回り道させたり、
いろんなやり方でそそのかすんだ。
「こんなにもつらいんだよ」
っていう表現を、傀儡のオレにさせるわけ。
 
 
「傀儡」(笑)。
つまり、どのくらいやめられないかって話だとか、
どのくらいつらいかって話は、
ぜんぶ、タバコ中毒、ニコチン中毒という
黒幕がやらせるんですよ。
 
 
うん、うん。
だから、やめられないっていうのは、
意志の強さの問題というよりも、
ちゃんと決めてないんですよ、やめるって。
 
 
ああーーー、自分が。
そこにつけ込まれてるという。
そう。
決めたっていっても、
決めてないポイントみたいなものが
あちこちに残ってる。
そりゃ、黒幕にとっては、狙いどころですよ。
なにしろ、永田くんに
「火花がパチパチする夢」を
見せたりするようなやつだからさ。
 
 
はい(笑)。
もう、あの手この手ですよ。
こうだろ、こうだろ、って、やりますよ。
いろんな言い訳をどこまでも言わせます。
 
 
そうですね。
体が言わせてるから、
自家受精みたいな言い訳が
どんどんどんどん湧いて出る。
で、脳が、どこかで、
言い訳する自分に対してOKを出すと、
吸わざるを得ないことになりますよね。
もう、見事な仕組みですよね。
それはね、あれがそうらしいですよね。
覚せい剤とかの中毒も。
 
 
ああー。
池谷(裕二)さんの話にもあったけど、
脳は体が要求することで理解するからね。
ほんとに危ないから摂取したほうがいいぞ、
みたいな、とんちをどんどん使うんだ。
で、禁断症状になってるときは、
そのへんの区別がなかなかできない。
 
 
うん、うん。
涙が出ちゃうなんていうのも、
そういうぐちゃぐちゃな状態だっていうことで。
 
 
受け止めきれてないというか、
ぐちゃぐちゃですよね。
ぐちゃぐちゃですね。
やっぱり、中毒ってすごいですよね。
あの、うちのかみさんが、
あちこちで笑い話として言ってる
「ブイヨンを飼いたくて、
 でも、家の都合でそれを
 あきらめなきゃいけないってなったとき、
 糸井は泣いたんですよ」
っていう話があるでしょ?
あれは、禁煙の時期と重なってるんだよ。
 
 
あーー、そうだ、そうだ。
そもそも禁煙で情緒不安定になってて、
そこで犬をあきらめなきゃなんない、
っていうシチュエーションだったからね。
だから、別の言い方をすると、
あのぐしゃぐしゃな状況を
犬が救ってくれたともいえるんです。
 
 
なるほど、なるほど。
その、不安定な状況で拠り所となって。
それも、いまにして思えば、ですけどね。
だから、やっぱり、
すごいもんだよね、中毒ってね。
 
 
そうですねぇ。
もっというとね、
「いまはまだやめる気がないんです」
みたいな言い方もね、
黒幕に言わされてる可能性がある。
 
 
ああー。
実際、ぼくがそうでしたからね。
コンテンツになるかもしれないっていうんで、
糸井さんが禁煙外来に通うのに
ずっとつき合ってましたけど、
それでも禁煙したいって思わなかったから。
そこも含めて疑ったほうがいいよね。
 
 
じゃ、ぼちぼち、
禁煙外来に通ったあとの話をしましょうか。
つまり、具体的に、
糸井さんが禁煙に至るまでの話。
「おっぱい理論」ですね、やっぱり。
 
 
待って、待って(笑)。
(つづきます)
2010-10-13-WED
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