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1日80本を吸っていた糸井さんは、
本格的な禁煙を決意し、
禁煙外来に通うことになります。
治療を受けて、いかがでしたか? |
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うん。
なんていうのかな、
どんな病気もそうかもしれませんけど、
お医者さんに任せていれば
自然とうまくいきます、
というものじゃないですね。 |
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現実的なことでいうと、
いちばん大きかったのは、
ニコチンのパッチを処方してもらったことです。 |
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ようするに、タバコ以外のもので
体にニコチンを入れていく。 |
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そういうことです。
で、そのパッチをだんだん小さくすることで、
徐々にタバコから離れていくという、
そういうことを、お医者さんの立ち会いのもとに
やったということですね。 |
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ぼくも治療に同行したので覚えてるんですけど、
お医者さんの話すニコチンの害とか、
タバコについてのデータに負けないくらい、
糸井さんもタバコについて
いろいろなことを知ってるもんだから、
治療も、最初は微妙にかみ合わなくて(笑)。 |
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いや、やっぱり、何十年も吸ってるあいだに、
タバコを吸う人としての理論武装みたいなものは
ものすごく上達してたからね(笑)。
あとは、さっきもいったけど、中毒という黒幕が
なんとか吸わせようとして、
あの手この手で自分を甘やかすから。
いま思えば、先生には、
いろいろ屁理屈を言ったような気もします。 |
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なんか、最後は、
友だちみたいになってましたよね(笑)。
あの、最初の診察を終えたあとの帰り道で、
「あれは効いたなぁ‥‥」と
しみじみ話したことがあるんですけど、
覚えてます? |
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そう。
その、禁煙外来の最初の診察のときに、
「タバコを吸ってるとこんな害があります」
っていうことで、こう、
肺が真っ黒になってる写真とか、
いろんなものを見せられたんですが、
そんななかで、ぼくらがいちばん
「うわぁ」って感じたのが、
アジアのどこかの国の、
男の子がタバコを吸ってる写真。
こう、背中を丸めて、おっさんみたいな顔で。 |
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小学生になったかならないか、
っていうくらいの歳だと思うんだけど、
すごく老けてるんだよね、全体に。
完全に「タバコを吸う人」の雰囲気で。
あれは、ショックだったなぁ。 |
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もう、中毒になってるんだよね。
で、あれを子どもにさせるかっていったら
絶対させないですよね。 |
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絶対させないです。
あ、それも、「灰皿を洗う人の話」と同じで
ここについてははっきり言えるぞ、
っていうことのひとつですね。 |
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言えることの1つだね。
どれだけタバコが好きな人でも、
子どもたちに吸えって言えないでしょう。 |
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そうですよね。
実際、糸井さんも、
ヘビースモーカーでありながら、
自分のお子さんには、
成人後もタバコを固く禁じたそうですが。 |
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ぜんぜんダメだよね、それじゃ(笑)。
それは、オレがタバコを止める
動機のひとつなんです。 |
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あ、そうなんですか。
それははっきり聞いたことがなかったです。 |
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それだけじゃないですけど、
大きな動機のひとつでした。
子どもに「絶対やめろ」って言ってることを
自分が「中毒だからやめられません」
って言うのは、やっぱりおかしいでしょう。 |
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やっぱり、そういうことが
現実的にいくつか重なって、
だんだん禁煙へ向かっていくんですよ。
もうひとつ、覚えているのは、
タバコを吸わない人と、
仕事で海外へ出かけたときのこと。
そうするとね、その人が、すごく上手に、
旅のあちこちに「タバコを吸う時間」を
つくってくれるわけ。
これがねぇ、申し訳なくて。 |
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その人もかつて吸ってて、
すっかりやめた人だったから、
吸う人の気持ちがわかるわけ。
で、旅の流れを止めて、
そういう時間をもうけてくれる。
オレが吸ってるあいだ、その人は待ってる。
この、「待たれてタバコを吸う」っていうのは
けっこう、痛いんですよ。
なんていうのかなぁ、
その人とは、仕事上でもいろいろ
相談し合ってたこともあって、
男どうしの勝負っていうと、大げさですけど、
男らしい心というか、プライドみたいな部分で
負けてる感じがするんですよ。 |
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ちなみにぼくの禁煙の直接のきっかけも、
海外への取材旅行でした。
シルク・ドゥ・ソレイユの取材に行く一行のなかで
明らかに自分しか喫煙者がいないっていうんで、
とりあえずそこを吸わずに乗り切って、
そのまま今日まで続いているという。 |
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そういう、
「みんなに迷惑をかけない」みたいなことって
けっこうな動機になりますよね。 |
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なる。
とくに、自分が上の立場になるとね。
そう、ぼくのもうひとつの動機は、
経営者としての責任みたいなものだからね。
ひょっとしたらそれが最大の動機かもしれない。 |
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はい。
ぼくも、糸井さんの禁煙を見守って、
いちばん大きな動機はそれだと感じてました。
つまり、社長だからやめるっていう。 |
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うん。わかりやすい例をあげると、
禁煙の会社がどんどん増えていって、
ミーティングが禁煙になるんですよ。
そうすると、ぼくは、
ミーティングを抜けだそうとするわけ。 |
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で、Aにするか、Bにするか、
っていうふうに意見が割れたときに、
「もうどっちでもいいや」
って気持ちになるんですよ、吸えないと。 |
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「早く終われ」と思っちゃうわけ。
これはダメでしょう。 |
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吸いながらだったら、
「オレはBで譲らないよ」って言えるんだけど、
吸えないし、終わらないし、ってなると
自分の意見が変わっちゃうわけだよね。
そうすると、煙草のために、
自分の筋を曲げなきゃなんない。
そんなだらしないやつに
オレは仕事頼まないな、って自分で思って。 |
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いま、つらつらっと
動機が3つ語られましたけど、
どれもすごく納得できますね。
最初が、「親としての動機」。
ふたつ目が、「男としての動機」。
最後が、「社長としての動機」。
どれも、現実的な問題として。 |
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あー、そうだね。
人によって、それはいろいろだろうけど、
そういうことが重なって、
「やめるべきだ!」というよりは、
「やめられるものだったらやめよう」
っていう感じになっていくんだよね。 |
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うん。
まずは、やめる気持ちが固まった。
それで、やめる方法を探してみたら、
パッチを貼って、ニコチンを注入しながら
やめる方法があった、と。 |
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そうですね。
結果的にその方法が成功するんですが、
その、パッチを貼るという方法は、どうでした? |
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ま、タバコはやめてるんだけど、
ニコチンは入ってるっていう状態にして、
徐々にニコチンを減らしていくやり方ですよね。
それは、なにもせずに自力でやめるよりは、
ずいぶん、らくでした。 |
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もちろん、らくって言っても、
らくじゃないですよ?
ニコチンのパッチを貼ったって、
苦しいし、吸いたいし、いやだし、
犬が飼いたくて泣いたりしてるわけですから。 |
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ただ、パッチを貼ってると、
たとえニコチンを摂取しているとはいえ、
「自分がタバコを吸ってない日」っていうのが
1日ずつ、増えていくんですよ。
これはね、上達の喜びなんです。 |
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そう(笑)。
もちろん、ニコチンが入ってるんだから
中毒の状態から抜けてないともいえるんだけど、
オレはそのへんポジティブだから、
「3日も吸ってないよ!」っていうのが
むちゃくちゃうれしかったりするんですよ。 |
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で、貼ったパッチは、
だんだんちっちゃくなっていく。 |
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そうそう。
で、ちっちゃくなるまで、
けっこう時間がかかるんだよ。 |
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簡単じゃないよね、やっぱり。
中毒から抜けるわけだから。
それでも、1日ずつ上達していくのがうれしくて。
最初は、ひと月経ったらもう成功だろう、
なんて甘いことを思ってたんだけど、
ひと月経ってもできた感じがしなかった。
こう、まだまだ自分を信じないぞ、みたいな。 |
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はははは。
そう、だから、糸井さん、
なかなか原稿に書かないんですよね。
「今日のダーリン」に「禁煙が続いてます」って。 |
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ああ、だんだん思い出してきた。
で、成功したとは書かないんだけど、
ちょっとずつやめてることは知られていって、
「糸井重里さんの禁煙を本にさせてください」
みたいな依頼がけっこう来るんだけど、
「いや、いつ吸うかわかりませんから」ってことで
ぜんぶ、お断りすることになるんですよね。
「ほぼ日」のコンテンツとしても
けっきょく、はじめられなかった。 |
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で、8月2日から、ひと月過ぎ、ふた月過ぎ、
どんどん過ぎていって、
11月10日が誕生日だから、
そこまで吸わずにいられたら、
いったん、やめられたと思うことにしようと。 |
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そう。8月2日から3ヵ月で11月2日。
そこからさらに1週間ほど様子を見て、
11月10日まで禁煙できたら、ひと区切りだと。 |
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振り返ってみて、糸井さん、
ニコチンのパッチをつかった禁煙は、
「簡単ですよ」って人におすすめできます? |
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そりゃそうだよ。
そんな、お金を払ったからやめられますとか、
スイッチを押すようにやめられはしない。
やっぱり、意志‥‥うーん、
「意志」っていうことばは、
ちょっとぴったり来ないなぁ。
なんだろう‥‥要するに、
「やめたいのか、やめたくないのか」
どっちかですよね、ってことだよね。 |
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(つづきます) |
2010-10-14-THU |