糸井と永田の思い立ったら、雑談。満を持して禁煙を語る編
第3回 3つの動機と、ニコチンパッチ。
 
1日80本を吸っていた糸井さんは、
本格的な禁煙を決意し、
禁煙外来に通うことになります。
治療を受けて、いかがでしたか?
うん。
なんていうのかな、
どんな病気もそうかもしれませんけど、
お医者さんに任せていれば
自然とうまくいきます、
というものじゃないですね。
 
 
そうですね。
現実的なことでいうと、
いちばん大きかったのは、
ニコチンのパッチを処方してもらったことです。
 
 
ようするに、タバコ以外のもので
体にニコチンを入れていく。
そういうことです。
で、そのパッチをだんだん小さくすることで、
徐々にタバコから離れていくという、
そういうことを、お医者さんの立ち会いのもとに
やったということですね。
 
 
ぼくも治療に同行したので覚えてるんですけど、
お医者さんの話すニコチンの害とか、
タバコについてのデータに負けないくらい、
糸井さんもタバコについて
いろいろなことを知ってるもんだから、
治療も、最初は微妙にかみ合わなくて(笑)。
いや、やっぱり、何十年も吸ってるあいだに、
タバコを吸う人としての理論武装みたいなものは
ものすごく上達してたからね(笑)。

あとは、さっきもいったけど、中毒という黒幕が
なんとか吸わせようとして、
あの手この手で自分を甘やかすから。
いま思えば、先生には、
いろいろ屁理屈を言ったような気もします。
 
 
なんか、最後は、
友だちみたいになってましたよね(笑)。
あの、最初の診察を終えたあとの帰り道で、
「あれは効いたなぁ‥‥」と
しみじみ話したことがあるんですけど、
覚えてます?
覚えてる。少年の写真だ。
 
 
そう。
その、禁煙外来の最初の診察のときに、
「タバコを吸ってるとこんな害があります」
っていうことで、こう、
肺が真っ黒になってる写真とか、
いろんなものを見せられたんですが、
そんななかで、ぼくらがいちばん
「うわぁ」って感じたのが、
アジアのどこかの国の、
男の子がタバコを吸ってる写真。
こう、背中を丸めて、おっさんみたいな顔で。
小学生になったかならないか、
っていうくらいの歳だと思うんだけど、
すごく老けてるんだよね、全体に。
完全に「タバコを吸う人」の雰囲気で。
あれは、ショックだったなぁ。
 
 
ショックでしたねぇ。
もう、中毒になってるんだよね。
で、あれを子どもにさせるかっていったら
絶対させないですよね。
 
 
絶対させないです。
あ、それも、「灰皿を洗う人の話」と同じで
ここについてははっきり言えるぞ、
っていうことのひとつですね。
言えることの1つだね。
どれだけタバコが好きな人でも、
子どもたちに吸えって言えないでしょう。
 
 
そうですよね。
実際、糸井さんも、
ヘビースモーカーでありながら、
自分のお子さんには、
成人後もタバコを固く禁じたそうですが。
そう。
「吸ったら殺す」って言った。
 
 
1日80本吸いながら(笑)。
ぜんぜんダメだよね、それじゃ(笑)。
それは、オレがタバコを止める
動機のひとつなんです。
 
 
あ、そうなんですか。
それははっきり聞いたことがなかったです。
それだけじゃないですけど、
大きな動機のひとつでした。
子どもに「絶対やめろ」って言ってることを
自分が「中毒だからやめられません」
って言うのは、やっぱりおかしいでしょう。
 
 
なるほど。
やっぱり、そういうことが
現実的にいくつか重なって、
だんだん禁煙へ向かっていくんですよ。
もうひとつ、覚えているのは、
タバコを吸わない人と、
仕事で海外へ出かけたときのこと。
そうするとね、その人が、すごく上手に、
旅のあちこちに「タバコを吸う時間」を
つくってくれるわけ。
これがねぇ、申し訳なくて。
 
 
あああ、わかります。
その人もかつて吸ってて、
すっかりやめた人だったから、
吸う人の気持ちがわかるわけ。
で、旅の流れを止めて、
そういう時間をもうけてくれる。
オレが吸ってるあいだ、その人は待ってる。
この、「待たれてタバコを吸う」っていうのは
けっこう、痛いんですよ。
なんていうのかなぁ、
その人とは、仕事上でもいろいろ
相談し合ってたこともあって、
男どうしの勝負っていうと、大げさですけど、
男らしい心というか、プライドみたいな部分で
負けてる感じがするんですよ。
 
 
迷惑をかけている感じがつらいんですよね。
そう。
 
 
ちなみにぼくの禁煙の直接のきっかけも、
海外への取材旅行でした。
シルク・ドゥ・ソレイユの取材に行く一行のなかで
明らかに自分しか喫煙者がいないっていうんで、
とりあえずそこを吸わずに乗り切って、
そのまま今日まで続いているという。
あー、そうだったね。
 
 
そういう、
「みんなに迷惑をかけない」みたいなことって
けっこうな動機になりますよね。
なる。
とくに、自分が上の立場になるとね。
そう、ぼくのもうひとつの動機は、
経営者としての責任みたいなものだからね。
ひょっとしたらそれが最大の動機かもしれない。
 
 
はい。
ぼくも、糸井さんの禁煙を見守って、
いちばん大きな動機はそれだと感じてました。
つまり、社長だからやめるっていう。
うん。わかりやすい例をあげると、
禁煙の会社がどんどん増えていって、
ミーティングが禁煙になるんですよ。
そうすると、ぼくは、
ミーティングを抜けだそうとするわけ。
 
 
ああー。
で、Aにするか、Bにするか、
っていうふうに意見が割れたときに、
「もうどっちでもいいや」
って気持ちになるんですよ、吸えないと。
 
 
「早く終われ」と。
「早く終われ」と思っちゃうわけ。
これはダメでしょう。
 
 
まずいですね。
ものすごくまずいな、と。
 
 
うん。
吸いながらだったら、
「オレはBで譲らないよ」って言えるんだけど、
吸えないし、終わらないし、ってなると
自分の意見が変わっちゃうわけだよね。
そうすると、煙草のために、
自分の筋を曲げなきゃなんない。
そんなだらしないやつに
オレは仕事頼まないな、って自分で思って。
 
 
うん、そうですね。
だから、社長として。
 
 
禁煙。
うん。
 
 
いま、つらつらっと
動機が3つ語られましたけど、
どれもすごく納得できますね。
最初が、「親としての動機」。
ふたつ目が、「男としての動機」。
最後が、「社長としての動機」。
どれも、現実的な問題として。
あー、そうだね。
人によって、それはいろいろだろうけど、
そういうことが重なって、
「やめるべきだ!」というよりは、
「やめられるものだったらやめよう」
っていう感じになっていくんだよね。
 
 
そうですね。
禁煙の方向へ押し出されるように。
うん。
まずは、やめる気持ちが固まった。
それで、やめる方法を探してみたら、
パッチを貼って、ニコチンを注入しながら
やめる方法があった、と。
 
 
そうですね。
結果的にその方法が成功するんですが、
その、パッチを貼るという方法は、どうでした?
ま、タバコはやめてるんだけど、
ニコチンは入ってるっていう状態にして、
徐々にニコチンを減らしていくやり方ですよね。
それは、なにもせずに自力でやめるよりは、
ずいぶん、らくでした。
 
 
なるほど。
もちろん、らくって言っても、
らくじゃないですよ?
ニコチンのパッチを貼ったって、
苦しいし、吸いたいし、いやだし、
犬が飼いたくて泣いたりしてるわけですから。
 
 
そうですね(笑)。
ただ、パッチを貼ってると、
たとえニコチンを摂取しているとはいえ、
「自分がタバコを吸ってない日」っていうのが
1日ずつ、増えていくんですよ。
これはね、上達の喜びなんです。
 
 
あーー、「上達」(笑)。
そう(笑)。
もちろん、ニコチンが入ってるんだから
中毒の状態から抜けてないともいえるんだけど、
オレはそのへんポジティブだから、
「3日も吸ってないよ!」っていうのが
むちゃくちゃうれしかったりするんですよ。
 
 
はいはいはい。
で、貼ったパッチは、
だんだんちっちゃくなっていく。
 
 
たしか、大、中、小って、あるんですよね。
そうそう。
で、ちっちゃくなるまで、
けっこう時間がかかるんだよ。
 
 
つまり、ニコチンが必要なくなるまでに。
簡単じゃないよね、やっぱり。
中毒から抜けるわけだから。
それでも、1日ずつ上達していくのがうれしくて。
最初は、ひと月経ったらもう成功だろう、
なんて甘いことを思ってたんだけど、
ひと月経ってもできた感じがしなかった。
こう、まだまだ自分を信じないぞ、みたいな。
 
 
はははは。
そう、だから、糸井さん、
なかなか原稿に書かないんですよね。
「今日のダーリン」に「禁煙が続いてます」って。
信じられないんだもん(笑)。
 
 
ああ、だんだん思い出してきた。
で、成功したとは書かないんだけど、
ちょっとずつやめてることは知られていって、
「糸井重里さんの禁煙を本にさせてください」
みたいな依頼がけっこう来るんだけど、
「いや、いつ吸うかわかりませんから」ってことで
ぜんぶ、お断りすることになるんですよね。
「ほぼ日」のコンテンツとしても
けっきょく、はじめられなかった。
こっちは、それどころじゃないからさ。
 
 
そうですね(笑)。
で、8月2日から、ひと月過ぎ、ふた月過ぎ、
どんどん過ぎていって、
11月10日が誕生日だから、
そこまで吸わずにいられたら、
いったん、やめられたと思うことにしようと。
 
 
3ヵ月。
そう。8月2日から3ヵ月で11月2日。
そこからさらに1週間ほど様子を見て、
11月10日まで禁煙できたら、ひと区切りだと。
 
 
そうでした。
で、実際、そのまま今日に至る。
うん。
 
 
振り返ってみて、糸井さん、
ニコチンのパッチをつかった禁煙は、
「簡単ですよ」って人におすすめできます?
そうは言えない。
 
 
言えない。
意志がなかったらダメだと思う。
 
 
あーー、うん、うん、意志。
そりゃそうだよ。
そんな、お金を払ったからやめられますとか、
スイッチを押すようにやめられはしない。
やっぱり、意志‥‥うーん、
「意志」っていうことばは、
ちょっとぴったり来ないなぁ。
なんだろう‥‥要するに、
「やめたいのか、やめたくないのか」
どっちかですよね、ってことだよね。
 
(つづきます)
2010-10-14-THU
前へ コンテンツのトップへ 次へ
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN