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いわゆる「筆跡鑑定」と聞きますと
2時間ドラマの
相続争い裁判のシーンで出てくる‥‥みたいな
勝手なイメージがあります。
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根本 |
そうですね。
実際、裁判で筆跡が争われる場合、
そのおよそ5割が「遺言書問題」です。
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── |
あ、そんなにも「遺言」ですか。
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根本 |
で、2割ちょっとが、各種「契約書」の問題。
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── |
借用書を書いた書かない、というような。
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根本 |
そして、あとの2割ちょっとが「私文書偽造」です。
とりわけ多いのは「養子縁組」に関わる係争。
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── |
へぇー‥‥養子縁組。
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根本 |
養子縁組の届けというのは、
養父・養母の署名さえあれば大丈夫なんです。
そこに、トラブルの起きる原因が潜んでいる。
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── |
つまり、財産分与的な問題で?
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根本 |
そうですね。
なにせ毎週、相談を受けるくらいですから。
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── |
え、そんなにですか?
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根本 |
多いですねぇ。
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── |
世の中には、そんなにも養子縁組の問題が。
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根本 |
あるんです。
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── |
それは、知りませんでした。
でも今日は、それら裁判関連のお話というより
主に、文字と人との関係性みたいなことについて
筆跡鑑定人のお立場からのお話を
おうかがいできたらなと思って、参りました。
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根本 |
ほう。文字と人、ですね。
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── |
そして、もうひとつあるんですけど
これは
けっこう気になるって人も多いと思うんですが
筆跡鑑定の科学性について、です。
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根本 |
なるほど。
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── |
筆跡鑑定というのは
ある主張を裏付ける資料のひとつとして
裁判に提出されたりしますけど、
その信頼性の根拠が
どのあたりにあるのかが、知りたくて。
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根本 |
そこについてきちんと語るとなると
少々ホネですが(笑)、承知いたしました。
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── |
では、はじめの導入部分として
「筆跡鑑定とは何か」というところから
お話しいただけますでしょうか。
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根本 |
わかりました。
まず、筆跡鑑定の土台となる学問のことを
私ども、筆跡心理学と呼んでいます。
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── |
筆跡の‥‥心理学。
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根本 |
英語で言うと、グラフォロジー。
ようするに、
「文字と、その文字を書いた人の深層心理との
兼ね合いを研究する学問」です。
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── |
へぇー‥‥おもしろそう。
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根本 |
たとえばですけど、いま、私はこうして
両の掌を組んで、しゃべっていますね。
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── |
はい。
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根本 |
でもこれ、別に意識しているわけではないんです。
ならば、どうして両手を組んでいるのか。
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── |
そこに、何らかの理由があるはずだと?
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根本 |
そうなんです。このように些細な仕草にも
心理学の用語で「深層心理」、
大脳生理学的に言えば「潜在意識」が現れていると
私たちは、考えているんです。
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── |
心の奥底の何かが作用した結果、
今、掌を組んでしゃべっておられる‥‥んですね。
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根本 |
それら「潜在意識」は
個々人の個性や行動様式として顕在化します。
であるならば「文字を書く」という行為にも、
当然、それら潜在意識が
その人の「個性」として現れてくるはず‥‥。
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── |
つまり、個性が「文字の特徴」になる?
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根本 |
そうです。
そして、それら文字の特徴を見極め、
文字の書き手を識別するのが筆跡鑑定、
文字から書いた人の性格などを読み取るのが
筆跡診断です。
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── |
なるほど、筆跡「診断」もあるんですね。
それって具体的には、どんなものですか?
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根本 |
そうですね‥‥では「大阪」の「大」という漢字を
書いてみてください。
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── |
はい。(言われるがままに書く)
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根本 |
‥‥ははあ。
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── |
先生、気になるのですが。
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根本 |
ああ、いやね、いま何を見たかというと
一画目の横線の上に
二画目の「頭」がどれぐらい飛び出すか
というところ。
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── |
‥‥ええ。
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根本 |
本田宗一郎さんの「大」などを見ると、
ものすごく長く、上に突き出しているんです。
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── |
二画目が。
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根本 |
あるいはまた、以前の宮崎県の知事だった
タレントのかた、いますよね?
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── |
そのまんま東さん。
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根本 |
あのかたの書かれた「東」の字を
見たことあるんですが
一画目の上に、
ほとんど突き出ていませんでした。
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── |
二画目が。
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根本 |
そう。
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── |
‥‥そのココロは?
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根本 |
本田宗一郎さんのように
一画目の上に長く突き出す「大」を書く人は
誰かの下で働きたくないという
リーダー気質を持った人だと捉えています。
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── |
ははあ、さすがはホンダの創業者。
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根本 |
逆に、あまり上に出ていない人は
親分の下で働くのが性に合った協調型
であると考えています。
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── |
でも、東さんの場合は「知事」ですが。
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根本 |
知事さんとしてのご活躍もありましょうが、
もしかすると
官僚やお役人のほうが
もっと向いていた可能性もあるのでは、と。
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── |
言われてみれば
もともと、たけし軍団の番頭格ですものね。
ちなみに、さっきの僕の「大」は‥‥。
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根本 |
やや長めですが、まあ「ふつう」です。中間型。
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── |
リーダー的とも協調型とも言えないタイプ?
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根本 |
そうです。統計をとってみると
「リーダー気質」が20パーセント、
「協調型」が30パーセント、
「中間型」が50パーセントくらいの割合で
分布しています。
ま、こんなことが「筆跡診断」ですね。
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── |
なんか、わいわい楽しめそうな感じですね、
「診断」のほうは。
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根本 |
最近、おもしろかったのは
豊臣秀吉が書いた「ろ」の筆跡。
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── |
おお、診断されましたか。
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根本 |
ええ。彼は天下人となり、
大阪城を築き、たいへん栄華な時代を送ったけれど
筆跡診断をしてみますと
彼自身としては
さほど幸せではなかったのでは‥‥と思ったんです。
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── |
どうしてですか?
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根本 |
秀吉の書く「ろ」という平仮名は
必ず、下の部分が大きく膨らんでいるんです。
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── |
「ふくろ」の部分が、大きいと。
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根本 |
なんど書いても、そうなってしまうんです。
これ、私たちの考えでは
立身出世して世間に名をしらしめたい
という
エネルギッシュな性格を表しています。
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── |
秀吉のイメージ、そのままですね。
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根本 |
ところが秀吉に、さっきの「大」を書かせると
ぜんぜん上に突出しないんです。
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── |
えっと、つまり‥‥協調型?
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根本 |
残された文字から推察するに
彼は決して
リーダー気質のある人ではなかったのではないか。
それなのに、出世欲があって、才覚もあったから
ああして
武家のトップにまで上り詰めてしまった。
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── |
もともとは、織田信長の番頭格‥‥。
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根本 |
ですから、筆跡心理学的な観点から見ると
彼の「意識」と「立場」の間には
ある種の葛藤があったのではないかな、と。
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── |
「天下を取って幸せだなあ!」というより、
天下人として
かなり無理していたのでは‥‥ということですか。
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根本 |
そういう仮説を立てたんです。
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── |
はー、おもしろい。
でも先生、それらの「文字による特徴」というのは
どうやって割り出したんですか?
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根本 |
たくさんの人の文字と性格との間の関連を
検証してみた結果ですね。
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── |
つまり、地道な作業の積み重ね?
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根本 |
はい。
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── |
たくさんの人の書いた文字を
すごい量、ごらんになったということですか。
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根本 |
ええ。先ほどの「大」の「上方突出」ひとつ
割り出すだけでも
最低でも100人以上の
文字と性格を観察し検証していますので。 |
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<つづきます> |