── |
それでは、新人時代の「失敗談」とかがあれば
おうかがいしたいんですが。 |
渡辺 |
そんなにキレイな失敗談と言えるかどうか
わからないんですけど‥‥。
これも、さんまさんの番組で
『心はロンリー気持ちは「…」』
という、三宅さん演出の
伝説的なドラマシリーズがあるんですね。 |
── |
ええ、ストーリーとまったく関係ないギャグが
ところどころに
散りばめられている、異色のドラマですよね。 |
渡辺 |
そのドラマのADをやらせてもらったとき、
ハブが出てくるシーンがあって。 |
|
── |
ハブ。‥‥ヘビの? |
渡辺 |
そうです。あの猛毒のハブですよ。
そんなもの、
簡単に撮影できないじゃないですか。 |
── |
ええ‥‥おもしろい気配がしてきました(笑)。 |
渡辺 |
だから最初「ハブ酒のハブ」を使ったんです。 |
── |
‥‥死んでるじゃないですか。 |
渡辺 |
そりゃあだって、本物は猛毒があるんですから!
だからぼくらは「ハブ酒のハブ」を
持ってきてですね、
それを「ギューッ!」と引っ張って伸ばして
あたかも
猛毒のハブが動いているように撮ったら
うまくいくんじゃないかと、現場の判断で。 |
── |
なるほど。 |
渡辺 |
かすかに「そんなことで成立するのかな」と
思ったんですけど、
ともかく、
ハブ酒のハブを、ぼくが手で動かしたんですよ。 |
── |
はい、ええ。 |
渡辺 |
ハナから干からびてるんですよ、そいつ。 |
── |
わはははは、そりゃそうだと思います(笑)。 |
渡辺 |
でも、カメラさんだって真面目に撮ってるし、
きっちりライティングもしてる。
だからぼくも一生懸命、動かしたんです。
でも、
ぜんぜん生きてるように見えないんです。 |
|
── |
はい‥‥はい(笑)。 |
渡辺 |
たぶん、さんまさんも
「くだらねぇな」とか思いながら
そのようすを眺めてるわけです。
まぁ、ふつうに考えたら
あんなのがハブに見えるわけないんですけどね。 |
── |
そんな気がしますね‥‥。 |
渡辺 |
でもそこで、演出の三宅さんが
どう見たって生きてるハブに見えないものを、
「おまえ、
ハブの気持ちになってねぇだろう!」って
怒るんですよ。
「だからハブに見えないんだ!」って言って。 |
── |
‥‥「ハブの気持ち」ですか。 |
渡辺 |
そこから、何十テイクも撮りました。
ハブの気持ちになって。 |
── |
ははーーっ‥‥。 |
渡辺 |
もうね、ドロドロになりながらやったのに
一向にOKが出ず、
「オレはハブの気持ちにはなれないんだ」
と、落ち込んだ記憶があります。 |
|
── |
そんな失敗談‥‥。 |
渡辺 |
ええ、わかってます。
やっぱり何の参考にもなりませんでした。 |
── |
いや‥‥ちなみに
最終的にはどうされたんですか? |
渡辺 |
ハブ取り名人に来てもらって。 |
── |
はい? |
渡辺 |
ハブ取り名人に来てもらって
生きたハブを撮影しました。 |
── |
何十テイクも撮った挙句に? |
渡辺 |
そうです。 |
── |
‥‥。 |
渡辺 |
ただね、先輩がたからよく言われたのは、
「エキストラでもなんでも
気持ちが大事だ」ということなんです。
クマのぬいぐるみを着て出たときには、
「クマの気持ちになってないからNG」
とかね、よくありましたよ。 |
|
── |
それ、知り合いのテレビ局勤務の人から
まったく同じことを聞いたことあります。 |
渡辺 |
だから、そうですね‥‥。
もう少しわかりやすい話をするなら
やっぱり
「おもしろいことを言えなかった。
おもしろい台本を書けなかった」
これが、いちばん落ち込みますよ。 |
── |
なるほど。 |
渡辺 |
ご存知かと思うんでうけど、
番組の収録前に「前説」というのをやるんです。
で、その前説の台本も書くんですけど、
反応がイマイチだと
「ああ、なんでウケないのかなぁ?」って。 |
── |
やっぱり「笑い」に戻ってくるんですね。 |
渡辺 |
だからこそ
「よし、次の前説ではこうしてみよう」とか、
つねづね考えているし、
そこは日々、試行錯誤の連続なんです。 |
── |
なんかお聞きしていると
毎日毎日、かなり緊張感のありそうな‥‥。 |
渡辺 |
ありますよね、それは。
でもそれは、どの仕事も同じじゃないでしょうか。
ただ、ぼくは「失敗」について言えば、
「ミスは、ぜんぶチャンスにつながる」
と思うようになりました。 |
|
── |
なるほど。
でも、その思い込みは大切ですよね。
仕事をしていたら
絶対にミスはしてしまいますから。 |
渡辺 |
そうそう、そこでいちいちヘコんでいたら
どんどんおもしろくなくなるんですよ。 |
── |
自分がね、ええ、ええ。 |
渡辺 |
だから今では、失敗しちゃったときは
「ヤバイ」よりも先に
「おいしい」のほうに
思考回路がシフトしてきていますね。 |
── |
ははぁ。 |
渡辺 |
「ピンチはチャンス」で
「失敗はぜんぶおいしい。ウケるから」‥‥。
そういう思考回路になっていくと
たいていの失敗は
落ち込まなくて済むんですよ。 |
|
── |
な、なるほど‥‥。 |
渡辺 |
だからって「ミスしていい」ってわけじゃ
ありませんけどね。ははははは。 |
── |
‥‥渡辺さんは
今後も、ずっと「笑い」をやりたいですか? |
渡辺 |
もう「笑い」以外は、やりたくないです。 |
── |
今日は、渡辺さんが
「テレビ大好きっ子のまんま、
大人になっちゃった」という感じが
たいへん伝わってきて、良かったです。 |
渡辺 |
だってテレビがついてないとイヤですもん。 |
── |
そこまでですか。 |
渡辺 |
テレビが消えてるってこと自体、イヤ! |
── |
‥‥消えてますけどね、今。 |
|
渡辺 |
‥‥ショックですね。 |
── |
あはははは、ショックですか(笑)。 |
渡辺 |
ま、ともかくもですね、
これまでさんまさんと三宅さんに‥‥うわっ! |
── |
‥‥? (入り口のほうを振り返り)うわっ! |
|
三宅 |
いろいろあのう、すいません。 |
── |
三宅さんです!
先ほどから何度もお話に出ている
三宅恵介さんが登場しました! |
渡辺 |
どどどど、どうしたんですか? |
三宅 |
おまえ、何か偉そうに喋ってないか? |
渡辺 |
いやいやいやいやいやいやいやいや! |
── |
はい、あの、すごく素敵なお話を
たくさん聞かせていただきまして。 |
三宅 |
本当ですか。 |
── |
本当です。 |
三宅 |
それなら、よかったです。 |
渡辺 |
いやでも、えーと、どうされたんですか? |
三宅 |
オマエが心配だから見に来たんだよ。 |
渡辺 |
ありがとうございます(笑)。 |
── |
美しい師弟愛ですね‥‥。 |
三宅 |
いや、そんなんでもないんですけど‥‥
糸井さんに
くれぐれもよろしくお伝えくださいね。
それじゃ。
(三宅さん、部屋を出て行く) |
渡辺 |
‥‥あー、ビックリした。 |
|
── |
何だったんでしょうか。 |
渡辺 |
わかりません。 |
── |
ええー‥‥気を取り直しまして、
最後に、
渡辺さんが「大切にしていること」って
何か言葉になっていますか? |
渡辺 |
テレビ屋をやるうえで?
そうですね‥‥若いころは、ただ闇雲に
「おもしろい番組を作りたい」
と思っていました。
そのときは、それでよかったと思うんです。 |
── |
ええ。 |
渡辺 |
でも最近では、
たとえばイヤなことがあった日でも
「8チャンネル」を見れば
元気が出てきたり、
笑顔になってもらえたりすること。
そう、思うようになりましたね。 |
|
── |
なるほど‥‥ちなみに渡辺さんは、
芸人になろうとは思わなかったんですか? |
渡辺 |
いやいやいや、思わないですよ!
だって、芸人さんを尊敬してるからこそ、
この仕事ができるんですから。 |
── |
尊敬、ですか。 |
渡辺 |
芸人さんってすごいんですよ、本当に。
「よくあんなおもしろいことを
喋れるなぁ」
と、いつも思ってますからね。 |
── |
そうですか。 |
渡辺 |
それは、ぼくより年が若かろうが何だろうが、
尊敬してるし、憧れてる。
で、そうやって尊敬し、憧れている人たちの
「魅力」を「伝える役」なんでしょうね。
ぼくがやってる「テレビ屋」っていう仕事は。 |
── |
なるほど‥‥「伝える役」ですか。
今日は、ありがとうございました。 |
渡辺 |
ありがとうございました。
<おわります> |
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