博士 |
ワッハッハッハッハッハッ
ハッハッハッハッハッハ! |
アジオ |
ああっ! 笑った! |
博士 |
ヒッ〜ヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒ!
あ〜苦しい! |
アジコ |
博士の嘘つき! |
博士 |
いやあ、ごめんごめんおふたりさん。
しかしこれは傑作だよ。 |
アジオ |
傑作なものかい。あんなに笑っておいて! |
アジコ |
そうよ!ひどいわ! |
博士 |
まあまあ落ち着いて。
確かに笑ったのはいけなかった。
でも傑作というのは本当だよ。
君たちは味写ということばを知っているかい? |
アジオ&アジコ |
味写? |
博士 |
実はいま私が日夜研究している
新しいタイプの写真スタイル、
それが味写なんだ。 |
アジオ |
へえ、面白そう!
どんな写真なんだろう? 味写って。 |
博士 |
いま君たちが私に見せてくれたその写真、
まさにそれが味写だよ。 |
アジオ&アジコ |
ええ〜!! |
アジオ |
ねえ、博士!
この写真のどこがその‥‥味写なんですか? |
博士 |
じゃあもう一度、君たちの写真を見てみよう。
アジオ君はこれが失敗だと言ったけど、
具体的にどこが失敗だったと思うんだい? |
アジオ |
だってこれは運動会で
友達のヨシ子ちゃんを撮った写真なんだけど、
なぜか顔が笑ってるでしょ。 |
アジコ |
本当は彼女、真剣に走っていたんです。 |
博士 |
でも写真ではなぜか
フザケているようにしか見えない。
他には? |
アジオ |
ポーズもなんか、
かっこよく走ってる感じじゃないし、
あと手前のおじさんが‥‥。 |
アジコ |
全然知らない人なんです。
なのにこの人まるで先生みたいに‥‥。 |
博士 |
全く知らない人が主役のように写ってる。
これも君たちにとっては失敗だ。 |
アジオ&アジコ |
はい。その通りです。 |
博士 |
素晴らしいじゃないか!
やはりこの写真は味写として
申し分ない作品だよ。 |
アジオ |
ますます分からなくなっちゃった。
どういうことですか? 博士。 |
博士 |
君たちは運動会でさっそうと走る
ヨシ子ちゃんを映したくてこの写真を撮った。
しかし撮れたのは
知らないオッサンから特訓を受ける
半笑いの女の子だ。 |
アジコ |
身も蓋もない言い方だけど、確かにそうね。 |
博士 |
間違いだらけの写真が、
結果として全く違うドラマを
作り上げている。
これは味写にとって
とても大切な条件なんだよ。 |
アジコ |
ただの偶然じゃないかしら。 |
博士 |
その偶然が難しいのさ。
それに偶然だけで
こんなに面白い写真が撮れたんだ。
これはひょっとするとUFOを撮るより
ずっと大変なことかもしれないぞ。 |
アジオ |
えっ! UFOよりも!? |
博士 |
その通り。
現実には起こらなかったはずの出来事が
この写真の中にだけで起こっているんだから。
そんな非現実を映したという点では
UFO写真よりも貴重だと思うよ。 |
アジオ |
やったー! 大スクープだ! |
アジコ |
まあ、単純ね。 |
博士 |
実は私も持っているんだ。味写作品をね。 |
アジオ&アジコ |
是非見せてください。博士! |
博士 |
ほう。ずいぶん興味が出てきたみたいだね。
ではお見せしよう‥‥はい!
|
アジコ |
キャー! 赤ちゃんがっ! |
アジオ |
し、心霊写真だっ! |
博士 |
とんでもない。
これは私の知り合いが自分の子供たちを撮った
味写作品だよ。 |
アジオ |
じゃあテーブルの下のこの赤ちゃんは? |
博士 |
もちろん幽霊なんかじゃない。
ちゃんと生きてるよ。 |
アジコ |
ホッ。安心したわ。
でもなぜこんな不吉な構図に? |
博士 |
そこが味写の面白いところなんだ。
この写真を撮ったお父さんだって
なにもわざわざ自分の息子を
心霊風に撮ったわけじゃない。
もうひとりの娘さんを撮ろうとしたら、
たまたまテーブルの下に潜り込んでいた
弟さんが顔を出したというわけさ。 |
アジオ |
なあんだ、そうか。
それにしても絶妙ですね。顔の見え具合が。 |
アジコ |
この力強い眼差し。
なにか私たちに重大なメッセージを
送っているように感じない? |
アジオ |
うん、感じるね。
人類に対する深い問いかけを‥‥。 |
アジコ |
戦争、飢餓、環境破壊‥‥
いいえ、それさえも超えた宇宙のメッセージを! |
アジオ |
それにしてもなぜテーブルの下になんかに
潜ってるんだろう? |
アジコ |
ひょっとしてこのテーブル、
この赤ちゃんが支えているのかも。 |
アジオ |
壊れた足の代わりに?
なんてがんばり屋さんなんだ! |
アジコ |
なにのんきなこと言ってるの、虐待だわ!
いまスグ110番。警察よ! |
博士 |
おやおや、すっかり味写の世界に
入り込んでいるようだね。 |
アジオ |
ハッ! すいません、博士。
つい夢中になってしまって。 |
アジコ |
まあホント。恥ずかしいわ。 |
博士 |
いやいや、君たちはカンがいいぞ。
味写を味わうとはそういうことなんだ。 |
アジオ |
味写を味わう? |
博士 |
そう。
この写真だって実のところは
今日君たちが見せてくれた写真と同じ失敗作だ。
でもそんな写真でも
私たちが想像を膨らませることによって、
途端に面白い味写作品になったじゃないか。 |
アジオ |
なるほど。
確かに最初は見切れた赤ちゃんの顔に
びっくりしただけだったけど‥‥。 |
アジコ |
いろんな感想を話し合っているうちに、
どんどん楽しくなってきたわ。 |
博士 |
うん、それが味写を味わうということなんだ。
どんな失敗写真だって味写になる可能性はある。
大切なのは私たちがそこに
新しい「味」を発見できるかどうかなのさ。 |
アジオ |
味のことなら任せてよ!
こう見えてボクはグルメなんだぜ。
よーし、じゃんじゃん味わうぞ! |
アジコ |
ウフフ、食いしん坊ね!
|