第1回 重要なのは「イシュー」だ。

多くの人は「解の質」が仕事のバリューを決める、と考えている。そして「イシュー度」つまり「課題の質」にはあまり関心を持たない傾向がある。だが、本当にバリューのある仕事をしようとするなら「イシュー度」こそが大切だ。なぜなら「イシュー度」の低い仕事は、それに対する「解の質」が高かろうと、価値はゼロに等しいからだ。(抜) ーー『イシューからはじめよ』p26より
糸井 はじめまして。
安宅 こんにちは。
糸井 安宅さんの『イシューからはじめよ』
読ませていただきました。
安宅 ありがとうございます。
糸井 震災が起きた直後に。
安宅 ああ‥‥。
糸井 読み終えて、あの時期、この本を読んだことに
とても大きな意味があると思ったんです。
安宅 そうですか。
糸井 ひとつは、自分のなかの「国際感覚」について。
安宅 国際感覚。
糸井 これまでの僕には、外国語を話す外国の人とでも
仲間になれるんだという意識や
仕事の相手として
日本人と同じように付き合っていけるという発想が
正直いって、薄かったんです。
安宅 はい。
糸井 それも、かなり。
安宅 なるほど。
糸井 でも最近、
ボストンのベンチャー起業家と話したり、
ブータンの政府の人やお坊さんたちと会って、
大きな影響を受けたんですね。
安宅 かなり、空間的にも広がりのある‥‥。
糸井 そういう旅が続いたんです。
安宅 ええ。
糸井 頭が、とってもスッキリしました。
安宅 そうですか。
糸井 何と言ったらいいのか‥‥「おもしろい人」の
「おもしろさ」というのは
ボストンであれ、ブータンであれ、
そこがどこであれ、「世界標準」だなあ‥‥と。
安宅 うん、うん。
糸井 世界の大河へつながる源流に、
それぞれ、立っているんです。
安宅 なるほど。
糸井 ブータンでは
一見「若い日本人の女の子」なんだけど
首相フェローを務めていた
御手洗瑞子さんに間に入っていただいて
政府レベルの人たちの
「頭の中」を、知ることができました。
安宅 あ、御手洗さんとは、
マッキンゼー時代に一緒だったんですよ。

わずかな時間ですけど。
糸井 そうそう、そうなんですよね。その彼女です。

で、ブータンという小国は、
うかうかしてたら
「中国」に飲み込まれてしまいそうになるので
インドとの関係を強化したり、
今じゃすっかり有名になった
「国民総幸福量」という指標を発明したりして
うまく立国しようとしている。
安宅 ええ。
糸井 そこには、ドメスティックなふりをして、
実はものすごくグローバルな視点がある。

そんな国に、マッキンゼー出身の
日本人の若い女の子が潜り込んでいたり、
逆に、お坊さんたちも
海外で勉強してきた人たちだったり‥‥。
安宅 はー、そうなんですか。
糸井 決して資源や資本や産業が豊かでないブータンで
「イメージ」だけを武器にして
国際的な経験や価値観を持ったエリートたちが
どんな国をつくっていくのか。

そのことに、すごく興味があったんです。
安宅 ええ、ええ。
糸井 そのことが、ひとつです。
で、もうひとつは、やはり「東北」のこと。

国外へ向けた視線の反対側には、
やはり「東北」という場所が、ありまして。
安宅 はい。
糸井 何にもなくなったとき、人はどう動くのか。

学ばされることが非常に多いですし
「ゼロ」になったことで、
胸のすくようなアイディアが出たりもする。

環境や動機は異なっているとしても、
ボストンのベンチャー起業家や
ブータンの人たちと
考えていることの「質」が
どこか似ているな‥‥と思ったんですよね。
安宅 なるほど、そうですか‥‥。
糸井 何となく、そんなことを考えていたときに、
安宅さんの
『イシューからはじめよ』を読んだんです。

そして、
この本を書いた人にお会いしたいなぁって。
安宅 そういう経緯があったんですね。
糸井 震災後、誰も考えを整理できていない状態で、
僕もジタバタしていました。

テレビのニュースを見たりしても
「解決すべき問題」を
示してくれることなんてないじゃないですか。

つまり「イシュー」の在り処を
親切にも、教えてくれるなんてことは‥‥。
安宅 ないですよね。
糸井 それぞれの問題に優先順位をつけてしまったら
リストから外れたものを
無視したように見えてしまう恐れがあるし、
問題点を明確にしないほうが
耳目を惹きつけられる、ということもあります。
安宅 はい、はい。
糸井 どうすれば東北の復興を成し遂げられるのか、
というのは、
本当に大きな問題ですけど、
安宅さんの本に書かれているようなことを
みんなで共有できたら、
少なくとも考えの手がかりは掴めそうだ、と。
安宅 東北を「復興する」というのは
一日も早い達成が望まれる問題ですから‥‥。
糸井 いま、自分の置かれた局面で、
答えを出す必要性の高い問題とは、何か。
安宅 はい。
糸井 それが、安宅さんのおっしゃる
「イシューを見極める」ということですよね。
安宅 そうです。

ビジネスでも研究活動でも、
本当に、バリューの高い仕事をして
世の中にインパクトを与えようとするならば、
「イシュー」こそが重要です。
糸井 そしてその考え方って、
「東北」に関しても同じことだよなぁって
思ったんです。
安宅 はい。
<つづきます>
2012-01-12-THU

『イシューからはじめよ』

私たちが「大事だ」と思って取り組んでいる
仕事の大部分は、
「いま、この局面で解決すべき問題
 =イシュー」ではない?
本当に価値ある仕事をするためには
「イシューの見極めこそが重要」と説く
シンプルかつ気づきの多い知的生産の本です。

安宅和人 著
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