糸井 |
ブータン初の日本人公務員として
1年間、過ごされたあと、
久々に日本に帰ってきて、いかがですか。
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御手洗 |
やっぱり日本は快適でいいですね。
寒い夜に家に帰っても、
すぐに温かいお湯のお風呂を入れられますし、
朝は、ふとんの中からエアコンをつけて
部屋を温められますし。
うわぁ、うれしいなぁ、としみじみ思います。
それから、私自身がちょっと
ブータン化しちゃったみたいだ、と気がつきました。
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糸井 |
ブータン化(笑)。
具体的にはどんな感じなんでしょうか。
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御手洗 |
帰国後に日本の友達と会ったら、開口一番、
「しゃべるのが遅くなっているけど、大丈夫?」
と指摘されてしまいました(笑)。
それに、予定通り物事が進まないことに対して
あせらなくなったり、
働いていない、のんびりした状態が好きになったり‥‥。
ちょっと、いいかげんになったみたいです。
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糸井 |
もともとはそんなに
いいかげんじゃない人だったんですか。
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御手洗 |
どちらかというと、たぶん
いいかげんじゃない人間だったと思います。
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糸井 |
よく漫画に出てくる
野球部の女子マネージャーみたいな人?
しょうもない人ばっかり集まっているチームの中で、
脱ぎ散らかした洗濯物を
「んもうっ」ってプンスカ怒りながら
片づけているような。
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御手洗 |
うーん、そうかもしれないです。
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糸井 |
じゃ、そういう子がブータンに行って、
ずっと「んもうっ」と言っていたんですね。
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御手洗 |
たしかにそうだったかもしれないです。
ブータンでは、みんなが
ユニフォームを脱ぎ散らかす野球部員みたいな(笑)。
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糸井 |
「んもうっ、洗濯よ!」みたいな。
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御手洗 |
そうですね(笑)。
でも、「んもうっ」と言いながら
過ごしてきたつもりが、日本に帰ってくると、
「お、どうやら私も日本人の中では
ブータンっぽくなっちゃったらしい」
ということに、気がつきました。
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糸井 |
南伸坊とぼくがブータンを訪れた「黄昏」で、
あなたがガイドしてくださったときのことを
いま思いだしていたんですけど。
たしかに「んもうっ」と言っていましたね。
ぼくと伸坊については、
「ほんとにしょうがないなぁ‥‥」って
思ったんでしょうね。
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御手洗 |
そんなことないですよ(笑)。
糸井さんと伸坊さんがいらっしゃって、
道中ずっと、漫才のようにお二人で掛け合いをされていて、
みんなけらけらと笑いっぱなし。
その雰囲気が、なんだか
すごくブータンらしかったといいますか。
ブータンの人って、しょうもない話を
日がな一日して笑っているのが好きなんですけど、
それと同じ空気を感じました。
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糸井 |
ああ、たしかにそんな感じでした。
あの旅はよかったです。
思い出のブータン旅行ですよ。
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御手洗 |
あぁ、よかった。うれしいです。
ブータンの人たちも、
糸井さん、伸坊さんとの時間を本当に楽しんでいました。
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糸井 |
ぼくは、ブータンに行く前に
ブログとツイッターを通じて
御手洗さんのことを知ったんですが、
いくつか誤解していた面があって。
あなたはべつに、
ブータンにずっと暮らしていた人じゃないんですよね。
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御手洗 |
そうなんです。
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糸井 |
なのに、ブータンを案内する側で。
10年いたわけでもないのに、
10年いたかのように
振る舞わなければならないというか、
状況によってはブータンの代表のように。
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御手洗 |
そうですね。
ブータン政府の人間として、
海外からのお客さまをお迎えしなくてはいけなかったり。
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糸井 |
「んもうっ」っていうタイプの人なんだろうな、
ということは、薄々気づいていたんですけど、
それはそれとして、優等生的に、
「私は公務員です。ブータンをご案内します」
っていうのを役割として、
ちゃんとやってましたよね。
そのギャップが、ぼくはおもしろくて。
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御手洗 |
あはははは。
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糸井 |
「無理だろう、それは」と思いながら、
そこのところを楽しんでいたんです(笑)。
だって、つい役割をわすれて
「本人」になっちゃう部分がありますよね。
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御手洗 |
はい(笑)。
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糸井 |
その、「本人」と「役割」の行ったり来たりが
見ていておもしろかった。
御手洗さんが書いていたブログの
おもしろさの本質もそこにあるんですよ。
ブータンの公務員として
ブータンを賛美するだけじゃなくて、
ちゃんと愚痴を言ったり、
「ブータン、変だぞ?」って
書いたりするからおもしろい。
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御手洗 |
ありがとうございます。
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糸井 |
でも、それってなかなか簡単なことじゃないんです。
つまり、その役割に徹して、
ほんとの自分を出さないほうがラクなんですよ。
「本人」の部分を出すためには、
自分の警戒心も解かないとダメだし、
自分の「本人」の部分が
受けとめてもらえる状況がなきゃダメだし。
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御手洗 |
そうですね。
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糸井 |
あの、昔の飛行機ってね、
着陸する前にお菓子を配っていたんです。
いまでいうキャビンアテンダントの人が
お盆にお菓子をいっぱい持ってきてね。
で、ぼくが「どれがおいしいの?」と聞いたら
「どれも」って言うわけです。
それが公務員の態度ですよ。
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御手洗 |
はい。
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糸井 |
でも、「この人は話が通じるな」と思った人に、
「いちばんおいしいのは、どれ?」って聞くと、
「どれもおいしいんですけど‥‥
(小声で)これはちょっと‥‥」
って言ってくれたりするんです。
その、「これはちょっと」に出会えるのが、
ぼくらはうれしいんですよ。
だから、御手洗さんのツイッターもブログも
たくさんの人に読まれたし、
そのブログが本になったりもするんです。 |
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(つづきます) |