- 高橋
- ‥‥で、そういう意味で申し上げますと、
いま「肥満」って、すごく問題になってますよね。 - 糸井
- おおっ、いきなり来たよっ!(笑)
- 高橋
- ええ(笑)、はい、あのですね、
肥満にまつわる問題には
本当に、いろんな論点があると思うんです。 - 糸井
- ダイエットから経済格差論まで。
- 高橋
- そう、さまざまな「肥満論」がありますが、
本日、わたくしからは
主に「人はなぜ、太るのか」という点について
お話できたらと思っているんです。 - 糸井
- 人はなぜ、太るのか。
- 高橋
- いま、よく言われている話は、こうです。
「太るというのは、正常じゃない。
あなたの生活習慣に、何らかの問題がある。
努力が足りないんです。
だから今日から、がんばって痩せなさい」
と‥‥。 - 糸井
- ええ。
- 高橋
- そんなふうに語られることが多いでしょう、
肥満の問題って。 - 糸井
- 睡眠の話と同じ構造ですね。
- 高橋
- そう、「眠れないあんたが悪い」式の、
どうしても
そういう枠組みで語られちゃうんだな。 - 糸井
- 治療の対象、みたいな。
- 高橋
- そうそう。
- 糸井
- 正常から逸脱してしまった状態であると。
- 高橋
- もちろん、最終的にはね、みなさんが
ご自身の生活の中で
前向きに取り組んでいただかないと
解決しない問題であることは、確かなんですが‥‥。 - 糸井
- でも先生、あの‥‥いま、ぼくらの社会って
「脅迫型」の商品であふれてますよね。
これを買わないと、仕事に差し支えますよ、
これをやらないと、病気になりますよ、
これを知らないと、ちょっと恥ずかしいですよ‥‥。
- 高橋
- ええ、ええ。
- 糸井
- そういう言いかたで、袋小路に追い詰めて
モノを売る方法って
いわば「暴力」とさえ言えると思うんです。
「脅迫型の市場マーケティング」というか。 - 高橋
- そうですね。
- 糸井
- もちろんそれは、人間の歴史を振り返れば
原始人だった時代から
同じようなことを、やってきたんだと思うんです。
「お前ら、オレのあとに付いて来なかったら、
獲物が捕れないぞ」とかって言って、
リーダーは集団を組織してきたわけですから。 - 高橋
- 逆に言えば、ずうっと続いてきたってことは、
そこに、何かしらの
明確な「メリット」があったわけですけどね。 - 糸井
- でも、やっぱりぼくが思うのは
「好きでやってることじゃないと、長続きしない」
ということなんです。 - 高橋
- ああ、なるほど。
- 糸井
- もっと根本的な言いかたをすると
「人間、本当にイヤなことはしない」。
そういうもんだと、思うんですね。 - 高橋
- そういうもんですねぇ。
- 糸井
- つまり「病気になるよ、痩せなきゃダメ!」と
脅迫的に言われても
「なかなかダイエットが成功しない、
続かない理由」って
そのへんの人間理解にあるんじゃないかと。 - 高橋
- 食べることをがまんするのは、苦痛ですからね。
- 糸井
- 反対に、ぼくが「計るだけダイエット」で
まぁ、うまくいっているのも、
やっていて楽しいからなんですよ、きっと。 - 高橋
- その点は、ようくわかります。
ぼくらが味の素でつくってる健康食品も
「ああせい、こうせい」言わないの。 - 糸井
- そうですよね。
- 高橋
- 「グリナ」の例で申し上げると、
「これを飲まなきゃ、眠れません」じゃなくって
「前向きな気持ちで、
この食品をサポートとして使ってもらえたら、
そんなにがんばって努力しなくても
よい休息がとれますよ」と、こういうふうに。 - 糸井
- うん、うん。
- 高橋
- そういう気持ちで続けてもらうことが、
大切だと思っているんです。 - 糸井
- それと先生、もうひとつ思うのは、
メタボ問題やダイエットについての話、
つまり、大部分の人にとっての
「肥満の話」って
実は「美容の話」なんじゃないかと思っていて。 - 高橋
- 太るのはみにくいわ、と。
- 糸井
- ようするに「自分なりの理想のカラダ」
というものがあって、
それにくらべて「逸脱してる」から
どうにかしなきゃという、
「美容としてのダイエット」から
スタートしてる人が多いと思うんですよ。
- 高橋
- 確かに、そうかもしれません。
- 糸井
- まず、ぼく自身が、まったくそうなんです。
つまり、むかしは腹の出ている人を
さんざんからかってたおぼえがあるんです。
でも、自分が歳をとってからは、
夏になると、ちょっとこう腹をへこまし気味で
人前に出るようなね‥‥。 - 高橋
- ははははは。
- 糸井
- いや、それはぼくの「見栄」なんですよ。
見栄なんですけど、
それが、同時に健康によくないとしたら‥‥。 - 高橋
- 確かに「肥満」は、健康を損ないます。
そのこと自体は、まったく正しいんですけど、
ぼくが申し上げたいのは、
なんと言うかな、その‥‥もう少し気楽に、と。 - 糸井
- はぁ‥‥気楽に。
- 高橋
- だってホラ、
「もともと太るようにできてる」んだから、
ぼくたち人間ってのは。 - 糸井
- ははぁーーー。
- 高橋
- そのへんの議論から出発すべきだなぁと、
ぼくなど
いろんな「肥満論」を見て思うわけです。
研究者の端くれとして。 - 糸井
- そういう「気楽にね」なんてメッセージは、
必ずしも専門家の口からは出てきませんよ。 - 高橋
- 出てこないでしょうね。
- 糸井
- いやぁ、なるほど‥‥あの、つまりですね、
高橋先生と
「肥満」についてお話ししたいなと思ったのは、
まさにそういう理由なんですよ。
「脅迫型」ではない枠組みで語られる
「太る」の話が、お聞きしたいんです。 - 高橋
- それなら、少しはお役に立てるかもしれません。
- 糸井
- じゃあ、とっかかりとして、まずは
先ほどおっしゃった
「人間、太るようにできてるんだよ、もともと」
という話から、お伺いしても? - 高橋
- はいはい、わかりました。
それでは、そのあたりからいってみましょうか。