700万年前にアフリカで生まれた人類が、 世界に拡散していった道すじ「グレートジャーニー」。 その軌跡の中でも、アフリカから南米最南端までという、 「いちばん長い距離を旅した人々のルート」を 近代的動力に頼ることなく、 (つまりは、徒歩・自転車・カヤック・馬・犬ぞりなどだけで) 逆ルートで踏破した探検家、関野吉晴さん。 このたび、その関野さん監修による 「グレートジャーニー 人類の旅」展が開催されるということで、 「お会いしてみませんか」と糸井重里にお話があり、 もともと、興味を持っていた糸井が 「ぜひお話を聞いてみたいです」と、対談をしました。 関野さんが、世界のあちこちで体験してきた 考えさせられるエピソードの数々と、 ぶれない考え方を持った関野吉晴さんという人の魅力を どうぞ、おたのしみください。
第0回 「グレートジャーニー」という壮大な旅のこと。
第1回 太古の人々の感覚に近づくために。
第2回 世界でいちばんでかい川。
第3回 「やりたくて、できる最高のもの」をやろう。
第4回 セイウチをホッキョクグマが襲うのを見たい。
第5回 友達でいたいから、医者になった。
第6回 「違い」を「すげぇな」と言えること。
第7回 その海に、とびこみたい。
関野吉晴さんプロフィール  
第0回 「グレートジャーニー」という壮大な旅のこと。
 

約700万年前に生まれた原生人類は、
およそ6万年前にアフリカを飛び出し、
果てしなく長い時間をかけ、
世界のあちこちに拡散していきました。

その壮大な人類拡散の過程を
ブライアン・M・フェイガンというイギリスの考古学者が、
「グレートジャーニー」と名付けました。
基本的に「熱帯性の動物」であるヒトが、
アフリカからユーラシア大陸を経て、
広大な無人の新大陸(南北アメリカ大陸)へと旅していった、
この過程「グレートジャーニー(The Great Journey)」は、
人類の歴史のなかでも
最大級の冒険、と位置づけられているものだそうです。

その「グレートジャーニー」のなかでも、
もっとも長い距離を旅した人々の軌跡が、
ベーリング海峡をわたって
(=ユーラシア大陸と北米大陸をつなぐ海峡です)
南米最南端までたどりついた人々の旅路。

1993年、
関野吉晴(せきのよしはる)という探検家が
その、いちばん長い距離を旅した人々の来た道を、
逆向きにたどることをはじめました。
南米最南端のナバリーノ島から、アフリカ・タンザニアまで。
それが、関野さんの「グレートジャーニー」です。


関野吉晴さんの「グレートジャーニー」のルート


地図デザイン:棚橋早苗
地図素材©デザインエクスチェンジ株式会社


「太古の人々が旅で感じていたことを、
 自分も味わってみたい」
そう思った関野さんは、
自動車やバイク、電車、飛行機といった
「近代的動力はつかわない」というルールを自分に課し、
徒歩や自転車、カヤック、
馬、らくだ、犬ぞり、トナカイのそりなどを使い、
旅をしていきました。

自分が操れない動物は、
土地に暮らす人々に、その扱い方を教わって、
「自分で括れるようになったら、つかっていい」
というルールにしたそうです。

ベーリング海峡など、一度で渡ることができず
何度目かの挑戦でやっと進めた箇所もありました。

先へ先へ急ぎすぎるのではなく、
「寄り道」を大切にしながら旅をしよう、と考え、
世界のあちこちで、さまざまな家族のもとに
滞在させてもらいながら。

そして最終的に、
関野さんは足掛け10年で、
「人類最古の足跡の化石」がある
アフリカ・タンザニアのラエトリまで
たどりつきました。

どんな旅だったかを、すこしだけ写真でご紹介します。
(長い旅の、ほんの、ほんの一部です)


南米パタゴニアで。荒れる海をシーカヤックで進む。
©グレートジャーニー


広大なウユニ塩湖を、自転車で走り抜ける。
©グレートジャーニー


関野さんがずっと親しくしている、マチゲンガ族の人々と。
©グレートジャーニー


シベリアにて。凍った川の上を犬ぞりで駆けていく。
©関野吉晴


シベリアの凍った湾内も、犬ぞりで走ってゆく。
©グレートジャーニー


カヤックを漕いでいたら、目の前にザトウクジラが。アラスカにて。
©関野吉晴


トナカイのそりは、意外と簡単に乗ることができた。
©グレートジャーニー


砂漠をラクダに乗っていったことも。アフリカのアファール盆地にて。
©関野吉晴

足かけ10年の旅は、
2時間のドキュメント番組8本となり、
1年に1本のペースで放映され、大好評を得ました。

「グレートジャーニー」に出かけたことで、
南米からアフリカまで一本の線を引いた関野さんは、
今度は「日本に暮らす人がやってきた道」の
線もそこにつなげてみたいと、
2004年から、2011年までの期間に、
「新グレートジャーニー」として、
日本列島に人類がやってきた3つのルートをたどりました。

それぞれ、北からと、中国・朝鮮半島からと、海からのルートです。


関野吉晴さんの「新グレートジャーニー」のルート
(日本の3つの旅のルート)


地図デザイン:棚橋早苗
地図素材©デザインエクスチェンジ株式会社


こちらの旅のすごさをひとつ、お伝えすると、
そのひとつ「海のルート」をたどるにあたり、
関野さんは、
「砂鉄を集める」ことから
旅をはじめていったのだそうです。
集めた砂鉄を、
日本の昔ながらの「たたら製鉄」で製鉄し、
斧や鉈などの道具をつくり、
それらを使って、舟をつくったのです。

そしてつくりあげた丸太舟で、
インドネシアから石垣島までの約4700キロの航海に
成功しました。


関野さんが砂鉄集めからはじめ、つくりあげた舟「縄文号」。
©関野吉晴

そして、このたび、
関野吉晴さんが、国立科学博物館にて、
「グレートジャーニー」「新グレートジャーニー」の
集大成のような展覧会を開かれるそうで、
糸井重里に「お会いしてみませんか」という話があり、
「ほぼ日」上で、対談させていただくことになりました。

(糸井はもともと「グレートジャーニー」という番組のことが
 気になっていて、DVDも持っていたのです)

関野吉晴さんは、1949年1月20日生まれ。
探検家であり、また、医師でもあり、
現在は武蔵野美術大学で、文化人類学の教授をされています。

糸井重里は、1948年11月10日生まれ。
ふたりはたまたま、同級生でもありました。

関野さんの旅のように、
あちこちへの「寄り道」を大事にしつつ行われた
対談の連載は、次回からはじまります。

対談のすぐあと、糸井重里はこんなツイートをしました。



「グレートジャーニー」の関野さんと、対談でした。
話題は思いっきり寄り道ジャーニーだったけど、楽しかったよー。
(次回に、つづきます。)
 

©グレートジャーニー 人類の旅
関野吉晴さんの「グレートジャーニー」と
「新グレートジャーニー」の総決算ともいえる展覧会です。
人類拡散の歴史、
厳しい環境でたくましく暮らす人々のすがた、その知恵、文化
そこから考えるこれからの人々の暮らしを、
人類学・考古学・文化人類学などの学問のラインを超えた
多角的な展示で見せていきます。

会期:2013年3月16日(土)〜6月9日(日)
会場:国立科学博物館(東京・上野公園)
主催:国立科学博物館、フジテレビジョン、朝日新聞社

◎詳細は、展覧会ウェブサイトよりどうぞ
特別展「グレートジャーニー 人類の旅」公式ウェブサイト

 
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2013-03-22-FRI
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