糸井 |
原さん、こんにちは。
昨年の秋にお会いして以来ですから、
ご無沙汰してしまいました。 |
原 |
いえいえ、こちらこそ、お久しぶりです。 |
糸井 |
また最近、原さんとお話したいことが
いろいろ出てきまして、
こうして、やってまいりました(笑)。 |
原 |
それは、光栄です(笑)。 |
糸井 |
このオフィスが、日本での拠点なんですね。
へぇー‥‥。
えっと、これは? なんかすごい機関車が。
|
|
原 |
ああ、それは、
イタリア旧国鉄の機関車「E.626」の模型です。
本物は、もう走ってないんだけど。 |
糸井 |
はぁー‥‥。
詳しいことはよくわかりませんけれども、
模型といっても
かなりすごいものなんじゃないですか?
本物の車輛を
そのまま、ちっちゃくしちゃったみたい。 |
原 |
そう、これはね、第2次世界大戦で
イタリアがアメリカに爆撃を受けたときに、
設計図を紛失しちゃってた車輛。
でも、なんとか、それを探してきて‥‥。 |
|
糸井 |
復元した? |
原 |
そう、わたしの父が大好きでね、こういうの。
子どものころからずーっと
父の助手をやらされてたんですよ、わたし。 |
糸井 |
手伝わされてたんですか? |
原 |
ええ、まぁ、
今でもなんですけれどね。
「設計図、探してこい!」とか(笑)。 |
糸井 |
すごいですねぇ‥‥イタリアでしょ? |
原 |
わたし、財務省の役職に就いているもので、
その関係の会議の場で、
「すいません、イタリアの国鉄総裁を
紹介してください」と‥‥。 |
糸井 |
ただでさえお忙しいでしょうに、
そんなことまでやってらっしゃるとは。 |
原 |
このレベルの模型をつくれる技術者って
世界中を探しても、
もうね、なかなか見つからないんです。
われわれで抱えている技術者を挙げても‥‥
オーストリアに1人、スイスに1人、
イタリアに1人‥‥世界各国で7人くらいかな? |
糸井 |
‥‥これって「趣味」ですよね? |
原 |
まぁ、そうですね。 |
|
糸井 |
はー‥‥。 |
原 |
この車輛には、7年くらいかかってるんです。
わたしが海外へ出張するたびに、
職人のところへ行って、
進捗状況を確認しながら進めたんですが‥‥。
1年ぶりに行っても
まだ「車輪」しかできてなかったりして。 |
糸井 |
もう、笑うしかないなぁ(笑)。 |
原 |
むかしはね、完成した車輛は、
父が自分で受け取りに行ってたんですよ。
でも最近は、わたしが海外出張のついでに
「あれ、取ってこい」と。
で、まぁ、受け取りに行くんだけど‥‥
こういう模型って、運ぶのが、ひと苦労で。 |
糸井 |
ええ、見るからに(笑)。 |
原 |
ひとつには、なにしろ「重たい」。
この車輛だって、30キロくらいあるんです。
だから‥‥持ち歩くのがタイヘン。まずは。 |
糸井 |
ええ、ええ(笑)。 |
原 |
もうひとつは、飛行機に乗るとき。
こんなのを持ってたりすると、
乗り継ぎ時刻まで2時間ぐらい余裕があっても
かならず、乗り遅れるんです。 |
糸井 |
それはつまり、セキュリティで
足止めされるということですか? |
原 |
イタリアはそうでもないんだけど、
フランクフルトなんかで、引っかかる。
いくら説明したって‥‥ほら、
外から見たら鉄のカタマリじゃないですか。
「なかに武器が入ってるんじゃないか」とか、
「いや、そもそも
これ自体が爆弾なんじゃないか」とか(笑)。 |
|
糸井 |
‥‥開けてみろ、なんて言われたり? |
原 |
ま、いざというときにはね。 |
糸井 |
開けるんですか!? |
原 |
ええ、ドライバーを持ってますからね。
で、開けるのはいいんですけれど、
閉めるのに、また1時間2時間かかる。
だから‥‥乗り遅れるんです。 |
糸井 |
いやー‥‥、おもしろいなぁ(笑)。 |
原 |
でもね、フランクフルトなんか、まだマシなほう。
日本行きを1便逃しても、何便かあるから。
チューリッヒみたいに
1日1便しか日本行きの便がないところで
引っ掛かったら、泊まらなきゃならない。 |
糸井 |
しかし、見れば見るほど、すごいな‥‥。
この‥‥この小さなリベットの数も
実際の車輛と同じだったりするんですか、
もしかして?
|
|
原 |
もちろん、本物と同じです。
リベットはぜんぶで、650個。
車輛全体に使っている部品の総数だと、
9000個くらいですか。 |
糸井 |
9000個! ‥‥はぁ‥‥。 |
原 |
いや、それよりもね、この模型のすごいのは、
「回生ブレーキ」を搭載してるところ。 |
糸井 |
かいせいぶれーき‥‥とは何ですか。 |
原 |
モーターを「発電機」として電力を発生させて、
その抵抗を利用して、ブレーキをかける。
ま、カンタンにいうと
ブレーキをかけたら発電するような仕組みです。 |
糸井 |
その電力を、動力として利用するんですね。 |
原 |
そうそう。この車輛は、
模型ではじめて、その仕組みを成功させたんです。 |
糸井 |
でも、模型がこんなにすごいんなら‥‥
これが走る「線路」はどうなってるんですか。
この模型を走らせる線路は‥‥? |
原 |
自宅のとなりに、鉄道の博物館があるんですよ。 |
糸井 |
博物館? |
原 |
ええ、そこで、走らせてるんです。
まぁ、わが家の敷地内にある私設博物館ですから、
一般公開はしてないんですけどね。 |
糸井 |
‥‥。 |
原 |
名前は「シャングリ・ラ鉄道博物館」って
言うんですけど。
|
|
|
<続きます!>
|