 |
 |
よろこんでましたよね、乗組員のみんなが。
「イべんとう」という、まあ、
ネーミングについては、さておき、
これを「やる前」「やってる最中」「やったあと」
「原稿作り」「デザイン」「更新」「反響のメールを読む」
ずーっと一貫して、よろこんでますよね?
悲しんでる人は、いないですよね?
まずはとにかく、
そういうことがやりたかったわけで。
ぼくら、レストランにみんなで食べにいくのは
何度かやってるじゃないですか。
それはそれで、よかったのはわかるんですけど、
「あー、おいしかった」となるに決まってて、
それじゃあ、やっぱりちょっとおもしろくない。
で、弁当をみんなで買ってきて食べるっていう、
なんていうんだろう‥‥
売り手の側がのせられる情報量が
とても多いじゃないですか。
相手方のクリエイティブが。
レストランの料理は品質は保証済みだけど、
同じものを出してきてくれるわけです。
クリエイティブの総量としては、
弁当のあの並び方と比べれば、すくないですよね。
あの弁当売り場のクリエイティブ総量に対して、
いかにみんなが今の時代の「1000円」を感じながら、
それを2枚も、ね、使っていくか。
大丸の地下で、大量の弁当が、
「私に、一票を!」って訴えかけてたでしょ。
千円札が、「票」でしたよね。
それ感じたでしょ? 選挙みたいな。
ああやってみんなでやると、ますますそうなるんです。
‥‥っていうことをね、やってみたかったんです。
これがおもしろくなるのはわかってました。
そしてやっぱり、おもしろくなりました。 |
 |
今回の「イべんとう」には、
「食べる前と、食べたあとには、
簡単なレポートを書いてもらいます」
っていうルールがありましたから、
行く前にちょっと考えましたよね。
あとでどんなことを書こうか、
そのためにはどんな弁当を選ぼうか。
でも、いざ現場につくと、
みなさん動物になっちゃってましたよねー(笑)。
それをいちばん表現してしまったのがぼくなんです。
ぼく自身が。
つまり「買えるんだったら備蓄しよう」っていう(笑)。
丼、にぎりめし、おこわ、揚げ物。
いまだにぼくは江戸時代の発想ですよね。
「備蓄しなくちゃ!」
なんでしょうかねえ‥‥
「金本位制」の前の、「米本位制」ですね。
そういうぼくのなかの、
原始の血というか、歴史が、
こう、うずしおのように、
大丸の地下で、騒いじゃったんです。
ほかにも、こういう集め方の人が何名かいましたけど、
そんなねえ? 血を騒がせちゃまずいだろ、と(笑)。
でも反対に、
きれいにおさまっちゃってるのもそれはそれで、
なんにも遊んでないだろ! って思う。
ひとりで弁当を買うのと、まったく同じじゃぁ、
「イべんとう」のたのしみがないじゃないの。
だから、なんにせよ、だめなんですよ。
で、なんにせよ、いいんです。
ただ、ぼくの弁当でいうと、
こういう人間がチームの中にリーダーとしていれば、
食べそこなった人は、急にもらうことができますよね。
「あ、いいよ、これもってって」
ていう食べ物が3、4種類ありますから。
揚げ物関係で2個でしょ?
あとおこわが2種類、おにぎりもある。
5つは、「どうぞ」って言えるんですよ。
‥‥そういうふうに、しちゃうんです、ぼくは。
みんなで食えるようにとか、備蓄とか。
もう、しみついちゃってるなぁ。
だってひとりで食えるわけないんだもん、こんなに。
で、ほんとに案の定、あの日は結局、
風邪気味だった家人に、おこわ2種類を渡して、
彼女はそれとサラダで夕食をすませました。
事実上、完成したわけです。
だから、人生に狂いなし。
しかし、おもわくは、狂ってしまった(笑)。

こういうぼくとは真逆の方向で、
勇み足しちゃったのが、ハリウくんでしたよね。
「焼き鳥だけ」っていう、バラエティをつくりたい。
ゲームの隠しコマンドみたいなのをつくりたくなる。
そういうのはあります。
だめですけどね(笑)。
でもやっぱり、なんにせよ、いいんです。
という具合で、それぞれに、みんないろいろで。
仕事をしたといえば、
まあ、したと言えるのではないでしょうか。
|
 |
ほんとうのことを言うとですね、
みんなに「2000円」ずつ渡しましたよね。
あの「2000円」という価値から離脱して、
弁当を選ぶことが大事だったんです。
だから「ふだん買えないお弁当を買いました」的なのは、
ほんとはだめなんですよ。
「ふだんのあなたと比べる企画」じゃないんだから。
あれはある種の「祭り」だったわけで。
「祭り」っていうのは、価値をとっぱらうことでしょ。
ふだんの社会的な価値についてはね、
ほんとはね、言わないほうがいい。
「肉が食べたかった!」とだけ言えばいいんですよ。
だって大仏様をつくるのにさ、
「ああ、この材料があったら家が建つのに」って思う?
思うかもしれないけれど、
こらえて言わないことが大事なんですよね。
それが「品」なんです。
価値から離脱できるかどうかが「品」なんですよ。
いや、でもまあ、そういうこと言ってる、
自分がこうですからねえ。
離脱どころか、備蓄してます。
きっと農民の血が騒いだんでしょう。
ぼくの先祖は、いまごろの季節は田植えをしてますから。
だからこれは「過去との対話」です。
この買い物は、先祖と一緒にやった仕事なんですね。
「ああ、おこわはうめえんだよなぁ」
「にぎりめしもうめえんだぁ」
「フライも売ってんだよなぁ」
「胃がもたれっからキャベツも買っとけ」って。
とくにこの、
コロッケ、アジフライというのは
ぼくの「人生のアイコン」ですからね。
自分のお墓をコロッケの形にしたいくらいですから。
墓標にはこんな言葉を刻みましょう。
── この男は
コロッケのように思い
コロッケのように考え
コロッケのように行動し
コロッケのように人々に愛され
コロッケのように 死ぬ
コロッケ ここに眠る
(ものまねはしなかった)
最後にかならず、
(ものまねはしなかった)を入れてください。
誤解されますから。
ちがう人だと思われますから。
線香立てにはアジフライをレリーフして。
左右には、フグだね。
フグも好きだからね。
フグの花さし。
くちをぽかーんとあけてるところに、お花をね。
|
 |
コロッケの墓石はともかく、
みんな覚えておいてほしいのは、
ぼくは弁当に貼ってあったシールを、
新幹線の中ではがして、
手帳に貼って京都に行ってるんです。
あれをしてなかったら、この企画はなかったんですよ。
考えてみてください。
弁当のシールをはがして、
手帳のはじっこに貼ることが、なかりせば。
創刊記念に「イべんとう」が、なかりせば。
ねえ、ちょっとさみしいじゃないですか。
「この金目鯛の弁当はなんだ!?
掘っても掘ってもおかずがでてくるぞ!
これはもしかしたら、
情報だって掘れるかもしれないぞ!」

と思って、ぼくはペタッとほぼ日手帳に貼るわけですよ。
この、みんなに教えてあげたいっていう心が、ね?
そういうのが、「ほぼ日」じゃないですか。
「おれの金目がみんなの金目になればいいな、
よろこんでほしいな」
っていうことをね、言っておきたいです。
まあ、控えめにしときますけど。
自慢話です。
ようするに、今回ぼくがやったようにして、
どんどん情報をわけていきましょうということです。
よろしくお願いします。
|
 |
最後についでに言いましょう。
たぶん、乗組員のみんなは、
「こういうのをまたやろうか?」って考えるでしょう。
「イべんとう2」って、いけるじゃん、とか。
‥‥ああ、やっぱり。
図星という顔をしてますね。
ツー(2)を、やろうと考えてるんでしょう。
そういう考えに対しては、
ちゃんと言っておかないとだめですね。
身内の恥をさらすようであれですけど、
読者にも言いたいので。
まあ、きみたちそこへ座りなさい、と。

「はぁ~~」と、大きくため息をつくわけです。
ぼくは年に1回くらい、
楽天の野村監督、ノムさんのようになるんですね。
「ほんとにしょうがねえなぁ」と。
「だめだだめだ」とね。
でも、ぼくはノムさんじゃないですし、
この場合は、ちょっとちがう感じですね。
もっと、なんでしょうか、村長(むらおさ)でもないし‥‥
あ、いっそ将軍にしましょうか?
病床の将軍。病床がいいです。
いや、やっぱりドン・キホーテにしましょう。
病床の、将軍を夢想するドン・キホーテね。
ぼくが、そのドンキホーテだとすれば、
まあ、こう、疲れてたどり着いた旅館の部屋に、
鉄仮面とかが、あるんですよ。
いちおう、日本旅館でね(笑)。
商人宿って感じかもしれないね。
老いさらばえたドン・キホーテが、病床についてる。
電気スタンドに、コップと水差しもあって。
せまい宿です。
枕元には、鉄仮面、鎧、脚絆、みたいな。
その病床の騎士が、
「きみたちそこへ座りなさい」と。
やがて、老いさらばえたドンキホーテは、
ゆっくりと半分身を起こしてさ、
きみたちに向かって、震える声で言うんだよ。
「ツーがどれだけむつかしいか、
わかっとらんようじゃのう‥‥」
だから(笑)、あのね、
もう1回「金目鯛がおいしかった」ってやっても、
誰も読んでくれないんです。
それぞれがちがうのを選んだって、
それは個人の正解に近づいていくだけで
新しい何かをなんにも呼べないんですよ。
シャッフルするだけでしょ?
それが、ツーの正体ですよ。
なのに、「あ、またコレはやれるな」
って思ってる人は、
「顔を洗ってわらじのひもをしめ直して旅に出ろ」
と震える声でドンキホーテに、また言われるんです。
言いたいのは、そこですね。
このイメージをちゃんと残したいので、
「老いさらばえたドン・キホーテ」は、
本職の方に頼んで絵を描いてもらわないとだめですね。
あの人にお願いしたらどうでしょう。
「はじめての落語。」で、
イラストをお願いした小松紘子さん。
和風のタッチでね。
これで「まとめ」になっていれば幸いですが、
どうなんでしょうね?
なにはともあれ、たのしかったです、
ありがとうございました。 |

(クリックすると拡大します)
イラスト/小松紘子さん
|