その1 詐欺的商法って増えてるんですか?
 ───国民生活センター取材編(1)

きっかけは、2013年夏のこと。
いつもの雑談のなかで、
糸井重里がこんなことを言いました。

「カニカニ詐欺って知ってる?」

まわりにいた何人かが笑いました。
冗談だと思ったのです。
糸井が話を続けます。

「いや、笑いごとじゃなくてさ、
 ほんとにあるんだよ、カニカニ詐欺。
 勝手にカニを送りつけて代金を請求するの。
 検索してごらんよ、たくさん出てくるから。
 で、ね、
 そういう詐欺的商法のいろいろを教えてくれる人と
 ツイッターで知り合ったんだよ。
 小豆島の消費生活センターで
 相談員の仕事をしてる女性なんだけど」

詐欺的商法‥‥?
なんだかこわい文字の並びです。
消費者センター‥‥?
そもそも何をするセンターなのでしょう。
糸井に質問を重ね、わかったのが以下のポイントでした。

・「消費者センター」とは全国各地にある機関で、
 消費者からの苦情や問い合わせを受け付け、
 公正な立場で相談にのってくれる場所である。
・さまざまな手口の詐欺的商法が登場している。
・高齢者が狙われるケースが多い。

糸井の話を聞いていて
皆がとくに強く反応したのは、
「高齢者が狙われるケースが多い」というところでした。

「自分はダマされない自信がある。
 でも、実家の両親はどうだろう‥‥
 おじいちゃんおばあちゃんは‥‥?」

ふるさとから遠く離れて東京ではたらく者が、
「ほぼ日刊イトイ新聞」のなかにもたくさんいます。
他人ごとではない、と思いました。

大それたことはもちろんできないけれど、
このテーマに「ほぼ日」が触れることで、
その被害がすこしでも減ればいいなと思います。

糸井の情報源になっている、
香川県小豆県民センター相談員・
平林有里子さんにお話をうかがうことにしました。
Twitterでは(yuri)さんという名前で、
日々情報を発信されている女性です。

糸井との対談をメールでお願いしたところ、
平林有里子さんからご快諾のお返事をいただきました。
そしてそのお返事のメールには、こんなご提案が‥‥。

もしできましたらこの機会に、
「小豆島のいち相談員」である私の話だけでなく、
「全国の消費生活相談窓口から
 情報が集まる国民生活センター」の
 お話も聞いていただけないでしょうか。
国民生活センターのお話をお伝えすることで、
より一般的な情報をお伝えできると思います。
(平林有里子)

なるほど、
「国民生活センター」というところもあるのですね。
調べてみましたら、
「国民生活センター」も「消費生活センター」と同じように
消費者からの苦情や問い合わせを受け付ける機関でした。
ただし「国民生活センター」は、国の機関。
たしかに、全国の情報が集まっていそうです。

そういうわけでこのコンテンツは、
「国民生活センター」さんにお話をうかがう部分と、
小豆島の平林有里子さんと糸井重里が話す対談部分の、
2編によって構成されます。

長めの前置き、失礼しました。
まずは「国民生活センター」へとうかがいましょう。

品川駅から徒歩5分、港区高輪に「国民生活センター」はあります。

相談情報部の飯田周作さんと、
広報室の生方瑞姫さんがご対応くださいました。

右から、飯田さんと生方さん。

────
詐欺的商法についてよくわからないまま
きょうはおじゃましています。
それは、増えているのでしょうか‥‥。
飯田さん
そうですね。
まずは、お渡ししたこの資料なのですが‥‥。
────
「未公開株、怪しい社債、
 ファンド型投資商品に関する年度別件数」。
飯田さん
被害実態の目安としてご用意しました。
全国には1000カ所以上の
消費生活センターの窓口がありまして、
そのネットワークを通じて集めた情報です。

クリックすると大きな画像でご覧いただけます。

────
それぞれについて、
全国でこれだけの件数の相談があった、
という資料ですね。
飯田さん
はい。
まずは、「未公開株詐欺」というものです。
要は、上場されてない株をあなたが買えば、
ぜったい儲かりますという手口ですね。
2010年あたりで増えて、そのあとやや減少しています。
次に、「怪しい社債」。
ふつうの社債は金融機関が発行するのですが、
よくわからない、聞いたこともない会社が、
自分の会社の社債であるとか、
また別の会社の社債を買えば儲かりますよ、
といった手口で買わせるケースが
「怪しい社債」です。
基本的には「未公開株」と同じような手法ですね。
────
2011年に増えて、翌年には減っています。
飯田さん
ええ。
そして「ファンド型投資商品」。
これがご覧のように増えています。
────
ファンド型投資‥‥というのは?
飯田さん
投資詐欺的なトラブルです。
生方さん
こういうものですね(パンフレットを出す)。
────
きれいなパンフレットですが‥‥
‥‥これ、詐欺的なものなのですか。
飯田さん
パンフレットはすごく精巧にできているんです。
ただ、よくよく読んでみると、
中身がないというか‥‥
これの場合ですと「鉱脈とはこういうものです」
ということが書いてあるだけです。
────
(読む)ほんとですね、
何の商品なのかがわからない。
でも「それっぽい」感じになっている。
飯田さん
「鉱物担保証券申込書」に記入して
一口10万円以上を支払いなさい、と。
鉱物を担保する証券という、
これがもう意味がわからないですよね。
────
2年後にお金が増えて戻ってくると書いてあります。
飯田さん
こちらも同じように
投資すればお金が増えるというパンフレットです。
このケースは、水源地ですね。
水源地譲渡担保付購入申込書という、
やはり意味がわからないことが書かれています。
────
はあー。
‥‥あの、こういうものの
本物というのはあるのでしょうか?
飯田さん
本物‥‥。
私は見たことがありません。
鉱物の採掘権などは、
たぶん実際にあるとは思います。
ただ、鉱物の採掘権を
一般の消費者が買うことはまずないでしょう。
────
ということは、
こういうパンフレットがあること自体が、
もうおかしいということですね。
生方さん
そういうことになります。
────
見た瞬間に「嘘だ」と思ったほうがいい、と。
それは知っておきたいことですね。
‥‥こういうパンフレットは
どうやって渡されるのでしょう?
飯田さん
それが大事なポイントなんです。
どうやって買わせるか、その手口。
「買え買え詐欺」と名づけています。
────
「買え買え詐欺」。
「カニカニ詐欺」ではなく。
飯田さん
「カニカニ詐欺」はまた別の手口です。
そのお話はのちほど。
で、「買え買え詐欺」。
これは「劇場型勧誘」の手口です。
────
「劇場型」というのは?
飯田さん
複数の業者が用意周到な演技をして、
巧妙に勧誘していく手口です。

ある日、消費者の自宅に、
A社からこうしたパンフレットが送られてきます。
そして後日、
このパンフレットを送ってきたA社とは別の
B社から電話がかかってきます。
「A社からパンフレットが届いてますよね?
 その商品はたいへん価値があるんですが、
 パンフレットが届いた人しか
 購入することができないんです。
 代わりに買ってくれれば、
 その権利を高値で買い取ります」と。
もしくは、
「代理で買ってくれれば、謝礼を渡します」
という場合もあります。
────
はああーー。
そんなにまわりくどいことをしているのは、
つまり、心理的な効果を狙ってるわけですよね。
飯田さん
はい。
私は心理学の専門ではありませんが、
そういうことだと思います。
第三者が「その商品はいい」と言うと、
なんとなく自分も
いいんじゃないかと思い込んでしまう。
────
誰かが欲しがっていると自分も欲しくなる、
人気があると聞くだけで欲しくなる、
そういう心理を利用されて‥‥
飯田さん
代金を支払ってしまう。
そして‥‥
自分が買った商品はどうなったかと電話をかければ、
A社もB社も、
「おかけになった電話番号は
 現在使われておりません」
────
‥‥その被害は、高齢者に多い。
飯田さん
はい。被害者は高齢者が中心です。
(つづきます)
2013-11-27-WED

相談したいことがあるときは

ひとりで悩まず、相談しましょう。
相談は基本的に「電話」で行います。

消費者からの相談を受け付ける国の機関、
「国民生活センター」のサイトはこちら。

一方、「消費生活センター」とは、
消費者保護を目的とした都道府県・市町村の行政機関で、
日本全国にたくさん設けられています。
「国民生活センター」と「消費生活センター」は
互いに協力し合い、消費者対応を行っています。
相談をしたい場合はどちらでも大丈夫。
お住まいに近い機関へ連絡をしてみましょう。

「消費生活センター」への相談方法は、
こちらのページでくわしく説明されています。
「国民生活センター」の相談窓口は、
こちらからどうぞ。