もくじ
第1回嫌いな人から、逃げる 2016-12-06-Tue
第2回逃げ切る直前、「ほぼ日の塾」で鉢合わせ 2016-12-06-Tue
第3回「嫌い」なのに、2人きりの日帰り温泉へ 2016-12-06-Tue

33歳の関西女です。都内で会社員、そして一児のママをやっています。ツッコミもボケもできないので、ときどき「本当に関西人…?」と疑われること多々。HNはnatukiFM。自宅を森にしたくて、着々と緑化計画を進行中。次にほしい木はゴムの木です。

わたしの嫌いな人

担当・福岡夏樹

好きな人がいれば、
嫌いな人もいたりして。
わたしにとって「嫌い」は「好き」と同じく、
一度その気持ちに火がつくと、
もう、どうにも止められなくなってしまう。

・・・・・

今回は、わたしの嫌いな人について、
お話したいと思います。
まさか、その「嫌いな人」と2人きりで
旅行することになるなんて
思ってもみなかったんです。
全3回です。
「嫌い」とは、ちょっと乱暴なイメージですが
もしよろしければ、お付き合いください。

第1回 嫌いな人から、逃げる

彼女は、2つ年上の同僚だった。
とはいえ、同じプロジェクトに関わったことがないので、
一緒に仕事をしたことはなかった。

彼女はスラリと背が高く、
何事もハキハキとこなすタイプの人だった。
仕事だけでなく、イベントがあれば幹事に名乗り出て、
準備から開催まで取り仕切る。
何に対しても精力的で、周囲も彼女を信頼していた。

彼女とわたしは、よく似ているのだと思っていた。
長女ということや学歴、そして一児のママであること。
おかげで、周囲は彼女とわたしをよく比べていた。

わたしは、彼女ほど精力的に仕事をこなせなかった。
子育ての関係上、時短勤務だったので、
業務時間を超えた仕事が難しかった。
旦那さんは家事や子育てを助けてくれるけれど、
仕事の関係で出張などが多く、
わたし一人でなんとかしなければならない状況が多かった。

彼女にも、似たような事情があったはずだった。
けれど、彼女のほうが多く仕事をこなし、信頼されている。
周囲から「彼女は、この仕事ができていたよ」と聞くたび、
もやもやが募っていった。
彼女のハキハキとした口調を耳にすると、
「なぜ、あなたはやろうとしないの?」
と言われているようで嫌だった。

「嫌い」の気持ちが決定的になったのは、ある飲み会だった。

席替えがあり、偶然、彼女の近くに座ることになったので、
共通の話題である「子育て」について、話を振ってみた。
以前から、彼女の子育てに興味があったからだ。
けれど、彼女から返ってきたのは鮮烈なNOだった。
彼女は言った。
「わたしは、あなたと家族について話そうと思っていない」。

「子育てや家族の話はしない」と言えばそれだけだが、
このときの彼女の言葉には、
明らかに「わたしへの否定」が含まれているように感じた。

家族を理由に、仕事を疎かにしているつもりなかった。
むしろ、仕事と家族で悩むことが多かっただけに、
悔しい気持ちが膨れ上がる。
でも、彼女からみると、そんなわたしは“甘い”のだろう。

どうして、わたしが否定されなければいけない?
カッとなって、その日の帰り道、
Twitterで裏アカウントを作り、
「時短だから家に帰るけれど、さぼっているわけじゃない」
「職場で子どもの話をよくするから、
子育てキャラのように思われているのだろうか」
「もしそうであれば、近い立場であるはずの彼女に
そんなふうに言われる理由はない」
お酒に酔っていた勢いもあり、
そのときの気持ちをそのまま書き綴った。

書き綴った分、少しは気持ちが晴れるかと思いきや、
むしろ、その日を境に、
彼女との関係性が悪化したように感じた。
仕事のことで彼女から指摘を受けるようになったのだ。

「あの議事録の書き方はどうかと思う。
仕事は遊びじゃないので、ちゃんとやってほしい」
「あなた以外の人が頑張っているのだから、
これはクリアすべきだ」

そしてさらに、
彼女とつながっていたはずのFacebookとTwitterが
すべてブロックされていることに気づいた。

Twitterの裏アカウントがバレたんだと思った。
飲み会の夜に書き綴ったことを読まれたんだ、とも思った。
怖くなり、慌ててTwitterの裏アカウントごと削除した。
「謝りたい」と思って話す機会をうかがってみるものの、
対面すれば彼女からの仕事の指摘が始まり、
言い出せないまま時間が流れた。
和解に持ち込むには、ハードルが高すぎる。

彼女は、わたしに対する言動の中で
わかりやすいほど「嫌い」を打ち出していた。
たしかに、わたしも悪いことをしたのだけれど、
そんな彼女の態度は、受け入れがたいものがあった。
彼女が活躍するたびに、さらにもやもやが募った。

彼女について考えることすら疲れてきたところで
思いついたのは、「徹底的に避ける」だった。
今流行りの「逃げるは恥だが役に立つ」だ。

それからはもう、とにかく彼女を避け続けた。
廊下で彼女の背中が見えたら右折し、
打ち合わせスペースで彼女の声が聞こえたら左折し、
行き帰りの道のりで彼女を見かけたら、回れ右をする。
飲み会で彼女の名前を見かけようものなら、
「急な予定が入りましたので」と笑顔で参加を見送った。

何気ない会話の中でさえ、
彼女の名前が登場する場面を避けた。
たとえば、同じものが好きだと言えば、
周囲の誰かが「彼女も好きだって言ってたよ!」と、
彼女を巻き込み始めると思ったからだ。
わたしの好きな漫画やアニメの話をするとき、
よく彼女の名前が登場した。
彼女の好きなものと、わたしの好きなものは、
やはり似ているのだろう。
おかげで、社内で話すことがずいぶんと減った。

お願いだから同じものを好きにならないでほしい、
と思うほど、彼女への「嫌い」は進行していた。

第2回 逃げ切る直前、「ほぼ日の塾」で鉢合わせ