もくじ
第1回嫌いな人から、逃げる 2016-12-06-Tue
第2回逃げ切る直前、「ほぼ日の塾」で鉢合わせ 2016-12-06-Tue
第3回「嫌い」なのに、2人きりの日帰り温泉へ 2016-12-06-Tue

33歳の関西女です。都内で会社員、そして一児のママをやっています。ツッコミもボケもできないので、ときどき「本当に関西人…?」と疑われること多々。HNはnatukiFM。自宅を森にしたくて、着々と緑化計画を進行中。次にほしい木はゴムの木です。

わたしの嫌いな人

担当・福岡夏樹

第3回 「嫌い」なのに、2人きりの日帰り温泉へ

「じゃあ、一緒に箱根へ日帰りへ行かない?」
と言ったのは彼女だった。

「ほぼ日の塾(実践編)」後の居酒屋にて。
ことの発端は、わたしが箱根から
わりと近いところに住んでいるのに、
「一度も行ったことがない」と話したことだった。
彼女はよく箱根へ行っているらしく
「そんなに近いのに行ったことないなんて、もったいない!」
と驚き、冒頭のひと言につながって、
あれよあれよと日帰りでの箱根行きが決まった。

箱根に行きたい気持ちはあった。
だから、彼女の誘いには「行きたいです」と即答した。

けれど、さすがに「ちょっと待てよ…」と
考えずにはいられなかった。
「ほぼ日の塾」をきっかけに話すようになったものの、
ほんの数ヶ月ほど前までは「嫌い合う仲」だったはずだ。
それが、いきなりベルリンの壁崩壊どころか粉砕する勢いで、
2人で箱根へ行く、
しかも同じ風呂に入るなんて大丈夫なんだろうか。
日帰りとはいえ、ちょっと急展開すぎやしないだろうか!

彼女も同じことを感じているようで、
「数日考えてみてどう?もし難しいようなら大丈夫だよ!」
「ひょっとすると誘い方が乱暴だったかな…と思うんだけど、
無理とかしてない?」
というFacebookメッセージが何度か届いた。

わたしが嫌っていたことを、
当然ながら彼女は気づいていると思う。
だから、わたしが断れない状況になっていないかを
気にしているのだと思った。

悪いことなんて、もう起きないんだろうと思った。
では、次は何が起こるというのだろうか。

改めて箱根へ行くことを伝えると、
彼女は、わたしの自宅の最寄り駅から
箱根への最適な道のりを調べ、
10行以上に渡る詳細な行程と、
おすすめの日帰り温泉を送ってきてくれた。
「この人は、本当に真面目な人なんだろうな」と思った。

いざ、箱根へ

そして当日。まずは想像以上の箱根人気に面食らう。

この日は、箱根湯本駅の改札を出たところで待ち合わせ。
人混みの中でお互いを見つけるも、
さすがに笑顔がぎこちない。
「めちゃくちゃ人が多いんですね」
「そうだよね、休みだからね」
と話しながら、タクシーに乗って日帰り温泉へ向かう。

箱根という土地柄のせいか、この日はとても寒かった。
この日帰り温泉は露天風呂が中心で、
洗い場などに屋根はあるものの、
ほとんど吹きさらしのような浴場だった。
2人ともかけ湯をして、
一番大きな露天風呂に駆け込むように入った。
のんびりしていたら、きっと凍え死にする。本当に寒い!

体が温まってから、別のぬるめの露天風呂に入った。
白いお湯で、炭酸系なのか、細かい泡がブクブクしていた。

そこで彼女は、意を決したように話を切り出した。

わたしがあなたを嫌う理由

彼女は「いろいろ謝りたいことがある。今までのことで」と、
わたしを嫌っていた理由を話し始めた。

家庭をいいわけにしないようにして仕事と向き合っている中、
わたしが子育ての話をしている姿が
「嫌い」につながっていったこと。
嫌いになってからわたしの細かいところが気になり始め、
「このままではいけない」と、
FacebookやTwitterでのつながりを
すべてブロックしたこと。

わたしの退職を知り、
再び「このままでいいのだろうか」と思い始め、
ちゃんと話そうという考えに至ったこと。
そして、今日を迎えたこと。

彼女が抱えていた「嫌い」の背景を知って、
いかに自分が一方的に妄想し、
今に至ったかを考えて猛省した。
子育てをするすべての人が「子どもの話をするものだ」と
どこかで決めつけていたところが、あったのかもしれない。
そのあたりの想像力が、明らかに足りていなかった。

わたしも彼女を嫌っていたこと、
Twitterの裏アカウントで陰口を書いたことを伝えた。
「嫌い」を伝えるのは、「好き」よりもきっと複雑で大変だ。
彼女は今わたしの目の前で、
その大変なことをやり遂げようとしている。
わたしも、ちゃんとしなくちゃいけない。
それに、Twitterの件はバレているのだと思っていた。
彼女は「Twitterの裏アカウントの話は知らなかったし…、
聞きたくなかった」と苦笑いしていた。
前言撤回。言うんじゃなかったと思った。

お互いの「嫌い」を告白し、打ち解け始めたころ、
気がつくと1時間半以上も経っていた。
さすがに、ここでいったん小休止。

お昼ごはんを食べて、

休憩スペースで昼寝をして、

飽きもせず、再び露天風呂へ向かった。

2回目の入浴では、彼女が勧めるサウナに入った。

サウナでは、お互いの入り方がはっきりと分かれていた。
彼女は長く、わたしは短く入りたがったのだ。
わたしに合わせてサウナから出たとき、彼女は
「ぜんぜん体が温まってない!寒いよ!!」と言い、
彼女に合わせてサウナに入ったとき、
「サウナの砂時計の砂がなくなったら出よう」と言うものの、
大量の汗と、
そもそも2人とも目が悪くて砂時計がよく見えず、
いつ出ればいいのかわからなくなる場面もあった。

そのほかにも、2人でいろんな露天風呂へと移動した。
その間、いろんな話をした。

たとえば、お互いの姉弟構成。
彼女には妹がいて、上京するまでは一緒に暮らしていて、
今は離れた場所に住んでいること。
そのほか、アニメや漫画の話、恋愛の話もしたけれど、
家族構成以外はどれも微妙にズレていて
思っていたほど共通点はなかった。
なぜわたしはこれまで、
「彼女とわたしは、よく似ている」と感じていたのだろう。

お互いにはっきりとわかっていたはずの「嫌い」を
口に出して明確にしてみたら、
想像以上に、分厚くない壁だったんだと感じた。
彼女は嫌いだったことを切り出すとき、
意図的にぬるめの露天風呂を選んでいた。
のぼせないように気を使ってくれたんだろうと感じる。

さすがに日も暮れてきたので、帰宅の準備をする。
帰り道ではお土産屋さんを物色しつつ、
お互いの帰路についた。
彼女が食べ歩き好きだということを、
このとき初めて知ったのだった。

「好き」と「嫌い」は表裏一体、とは、
どこかで誰かが言っていた気がする。
この日の帰り道、ふとそんなことを思い出した。
わたしは、すでに彼女を好きになり始めている。
今の「ほぼ日の塾」が終わっても、
この関係が、細くてもいいから、続くといいな。


《「彼女」が書いたコンテンツ、あります!》

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

この「わたしの嫌いな人」は、
わたしだけでなく、「彼女」も同じテーマで記事を書いています。
ぜひ、こちらからチェックしてみてください。