- ──
- 個人的なことで恐縮なのですが、
妻が「いいちこ」の大ファンなんです。
と言っても、
お酒のまったく飲めない下戸なのですが、
駅に貼ってある
「いいちこ」のポスターが、大好きで。
- 西
- それは、それは、ありがとうございます。
- ──
- 好きが嵩じて、あるときに
「いいちこのポスターのファンなんです」
と、三和酒類さんに
電話をかけてしまったらしいんです。
そのときに応対してくださった方が
とても親切で、
どこの誰かもわからない人に
立派なポスター集を送ってくださった、と。
しかも、ていねいなお手紙まで添えて。
- 西
- そうですか。
- ──
- 本人は、そのことにいたく感動して、
今も、駅貼りのポスターを見るたびに
その話をするほどなんですが、
そのエピソードを聞いたぼくも
「ああ、きっといい会社なんだろうな」と、
ずっと思っていたんです。
- 西
- ありがとうございます。
- ──
- つまり「いいちこ」のポスターをはじめ、
焼酎のボトルの形状など、
三和酒類さんでは
「デザイン」にとても気を配っていると
思うんですが‥‥。
- 西
- 河北(秀也/アートディレクター)さんと
切磋琢磨しながら、ですね。
- ──
- その御社の「デザイン」というものと、
「御社が、いい会社、
やさしそうな会社である」こととが、
どこかで、つながっているように思えたので、
今回、取材を申し込んだ次第です。
説明が長くなり、申しわけございません。
- 西
- はい、わかりました。
私でよろしければ、
ご質問にお答えいたしますので、
どうぞよろしくお願いします。
- ──
- ありがとうございます。
では、今でこそ「いいちこ」のポスターって
素敵だなあってみんな思ってるし、
独特の世界観が認知されていると思いますが、
いちばんはじめに
ああいうポスターをごらんになったとき、
どう思われましたか?
- 西
- そりゃあ、
「こんなポスターで効果が上がるんだろうか?」
とも思いました。
しかし、河北さんの
「いいイメージを積み重ねていって、
時間の厚みをつくっていきましょう」
という言葉を信じていましたし、
何より予算が少なかったですからね。
- ──
- ポスターの中の「いいちこ」のビンが
「もう少し大きくてもいいんじゃないか?」
とか、思わなかったんですか?
- 西
- はい、そうは思ったんですが、
「デザインには口出しをしない」というのが
当初からの約束だったんです。
- ──
- やっぱり「小さい」と思われたんですね(笑)。
でも、口出しをしないって‥‥そうなんですか。
- 西
- 河北さんは、ポスターの撮影場所なんかも、
私たちに、ぜんぜん教えてくれないんです。
- ──
- それは、すごいですね。
経営トップに撮影場所をヒミツにするとは。
- 西
- そして、
「なぜ、あなたに教えないか」ってことを、
いちいち説明してくれるんです。
- ──
- なぜ‥‥なんですか?
- 西
- 今でも、大手のファッションの業界では
「来年はこの色」というね、
いわゆる「流行色」をめぐって
ライバル同士の競争があると思いますが、
ある年、ある会社の「来年の色」が、
よそにバレて先取りされて出てしまった。
- ──
- へえ。
- 西
- 印刷してしまったポスターから何から、
台無しになって、
とうぜん、色を先取りされた会社では
大問題となり、
「いったい誰がしゃべったんだ!」と、
犯人捜しをしたら。
- ──
- はい。
- 西
- なんと「社長さん」が犯人だった。
- ──
- え。
- 西
- なんでも、社長同士が酒の席で隣どうしで、
そのー、一杯飲んだときに‥‥。
- ──
- 口がすべってというか、
舌が滑らかになって‥‥というか。
- 西
- だから、そういうことがあるから、
「いちばんの危険人物は、あなたなんです」
と、河北さんは言うんです。
- ──
- だから西さんには教えない、と。
そう言われてみれば、一理あるような‥‥
そんなこともないような(笑)。
- 西
- でも、これがね、河北さんの説明を聞いたら
「ああ、なるほど、なるほど」と思うんです。
- ──
- 納得しちゃうんですか?
- 西
- たとえば、このポスターは、
南アフリカで撮った写真なんですけど‥‥。
- ──
- わあ、なんだか、すごい場所ですね。
コピーは「荒野にも花は咲きます。」
そして「いいちこ」のビンが
どこにあるのか、よーく見ないとわからない。
- 西
- この写真を南アフリカで撮ったってことは、
ポスターができあがってから知るんですよ。
- ──
- そうなんですか。
- 西
- しかもね、これを河北さんに言わせると
「こういうポスターは、
大手の広告代理店ではできません」と。
- ──
- なぜですか?
- 西
- この花、1年のうちで、
咲くのが「10日か2週間」だそうなんです。
ようするに
「こういう花を撮りたいから
こんど南アフリカへ行って撮影をします」
という見積書を出すことができない、と。
- ──
- なるほど。
撮れるかどうかが、わからないから。
- 西
- つまり、三和酒類みたいに
「トップに撮影する場所も明かさずに、
行き当たりばったり、
見積もりなしで写真を撮りに行くから、
こういうものができる。
ここでしかつくれないポスターですよ」
と、自慢するわけです。
- ──
- なるほど(笑)。
でもたしかに、
この花の咲き方ってすごく印象的だから、
もし、西さんがお酒で口を滑らせて
他から先に出されちゃったら、
いっぺんに陳腐になってしまいますね。
- 小田
- すこし前の『東洋経済』で、
河北さんのインタビューを拝見したんですが、
そこで
「デザインというものは
マーケティングでつくるものではなくて、
暮らしや生活の延長線上にあるもの」
とおっしゃっていたんです。
たしかに、マーケティングや
見積りの計算みたいなものが先にあると、
こういうポスターって、
なかなかできないだろうなと思いました。
- ──
- 「どこに焼酎のビンが写っているのか、
よく見ないとわからないポスター」なんて、
計算とかでは成立しないですもんね。
- 西
- しかし、このことを
あんまり理解してくださらない人たちも
いらっしゃるんです。
「どうして見積書がないんだ?」って。
- 小田
- それはつまり、税務署関係のみなさん、
ということですかね。
立場上そう言うのが仕事ですから、
仕方ない部分もあるでしょうけど。
- ──
- ちなみに、
外のアートディレクターである河北さんが、
三和酒類さんの広告を
全面的に責任を持ってつくってきたという
お話ですが、
キャッチコピーの内容なども、
とうぜん、
経営側でも納得できるものなんですよね?
- 西
- いいちこのポスターのコピーは、
お客さまへ向けたものではありますけど、
じつは同時に、
われわれ三和酒類の経営陣や従業員への
教えでもあるんです。
- ──
- あ、そうなんですか。
- 西
- 典型的なのはこれ、ラグビー場のポスター。
- ──
- 「トライを決めた者も、ガッツポーズなどとらない。
それが全員の力であることを知っているからだ。」
- 西
- そう、そのコピーは、
うちが4人でやってたころの教えなんです。
- ──
- 三和酒類さんは、
戦後、この地域にあった4つの酒蔵さんが、
生き残りをかけて、
ひとつにまとまってできたんですよね。
- 西
- あるとき、4つの蔵のひとりが
「俺が、俺が、俺が」と言いはじめたんです。
そういう時期が、あったんです。
でも、それではダメだから
「ラグビーの精神で会社をやっていこう」と、
このコピーは言ってるんです。
- ──
- そう思って見ると、
まさしく「社内向けのポスター」ですね。
- 西
- つまり、会社というのは、
そうなりがちだ、ということなんですよ。
「会社は1人でやってるんじゃない。
4人でやってるんだ」
このポスターは、そう戒めているんです。
- ──
- 「会社は、チームでやっていくもの」と。
- 西
- それからね、
こっちの「Stray Bird」という広告は、
「はぐれ鳥」という意味です。
- ──
- はい。
- 西
- 長い間、お酒の「イメージ」としては、
なんとなく、
いちんばん上がウィスキー、
次に日本酒、ビール‥‥みたいなランクが
あったんです。
そのなかで「焼酎」というお酒は、
今でこそ、
だんだん印象もよくなってきていますが、
もともとは「大衆の酒」として、
もっともイメージが低かった酒なんです。
- ──
- そうなんですか。
- 西
- なぜかと言うと、戦後に
「密造酒」というものが出回った時期が
あったんですね。
これは、お上に税金を取られないように、
勝手に酒を造って売り歩いたものです。
- ──
- ええ。
- 西
- 密造酒を造っていると匂いでわかります。
そこで、
税務署や警察から匂いを隠すために、
豚や鶏を飼ったりして、
不衛生な場所で造ることになるわけです。
- ──
- なるほど。
- 西
- 品質も粗悪で、
メチルアルコールを入れたような密造酒が
横行していました。
ゴム製の水枕って、昔あったんですが‥‥。
- ──
- ああ、わかります。茶色っぽいやつ。
- 西
- 戦後当時は、あの中に密造酒を入れて
流通させていたんです。
- ──
- つまり、カムフラージュのために?
- 西
- そういう世の中だったんです、当時はね。
お米ですら、
勝手に持っていたら「闇米だ」と言って、
摘発の対象になった時代ですから。
- ──
- いわんや密造酒をや、というわけですね。
- 西
- そういう悪いイメージだったところから
河北さんのポスターもあって、
私たちの「いいちこ」が売れはじめた。
だから、
「焼酎というお酒のなかでも、
私たちの商品は、はぐれ鳥ですよ」と。
- ──
- お客さんに対してだけでなく、
自分のところのお酒は
他とはちょっとちがうんだという矜持を
持とうと、社員さんにも。
- 西
- ようするに「いいちこ」のコピーって、
世の中はもちろん、
会社の中に訴えていく言葉でもあるんです。
会社を育てていくポスター、なんです。
- ──
- 会社経営の考えかたと広告ポスターとが、
密接に関係してるんですね。
- 西
- 外の人にはわからないことですけど、
うちの会社は
ポスターからも育てられていったと、
実際に、そう思っています。
だからこうして、
会社の中に貼りめぐらせているんです。
<つづきます>
2015-11-16-MON