海外で「知っている日本人俳優は?」
と聞いたとき、おそらく確実に
ベスト3に入るのが、マシ・オカさん。
世界的な大ヒットドラマ『HEROES』の
ヒロ・ナカムラ役だったかたです。
(とくに「ヤッター!」のセリフで有名です)
たまたま、ほぼ日に来られる機会があり、
せっかくだからと糸井重里との
おしゃべりの機会をセッティングしました。
‥‥と、話題はおのずと日米の違いのことに。
アメリカの競争の激しさに
「心は折れないの?」と聞く糸井に、
「折れますよ。でも自分には結果的に
アメリカのほうがよかったです」
とマシ・オカさん。
そのときのお話がおもしろかったので、
おすそわけのようにご紹介します。

もくじ Contents

1 おもしろいかどうか。

2016-07-11-mon

2 敗者のことは見ていない。

2016-07-12-tue

3 野党精神。

2016-07-13-wed

4 個性のむずかしさ。

2016-07-14-thu

5 落ちないための考え。

2016-07-15-fri
マシ・オカさんプロフィール

マシ・オカMasi Oka

本名は岡政偉(おか・まさより)。
1974年生まれ、渋谷区出身。

幼少時にIQが189あり、天才児と認定。
そのため6歳でアメリカへ移住、アメリカで育つ。
大学進学時は、ハーバード大学や
マサチューセッツ工科大学にも合格しつつ、
「こうした大学に入ってしまうと、
自分は単一的な価値観になってしまうのでは」と考え、
名門のなかでも、個性を尊重する風土のある
ブラウン大学に進学。
大学では、数学とコンピュータサイエンスを専攻。

卒業後は、ジョージ・ルーカスの特殊効果制作会社
「ILM(インダストリアル・ライト&マジック)」
に就職し、デジタル視覚アーティストとして、
『スターウォーズ』や『ターミネーター3』などの
CG特殊効果の最前線で活躍する。

仕事を続けながら、
「おもしろいけれど、左脳だけで働きたくない」
と考えたマシ・オカさんは、会社に頼み、
期間限定で役者の仕事にもチャレンジすることに。
‥‥とはいえ、なかなか難しく、
役者をあきらめようかと思った矢先に
出演が決まった『HEROES』が大ヒット。
一躍有名に。
(『HEROES』での役は、時間を止められる
日本人サラリーマン、ヒロ・ナカムラ役。
7人いるメインキャラクターの一人で、
「ヤッター!」という決め台詞がとても有名)

現在は、俳優をされながら、
日本とアメリカをつなぐビジネスや、
日本のコンテンツをアメリカに紹介するような
お仕事をされています。
マシオカさんのツイッター @MasiOka 
https://twitter.com/masioka
糸井
いまは、日本に住んでいるんですか?
オカ
いえ、住んでるのはロサンゼルスで、
日本には年6回ほど来ています。
あと、現在ぼくは『HAWAII FIVE-0』という
ドラマのレギュラーをしていて、
年に18回ハワイに出かけています。
糸井
年18回、少なくないですね。
オカ
はい。ほとんど通勤という感じで、
月曜の夜に入り、
火曜の朝撮影して、その夜戻る時が多いです。
けっこうハードなスケジュールではありますね。
糸井
じゃあ撮影のときだけ行って。
オカ
そうですね。メインのほかのメンバーは
みんなハワイに住んでいるのですが、
ぼくは番組の顔ではないので。
1話分の撮影というのが
だいたい8日かかるんですが、
ぼくの出番は多くて3日、少ないと1シーンです。
はじめの2年は住んでいましたが、
もう6年目で、さすがに飽きてしまいました。
ほぼすべてのビジネスを
ロスか日本でやっているし、
サーフィンもしないし、ハワイにいるのもなあと
‥‥すみません、贅沢で(笑)。
糸井
色も白いですね(笑)。
オカ
そうなんです、ぼくは検視官役なので、
撮影もぜんぶインドアなんですよ。
『HAWAII FIVE-0』は
1話完結の刑事ドラマなんですが、
大雑把に言えば現代版の『水戸黄門』。
ぼくの役はうっかり八兵衛だと
考えていただければ。
糸井
なるほど、わかりました(笑)。
いま、うちの会社の人たちが
海外ドラマにすごく興味を持っていて、
ほぼ日にマシ・オカさんがいらっしゃると聞いて、
ぼくも興味を持ったんです。
ただ、ぼく自身は海外ドラマを
そんなに見ていなくて‥‥すみません。
オカ
いえいえ、ぜんぜん。
糸井
ぼく自身は『24』を
海外ドラマの入口みたいに観はじめて、
2シーズン目の頭でやめたのかな。
そのあとで『LOST』を見ました。
ただこれも1シーズン観たあと、
いつまで見ればいいのかわからなくなって。
オカ
そこまで行ったら、もう一声で、
『HEROES』も見てほしいですけど(笑)。
糸井
ねぇ(笑)。ほんとうに。
オカ
アメリカのドラマって、
かける金額が映画並みなんですね。
そういうところも、おもしろいと思います。
日本のテレビだと、だいたい1話で
2、3千万くらいだったかな。
最高でも5千万とうかがっております。
でもアメリカだと、
同じ45分で3~5億かけますから。
糸井
単純に、シナリオの厚みも違いますよね。
オカ
はい、関わる人数から違うので。
日本の場合、脚本家は基本1人で、
多くても3人ですけど、
アメリカだと8~15人くらいで作るんです。
1シーズンがだいたい22話あるんですが、
それを、みんなで分担して書いていきます。
糸井
じゃあ、たとえばその8人は、
最初からぜんぶの話を知っているわけですよね。
オカ
いえ、そこは知らないんです。
ほんとうに知らないケースが多いんです。
ドラマ制作の場合は
みなさんでアイディアや中身を考えるし、
だいたいの設定やキャラクターの感じ、
そして大まかな流れは共有されていますけど、
1話ごとの具体的な展開を全員で決めた後、
中身は個人に任されてるんです。
糸井
そのやりかた、すごく興味あるなぁ。
オカ
さきほど糸井さんが、
『LOST』をごらんになったと
おっしゃいましたよね。
糸井
必死になって見ましたよ。
シーズン4くらいまであるんでしょう?
オカ
6まであったと思いますね。
糸井
ほんと? あんなに伏線だらけに見えるのに。
共有せずに大勢で作れるんでしょうか。
オカ
そこは、ちょっと失礼な言い方ですけど
「アメリカの傲慢さ」
なんです。
みんな、とりあえず伏線を出しておく。
「きっと誰かが回収するだろう」
という自信があるからなんです。
糸井
誰かが回収してくれる(笑)。
オカ
そう、自分じゃない誰かが(笑)。
そこをうまく回収できなくて
変になっちゃう場合もありますけど。
糸井
見るほうも
「この回収、無理だよ!」とか言いながら
次のシーズンも観る、みたいな。
オカ
そうなんです。
そして次のシーズン再開までに3ヶ月あきますから、
スタッフ側が「みんな忘れてるだろう」と
都合よく解釈してるときすらあって。
糸井
そうか、3ヶ月あるから(笑)。
オカ
たとえば糸井さんもごらんになった
『LOST』のシーズン1。
最後に、謎のハッチが出てきましたよね?
糸井
覚えてます。
オカ
『LOST』のシーズン2の脚本家が募集されていた時、
友人の脚本家が面接に参加したそうなんです。
大人数での面接だったようなんですが、
参加者それぞれに、
「ハッチに何が入ってると思う?」と
アイデアを話させるらしいんですね。
糸井
ええ。
オカ
そして、それぞれが話して、
「いや、違う」「違う」「違う」「違う」
‥‥という感じで、ぼくの友人の番が来ました。
そして友人がゴニョゴニョゴニョと
自分の考えを言ったら
「よし、OK」
と言われたそうなんです。
そしてそのあと彼が言われたのが
「実は、我々もあのハッチに何が入ってるか、
よくわからない」
一同
(笑)
オカ
「だけど、君の答えが
おもしろそうだから採用する」
って。
そうやって彼は受かったらしいんです。
アメリカのドラマ作りって、
けっこうそういう感じなんですよ。
糸井
いまの話、ぼくはとても肯定的に聞いてます。
ドラマに限らず、ほんとはそうだと思います。
たとえば人の話にしても。
オカ
人の話ですか?
糸井
みんな先が見えてて、ぜんぶがわかった上で
会話してるように見せてるけど、
そんなことはない。
オカ
そうですね。
そういう状況のなかで
「元からそう狙っていたかのように見せられる」
のがベテランであり、プロだと思います。
糸井
だから、ドラマを見ている人たちが
「あの設定はないよな」みたいに
文句を言うことがあるじゃないですか。
でもそこは
「おもしろかったなら、いいんじゃない?」
だと思うんです。
オカ
まさしくそうだと思いますね。
作り方はどうあれ、大事なのはやっぱり、
「おもしろいかどうか」なんですよね。
(つづきます)
2016-7-11-MON