2012-12-03-MON |
糸井 | 今日はこの場で何を話そうとか、 あまり決めないようにして来ました。 もう、流れに任せようと思って。 |
西水 | よろしくお願いいたします。 糸井さん、お話を引き出すのがお上手だから。 |
糸井 | いやいや、勘弁してください。 ‥‥うれしかったのは、 西水さん、すでに斉藤和枝さんと お会いになっているということで。 斉吉商店の和枝さん。 |
西水 | あ、気仙沼の! はい、はい。 |
糸井 | ぼくら、とても親しく お付き合いをさせていただいている方なんです。 |
西水 | ああ、そうなんですか。 |
糸井 | すごいじゃないですか、 和枝さんの持つ、ものすごい可能性みたいなもの。 |
西水 | すごいパワーをお持ちですよねぇ。 |
糸井 | そうなんです、ほんとうに。 西水さんはどういった経緯で、 和枝さんとお会いになったんですか? |
西水 | 去年の秋に対談をさせていただいたんです。 東京で。 |
糸井 | あ、東京で。 |
西水 | そうなんです、気仙沼ではなく。 私、帰国するたびに 三陸沿岸を歩いているんですが、 実は気仙沼だけ、まだ行けていないんですよ。 |
糸井 | でもたしか今週、行かれるそうで。 |
西水 | そうなんです、ようやく。 |
糸井 | いろんな人の話をお聞きすると、 被災地は場所によって おかれている状況がまったく違う気がしますね。 |
西水 | そうですね、それぞれの被災状況はもちろん、 住民の方々のその後の対応にも、 違いがあるような気がします。 住んでいる方々のコミュニティが まとまりやすいところと、 そうでないところに分かれていて。 |
糸井 | それをお感じになりますか。 |
西水 | その地域にリーダーがいるかどうかで 違うなと思うんです。 |
糸井 | そうなんですよねぇ。 ‥‥あの、さきほど、最初にぼくは、 何を話すか決めてないと言いましたけれど、 そういえばひとつ 西水さんにお聞きしたいことがありました。 |
西水 | なんでしょう。 |
糸井 | 西水さんの本を読ませていただきながら 漠然と思ったことなんです。 世界各地のさまざまな場所を ご覧になっている西水さんという方は、 現場に入っていくときの「作法」のようなものを きっとなにかお持ちなんじゃないかな、と。 |
西水 | 現場に入っていくときの作法‥‥ですか。 |
糸井 | ええ。 本を読んでいると、西水さんはどこにいっても まず人々の話を「聞いている」という 印象があったんです。 そういった、作法というか、姿勢といいますか。 そのあたりのことをお聞きできたらいいなと。 |
西水 | 作法‥‥。 |
糸井 | たとえば、新しい現場に入っていく場合は、 やはり事前に その場所のことを調べるのでしょうか。 |
西水 | はい、それは調べます。 たとえば気仙沼なら、 気仙沼がどういうところかを勉強します。 ブータンなら、ブータンのこと。 パキスタンなら、パキスタンのことを。 |
糸井 | そういった事前の勉強に、 西水さんはどの程度、 重きを置かれているものなんでしょう。 |
西水 | そうですね‥‥。 |
糸井 | 新しい場所や人に出合う前の勉強って、 「学べることは、何でも学んでおけ」 というのが一般的だと思うんですね。 |
西水 | ええ。 |
糸井 | ぼく自身はその考えを あんまり認めてないんですよ。 事前に現場からはなれたところで 得る情報はどうしても誤差が大きいし、 正しい情報と誤った情報が入り混じって、 判断もつきにくいと思うので。 |
西水 | なるほど‥‥。 |
糸井 | ですから西水さんが、 そうした事前の勉強で得る情報について どのくらい信用して、 何を学ぶようにされているのか‥‥ そこのところをうかがいたいと思ったんです。 |
西水 | ‥‥そうですね、事前に学ぶことで、 私が役に立つなと思うのは、 「全体像を把握するための情報」です。 |
糸井 | 全体像。 |
西水 | たとえば国の場合なら、 国の財政状況や、政策、税制とその影響。 政治の背景、その国の慣習。 現場そのものではなく、 「現場をとりまく外因」の情報ですね。 世界銀行にいたときの私は 新しい現場に入っていくとき、 いつでもそうした情報を、 事前に頭に叩き込むようにしていました。 |
糸井 | なるほど。 しっかりと事前の勉強をされて。 |
西水 | ‥‥でも。 |
糸井 | はい。 |
西水 | その情報を頭に叩き込んだだけでは、 だめなんです。 「勉強しておきました」ということは、 現場では偏見にもなることですから。 |
糸井 | はい、はい。 |
西水 | ですから学ぶだけではなくて、 「その学んだ知識にどう向き合うか」 ということが非常にたいせつです。 事前に得る情報については、 誤差や偏見が生まれやすいことを わかった上で、それと向き合えるかどうか。 |
糸井 | そうですね。 |
西水 | そしてさらに言えば、 実際に現場に入っていくときには、 仏教ではないですが、心を「無」にして、 とにかく現場の情報を 自分の目で見て、からだで感じる。 そういうことが、 なにより大事だと思っています。 結局、現場では、 そこに暮らす人々の本当の気持ちをね、 聞かせていただかなければ ならないわけですから。 |
糸井 | 事前の知識をいったん忘れることが できるかどうかで、 向かい合う人々の対応まで 変わってくるんでしょうね。 |
西水 | そうなんです。 もっと言えば、こちら側が 「心を開いているかどうか」。 |
糸井 | ああーー。 そういうことですよね。 偏見なく、開いているかどうか。 |
西水 | そしてその、こちらの心のあり方は、 相手が誰であろうと わかってしまうものだと思うんです。 それはもう、「はじめまして」の段階から。 |
糸井 | 心が開いているかどうかは、 「はじめまして」のときから相手にばれている。 |
西水 | さまざまな地域を訪れながら、 私はそういう経験をしていました。 |
糸井 | そうでしたか。 |
西水 | ええ。 もう、しょっちゅうです。 しょっちゅうしていました。 |
(つづきます) | |
2012-12-03-MON |