糸井 |
はじめまして。
よろしくお願いします。 |
ルディー |
どうも、はじめまして、ルディーです。
お声をかけていただいて、
ありがとうございました。 |
糸井 |
こちらこそありがとうございます。
ルディーさんの本、
あんまり売れてないっていうのが、
悔しいなぁと思って。 |
ルディー |
悔しくないです(笑)、わたしは。
売れないのはしょうがないなぁ、と思ってます。
もちろん、売れればいいなとも
思ってるんですけど。 |
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糸井 |
こういう人がいるのを、
いま頃知ったので、
損したなぁと思っているんですよ。 |
ルディー |
いえいえ、とんでもないですよ。 |
糸井 |
ルディーさんは
外国に行ってらっしゃったんですよね。 |
ルディー |
はい。2年ぐらいしか
行ってないんですけど、
亡くなった主人がアメリカ人でした。
それでルディー姓なんです。
仕事してるときもルディーだったので、
ずっとルディーで通してるんです。 |
糸井 |
この本を、なぜぼくは知ったのかというと、
類人猿系に、ぼく、前から興味があって、
タイトルにまず惹かれました。
それから、誰もが喜ぶことを探したい、
っていう気持ちがあるんです。
誰が見ても素敵だっていうものって、
ありますから。 |
ルディー |
はい。 |
糸井 |
広告屋やってるときから疑問があったんですよ。
誰でも、うまいものはうまいし、
きれいだなぁって思うものはきれいなのに、
魂がふれるような感覚っていうのを、
みんな、つかむことを諦めて、
細分化したターゲットだ、セグメントだ、
マーケティングだっていうところに
行っちゃってる。
それはマーケッターの仕事を増やしてるだけで
人にためにならないなっていう気持ちが、
広告をやってるときからずーっとありました。
さて自分がいろんなことを
決定してもいいという場所に立ったとき、
誰が見てもいいものを狙えるように、
だんだんなってきたんです。 |
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ルディー |
ええ。 |
糸井 |
それから、吉本隆明さんが
ずっとおっしゃってる
「人間の体は何も変わってないんだ」
ということ。
目の位置も同じだし、
声帯の使い方も同じだし、
ということは心が変わっていない。
さらにおまけ的に言えば
人類の中の偉人を指折り数えていったら、
だいたいギリシア時代までの人で
80人ぐらいは済んじゃう。
そんな話を聴いていたら、
ぼくは、勇気が出たんですよ。
人類50万年の歴史がどうだとか、
おさるっぽかった人たちが
いつ頃から、どういうふうに、
何を感じて、っていうのを、
ちょっと辿るだけで、
いまの人たちと昔の人たちってそんなに
変わんないんだ、って。
で、変わってると言う人たちが、
自分の商いをしてるだけで、
ほんとうは、ものすごく普遍的なことだったり、
あるいは、言葉の少ない人たちが持ってる
良さみたいなものに価値があるのに──と、
そういうことをずうっと思ってるときに、
ルディーさんの、この本に会ったんです。 |
ルディー |
ああ! |
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糸井 |
内容が、ズバリそれで、なおかつ、
ちょっとマーケティングに触ってるみたいな
タイトルだったので、
読んでみようと思いました。
そうしたら、考える順番はちがうようですけど、
ルディーさんとぼくは、
似たようなことを考えていたんです。 |
ルディー |
糸井さんが「おいしい生活。」を書かれていた頃、
わたしは、マーケティングの駆け出しをしてた頃で、
電通さんや博報堂さんが「分衆」とか、
いろいろ言ってましたよね。 |
糸井 |
「大衆」に対する「分衆」ですね。
分ける。それから「少衆」。 |
ルディー |
はい、少衆・分衆論をやっていましたね。
あのとき、まだ駆け出しだったわたしは、
消費者としての気持ちがとっても強かったので、
絶対おかしいと思って。 |
糸井 |
うん(笑)。 |
ルディー |
消費者って、絶対、変わってないと。
江戸時代どころか
奈良の平城京にあった市(いち)の買い手も、
絶対変わってないと思ってたんですけれど、
そんなことは、わたしが言っても説得力がなくて。
そうしたら、90年代に、だんだん
神経科学などが発達してきて、
ヒトは変わってないということを
証明してくれるような発見がでてきたんです。
それでそういう関係の本をいろいろ読んで、
あの本を書きました。 |
糸井 |
エスティ ローダーに
いらっしゃったんですよね。
まさしくあの辺りって、
グローバルマーケティングでしょう? |
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ルディー |
そうですね。 |
糸井 |
あそこで仕事をなさっていたときに
覚えたことと、いま考えていることは、
矛盾するんですか。
それとも、案外、合ってるんですか。 |
ルディー |
矛盾は、していないですね。
エスティ ローダーは
もともと世界の市場を相手にしてますので、
「国が違うからと言っても
変わるものじゃない」
という基本的な考えは、あったと思います。 |
糸井 |
つまり、グローバルだったせいで、
固有の文化がどうのこうのということを考えない、
いちばん奥のところでやりたいと。 |
ルディー |
そうですね。
それから、もうひとつそのあとに、
ダイレクトマーケティングの仕事を
タイム・インク(現在のタイム・ワーナー)で
していました。 |
糸井 |
はい。
その辺はうちとも関係ありますね(笑)。 |
ルディー |
そうですね。
ダイレクトマーケティングという言葉自体は
いまで言う通信販売を
かっこよく言っただけという
感じもあるんですが、
これを日本に紹介しようとしたとき、
かならず、「日本は」って言われたんですよ。
「国土のせまい日本では通販は成長しない」とか。 |
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糸井 |
うんうん。 |
ルディー |
0120(フリーダイヤル)が始まったときも、
日本人は、電話で注文したり
苦情を言ったりなんかしてこない。
そういうふうに言われました。
けれども結局、数年後には、すごく広まって、
いま通販ってすごいですから。
そういったことからも、
やっぱりヒトは、
変わってないんだ、って思いました。 |
糸井 |
おおー。
それは、おおもとは、じゃあ
駆け出しっておっしゃってた時代に、
消費者の感性が、疑いを持ったっていう、
そこですか。 |
ルディー |
はい、そうですね。 |
糸井 |
ということは、そうとう、
消費者っていう自分が
好きだったというか。 |
ルディー |
やっぱり、消費者の観点から、
いつも見てたと思います。
いまでもめいっぱい消費者です(笑)。 |
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糸井 |
それ、なんで、みんなのところから、
失われちゃうんですかね。
ぼくらも、いま、
うちの会社でやってることのほとんどは、
「必ず消費者としての自分から見ろ」なんです。
もう、口を酸っぱくというか、
それしかうちの取り柄はないっていうぐらいに
言うんです。 |
ルディー |
うん。 |
糸井 |
「たのしい買い物を、
よろこんでやれる人が、
いちばんわかってるわけだから」
って言うんですけど、
これ、なかなか社会の中では、
「そういうのも参考にします」
ぐらいのことになっちゃいますよね。 |
ルディー |
会社に入って始終、
モノを売ることばっかりを考えていると、
買うことを忘れちゃうんじゃないかな。
そういうかた、いらっしゃいますよ。 |
糸井 |
ああー。
逆にいまの言い方だと、
買うことを忘れてないかたもいらっしゃる? |
ルディー |
あ、いらっしゃいますね。
ときたま。 |
糸井 |
何が、それを分けるんでしょう。 |
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(つづきます) |