ルールを原始的に。 ルディー和子さんと、お金と性と消費の話。
人間の根幹のところは、 人類の発生以来、そんなに変わっちゃいない。 そう考えてきた糸井重里が、 ルディー和子さんの『売り方は類人猿が知っている。』 という本と出会いました。 一見、マーケティングの本のようですが、 じぶんの心理や行動を見つめる鏡になる 人間研究の本でもあり、 最新の神経科学の知識が入った、 ユニークなビジネス書でもありました。 「じぶんと同じことを、ちがう場所で、  考えてきたひとがいる!」 ぜひ、お会いしてみたいという希望がかなって、 「ほぼ日」のお金の特集にお越しいただきました。 剣豪みたいなすぱっとしたルディーさんの語り口、 どうぞおたのしみください。
ルディー和子さんのプロフィール
第1回 いまでもめいっぱい消費者です。
糸井 はじめまして。
よろしくお願いします。
ルディー どうも、はじめまして、ルディーです。
お声をかけていただいて、
ありがとうございました。
糸井 こちらこそありがとうございます。
ルディーさんの本
あんまり売れてないっていうのが、
悔しいなぁと思って。
ルディー 悔しくないです(笑)、わたしは。
売れないのはしょうがないなぁ、と思ってます。
もちろん、売れればいいなとも
思ってるんですけど。
糸井 こういう人がいるのを、
いま頃知ったので、
損したなぁと思っているんですよ。
ルディー いえいえ、とんでもないですよ。
糸井 ルディーさんは
外国に行ってらっしゃったんですよね。
ルディー はい。2年ぐらいしか
行ってないんですけど、
亡くなった主人がアメリカ人でした。
それでルディー姓なんです。
仕事してるときもルディーだったので、
ずっとルディーで通してるんです。
糸井 この本を、なぜぼくは知ったのかというと、
類人猿系に、ぼく、前から興味があって、
タイトルにまず惹かれました。
それから、誰もが喜ぶことを探したい、
っていう気持ちがあるんです。
誰が見ても素敵だっていうものって、
ありますから。
ルディー はい。
糸井 広告屋やってるときから疑問があったんですよ。
誰でも、うまいものはうまいし、
きれいだなぁって思うものはきれいなのに、
魂がふれるような感覚っていうのを、
みんな、つかむことを諦めて、
細分化したターゲットだ、セグメントだ、
マーケティングだっていうところに
行っちゃってる。
それはマーケッターの仕事を増やしてるだけで
人にためにならないなっていう気持ちが、
広告をやってるときからずーっとありました。
さて自分がいろんなことを
決定してもいいという場所に立ったとき、
誰が見てもいいものを狙えるように、
だんだんなってきたんです。
ルディー ええ。
糸井 それから、吉本隆明さんが
ずっとおっしゃってる
「人間の体は何も変わってないんだ」
ということ。
目の位置も同じだし、
声帯の使い方も同じだし、
ということは心が変わっていない。
さらにおまけ的に言えば
人類の中の偉人を指折り数えていったら、
だいたいギリシア時代までの人で
80人ぐらいは済んじゃう。
そんな話を聴いていたら、
ぼくは、勇気が出たんですよ。
人類50万年の歴史がどうだとか、
おさるっぽかった人たちが
いつ頃から、どういうふうに、
何を感じて、っていうのを、
ちょっと辿るだけで、
いまの人たちと昔の人たちってそんなに
変わんないんだ、って。
で、変わってると言う人たちが、
自分の商いをしてるだけで、
ほんとうは、ものすごく普遍的なことだったり、
あるいは、言葉の少ない人たちが持ってる
良さみたいなものに価値があるのに──と、
そういうことをずうっと思ってるときに、
ルディーさんの、この本に会ったんです。
ルディー ああ!
糸井 内容が、ズバリそれで、なおかつ、
ちょっとマーケティングに触ってるみたいな
タイトルだったので、
読んでみようと思いました。
そうしたら、考える順番はちがうようですけど、
ルディーさんとぼくは、
似たようなことを考えていたんです。
ルディー 糸井さんが「おいしい生活。」を書かれていた頃、
わたしは、マーケティングの駆け出しをしてた頃で、
電通さんや博報堂さんが「分衆」とか、
いろいろ言ってましたよね。
糸井 「大衆」に対する「分衆」ですね。
分ける。それから「少衆」。
ルディー はい、少衆・分衆論をやっていましたね。
あのとき、まだ駆け出しだったわたしは、
消費者としての気持ちがとっても強かったので、
絶対おかしいと思って。
糸井 うん(笑)。
ルディー 消費者って、絶対、変わってないと。
江戸時代どころか
奈良の平城京にあった市(いち)の買い手も、
絶対変わってないと思ってたんですけれど、
そんなことは、わたしが言っても説得力がなくて。
そうしたら、90年代に、だんだん
神経科学などが発達してきて、
ヒトは変わってないということを
証明してくれるような発見がでてきたんです。
それでそういう関係の本をいろいろ読んで、
あの本を書きました。
糸井 エスティ ローダーに
いらっしゃったんですよね。
まさしくあの辺りって、
グローバルマーケティングでしょう?
ルディー そうですね。
糸井 あそこで仕事をなさっていたときに
覚えたことと、いま考えていることは、
矛盾するんですか。
それとも、案外、合ってるんですか。
ルディー 矛盾は、していないですね。
エスティ ローダーは
もともと世界の市場を相手にしてますので、
「国が違うからと言っても
 変わるものじゃない」
という基本的な考えは、あったと思います。
糸井 つまり、グローバルだったせいで、
固有の文化がどうのこうのということを考えない、
いちばん奥のところでやりたいと。
ルディー そうですね。
それから、もうひとつそのあとに、
ダイレクトマーケティングの仕事を
タイム・インク(現在のタイム・ワーナー)で
していました。
糸井 はい。
その辺はうちとも関係ありますね(笑)。
ルディー そうですね。
ダイレクトマーケティングという言葉自体は
いまで言う通信販売を
かっこよく言っただけという
感じもあるんですが、
これを日本に紹介しようとしたとき、
かならず、「日本は」って言われたんですよ。
「国土のせまい日本では通販は成長しない」とか。
糸井 うんうん。
ルディー 0120(フリーダイヤル)が始まったときも、
日本人は、電話で注文したり
苦情を言ったりなんかしてこない。
そういうふうに言われました。
けれども結局、数年後には、すごく広まって、
いま通販ってすごいですから。
そういったことからも、
やっぱりヒトは、
変わってないんだ、って思いました。
糸井 おおー。
それは、おおもとは、じゃあ
駆け出しっておっしゃってた時代に、
消費者の感性が、疑いを持ったっていう、
そこですか。
ルディー はい、そうですね。
糸井 ということは、そうとう、
消費者っていう自分が
好きだったというか。
ルディー やっぱり、消費者の観点から、
いつも見てたと思います。
いまでもめいっぱい消費者です(笑)。
糸井 それ、なんで、みんなのところから、
失われちゃうんですかね。
ぼくらも、いま、
うちの会社でやってることのほとんどは、
「必ず消費者としての自分から見ろ」なんです。
もう、口を酸っぱくというか、
それしかうちの取り柄はないっていうぐらいに
言うんです。
ルディー うん。
糸井 「たのしい買い物を、
 よろこんでやれる人が、
 いちばんわかってるわけだから」
って言うんですけど、
これ、なかなか社会の中では、
「そういうのも参考にします」
ぐらいのことになっちゃいますよね。
ルディー 会社に入って始終、
モノを売ることばっかりを考えていると、
買うことを忘れちゃうんじゃないかな。
そういうかた、いらっしゃいますよ。
糸井 ああー。
逆にいまの言い方だと、
買うことを忘れてないかたもいらっしゃる?
ルディー あ、いらっしゃいますね。
ときたま。
糸井 何が、それを分けるんでしょう。
  (つづきます)
2010-07-12-MON
    次へ
もくじ 第1回 いまでもめいっぱい消費者です。 2010-07-12-MON
第2回 ミラーニューロンと共感性。 2010-07-13-TUE
第3回 行動経済学よりずっと前に。 2010-07-14-WED
第4回 作り手と消費者の間を留める堰。 2010-07-15-THU
第5回 人はどうやって「買う」を決めるのか。 2010-07-16-FRI
第6回 お金を使う人、使われちゃう人。 2010-07-19-MON
第7回 あらためて、消費のクリエイティブ。 2010-07-20-TUE
第8回 うすれゆく日本人のセックス。 2010-07-21-WED
第9回 ルールを原始的にしない? 2010-07-22-THU
第10回 老後は不安か、日本は不安か。 2010-07-23-FRI
第11回 マッチョイズムと幸せ感。 2010-07-26-MON
感想をおくる ほぼ日ホームへ (C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN