HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN
映画『SCOOP!』公開記念
望まれた役をする”劇団福山雅治”
福山雅治 × 糸井重里
福山
『SCOOP!』の撮影途中に気づいたんですけど、
カメラマン役って被写体を追う役なので、
今回はほとんど他の共演者との接触がなかったんです。
ほぼ二階堂さんと一緒にいて、
時々リリーさんという感じで。
糸井
ああ、言われてみれば。
福山
たくさんの人が出ているんですけど、
ぼくが接触している人はすごく少なかったんです。
完成した映像を見て、これは思ってた以上に
映像やカメラの表現のみならず、
精神的な描写がものすごく行われてる
映画なんだなと思いましたね。
糸井
たいへんでしょう。あれは、射撃ですから。
的の距離って、近くにあるはずがないんですよね。
福山
そうですね。
糸井
いつでも基本的には、
望遠レンズで遠くの被写体を見ていて、
(新人記者役の)二階堂ふみさんが隣にいても、
その子との距離はいつも取りかねているんですよね。
福山
年齢差もありますしね(笑)
糸井
銃を構えて、銃と的の間の距離ばかり考えているから
役を演じるのも、たいへんですよね。
福山
大根監督は
ディテールの構築に妥協しない人。
僕もカメラが好きなものですから、
現場では実際の被写体を撮りながら演じました。
糸井
それもキャスティングの理由のひとつですよね。
撮れる人とやりたかったわけですね、きっと。
福山
写真を撮りながら
「感度をもうちょっと上げたほうがいいな」とか、
「これだとシャッタースピード遅すぎるな」とか、
その場で写真撮影しながら
お芝居出来たのは楽しかったです。
糸井
演技中に忙しいことがあるから、
余計なことを考えなくて済んだってことは
あるのかもしれないですね。
福山
実際に撮った写真を、使う使わないは別にして、
自分の中で、相手の表情やアングルを、
現場でチェックしていたんです。
ちょっと目線が来てないなとか、
構図はもっとこうだなとか、
フォーカスちょっと甘かったな、とかできたのは
結果としてよかったと思いました。
糸井
撮れない人が「撮るフリでいいよ」でやっていたら、
きっと、もっと違ったでしょうね。
福山
そうだったと思います。
自分の趣味でやっていたことが、
まさかこういう形で役や作品に
落とし込めるとは思っていなかったので、
そういう意味ではすごくラッキーだったし、
自分にとってうれしい映画になりました。
糸井
それは勘定に入っていたんでしょうけど、
いい効果が出ていますよね。
福山
ありがとうございます。
糸井
絡みの少ない映画の中で、
福山さんが他人に対してやっていることは、
横柄な態度で怒鳴ったりする役で。
ああいう主人公の態度って、
いわば、作り物じゃないですか。
「そういうやついるよね」って演技ですよね。
福山
はい。
糸井
二階堂ふみさんや吉田羊さんとの関係も不器用なまま。
どう言ったらいいかわからないけれど、
あのへんには、深みがあっちゃいけないんですよね。
福山
奥行きのある感情というか、優しさとかが
見え隠れしないほうがいいんですね。
糸井
そう。ぐるっと回ってコピーの話に戻ると、
「ごめん。馬鹿で悪かったな。」というのは、
三流映画っぽさなんですよね。
福山
おお。
糸井
湿らせないようにする、というか、
内面に目を向かせないような
映画のキャッチフレーズみたいにしたかった。
福山
そういう意図だったんですね。
糸井
世の中には、内面中心の見方もあるけれど、
それに絡め取られちゃうと、
せっかくの冒険活劇というか、
『インディ・ジョーンズ』的な部分の
火薬が湿っちゃう気がするんです。
福山
映画を観る前と、観終わったあとで、
コピーの手ざわりや感じ方が違うと思うんですよね。
今回でいうと、観終わったあとに、
「なるほど」と思ってもらえる
コピーなのかなと思いました。
ここで僕が「このコピーってこうですよね」とか、
糸井さんが「このコピーはこういう思いでつけたんだ」
と言ってしまうと、どんどん映画のディテールを含め、
内容を説明してしまうことになるのですが(笑)。
糸井
じつは、けっこう説明するコピーですよね。
福山
あまり言えないのが、もどかしくはあるんです。
でも、このコピーは映画を観終わったあとに、
女性にもちろん届くものだと思うんですけど、
男性が、自分自身の社会との‥‥、
もうこれ、あまり言えないところに
なっちゃうんですけども、
ストンと腹に落ちると思うんです。
糸井
(笑)そうですね、観終わったあとですね。
このコピーって結論めかした言い方で、
口説き文句じゃないですもんね。
福山
口説き終わったあとにこうだった、
というようなコピーだなと思って。
糸井
ある意味ではずるいコピーだし、
こういうことを言う男は
あんまり信用しちゃいけないですよ。
福山
ビジュアルとコピーが合わさった時の座りもいい。
たぶん、ポスターを見た人は、
この写真を見て作ったのかなと思うぐらい、
はまりがいいと思うんですよね。
糸井
どの写真で作るか、
ぼくにはわからなかったんですよね。
「この写真で決まりです」って言われたら、
試し算として何回もはめてみると思うんです。
でも今回の映画には、いろんな福山さんがいて、
どのあたりで攻めるかが難しかった。
ただ、そこをぼくは判断できないので、
コピーとして、仕事で引き受けた
つらさが出ちゃったんです、実は。
福山
そうなんですね。
糸井
勝手に感想を言うんだったら
なんでもよかったんですけど、
乱暴ができなかったので、すごく丁寧に(笑)。
福山
丁寧なコピーをありがとうございます。
糸井
今回は、大根さんにしてやられましたね。
「コピーでお願いします」って言われたから、
福山さんとこうしてお話しするまで広がったんです。
大根さんは、いいプロデューサーでもありますよね。
福山
監督でありながら、仕掛け人でもあるかと。
糸井さんは、大根監督との出会いは、
いつ頃だったんでしょうか。
糸井
ぼくは『モテキ』をおもしろいなあと思って。
そこから少しさかのぼって、
ドラマのDVDを手に入れて観たりもしていました。
福山
『モテキ』ファンとしてが
最初だったんですか。
糸井
そうです、そうです。
そのあとで『恋の渦』ができた時に、
「何これ!」と思っていたら
対談のお呼びがかかったのかな。
「ああ、行く行く!」って。
福山
糸井さんから
先にファンになったんですね。
糸井
そうですね、そうですね。
福山さんはいつ頃に出会われたんですか。
福山
僕は、秋元康さんのお誘いを受けて
食事会へ行ったところに大根さんがいらしてたんです。
もちろん僕も大根監督の作品面白いなぁ、
と思って見ていたんです。
ちょうどリリーさん(リリー・フランキーさん)が
大根さんとお知り合いだったので、
リリーさんに紹介をしてもらったんです。
「福山くん、この人映画監督の大根っていうんだけど、
この間、ラジオで福山くんのことディスってたよ」
って紹介されたんです(笑)。
そのことは、ぼくもなんとなく聞いていたので、
ご挨拶する時に、
「僕の立場として、いろんなことを言われるのは
慣れているんですけども、唯一せつないなと思うのは、
自分が『この人好きだな、才能あるなぁ』と思う人に
ディスられると、これは寂しいですよね」って(笑)。
糸井
くっくっく(笑)
福山
そうしたら大根さん、
「あ、いやいや!」って(笑)。
それが始まりだったんです。
糸井
ぐるぐる回り道はしているけど、
会うべくして会っている感じがしますね。
福山
そうですね(笑)
糸井
でも、福山さんは、思いっきり
ヤキモチを妬かれるタイプの人だから
しょうがないでしょう。
福山
そうですか?(笑)。
糸井
「ヤキモチから始まっている」と宣言して、
ディスる人も世の中にはいますから。
「アイツはいいんだよ。
あれ以上、褒める必要はないんだから」って。
(つづきます)
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2016-09-30-FRI
撮影:加藤純平