- 福山
- ちょっと照れくさい質問ですが、
糸井さんは、私、福山の活動を、
どうご覧になっていただけていたのでしょうか。
- 糸井
- 「福山雅治という人が、どういう人かがわからない」
というのが、ぼくは一番おもしろいと思っていて。
いやあ、見事にわからないんです。
- 福山
- (笑)
- 糸井
- さっき話に出ていた、
中島みゆきさんにもちょっと似ていて、
「望まれていることをぼくはできるよ」
という場所に、いつもいるんですよね。
- 福山
- (笑)
- 糸井
- ぼくは、何かしらの役でいる福山さんを
非常によく見ているんですよ。
ドラマにしても、映画にしても。
1年間付き合ったことさえありますから、ドラマでね。
- 福山
- 『龍馬伝』をご覧になってくださっていたと。
「福山の『龍馬伝』は、ぼくは今のところありだと思う」
というふうに、おっしゃっていただいていたのを
当時読ませていただきました。
- 糸井
- ありありでしたよねえ(笑)。
『龍馬伝』もNHKの大河ドラマとしては、
なかなか冒険的なキャスティングでしたし、
なしだっていう意見も当然あるだろうと。
ぼくは観ていて、ものすごく「あり」でした。
その時に思ったのが
「この人は望まれている場所で、
望まれていることを確実にやってみせる人だな」
ということでした。
- 福山
- ありがとうございます。
- 糸井
- 人から聞いたことで、すごく好きな話があって、
埼玉のアリーナみたいな大きい会場の
そばに住んでいる人から聞いた話です。
いつもいろんなコンサートや催し物をやっていて、
お客さんが大勢歩いているのを見ると、
誰のコンサートがあるかわかる、とその人は言います。
- 福山
- はい。
- 糸井
- でも、「福山雅治だけはわからない」って言うんです。
つまり、歩いている人を見て、
わからない人がいっぱい歩いていたら、
福山さんだという話なんですよね。
いやあ、それってすごくカッコいい。
- 福山
- (笑)。原宿の交差点で、
「代々木体育館に黒い服を来た人たちが
大勢向かっている。
これは‥‥バンドの〇〇だな!」とか、
「うちわに顔写真貼っている人たちがいる。
今日はアイドルの〇〇だな!」みたいな。
- 糸井
- そうそう、そういうこと(笑)。
- 福山
- それが、ぼくの場合はわからない、と。
- 糸井
- 「この大勢の人はどうして歩いているんだろう。
何かやるの? 格闘技でもないよなあ」みたいな。
- 福山
- (笑)。
- 糸井
- その話を聞いて、
「え、そんな人がいるんだ!」と思いました。
だから福山さんという人が、
おもしろくてしょうがないんです。
- 福山
- ファンの姿というのは、
アーティストを映す”何か”ですからね。
- 糸井
- そうですよね。
- 福山
- その、映す何かが、ちょっと正体がよくわからない。
それはすなわち、ぼく自身の正体が
よくわからないということでしょうか(笑)。
- 糸井
- そうなんです。
だから、乱反射したものが
たくさん歩いているわけですよね。
それって、ものすごい魅力なんだと思います。
福山さんという人を「こういうものだ」と
言いにくいことがおもしろいわけです。
福山さん自身も、「俺はこうなんだ」とは
言っていないですよね。
- 福山
- 言わないですね。
- 糸井
- 中島みゆきさんにも同じようなことが言えて、
傾向としては同じなんです、案外ね。
有名なのは福山さんがラジオで下ネタを言う、という。
- 福山
- はい。
- 糸井
- 中島みゆきさんは、下ネタではないけど
同じような‥‥。
- 福山
- ラジオでのキャラクターが。
- 糸井
- もう、ものすごくふざけていて。
そこでどすーんと落っことしているのと、
それから、「どんな役でも望まれることを
ぜんぶやってみせますよ」というところです。
しかも、これが下手かというと
下手じゃないのがまた困るんですよ。
一応やっています、というものではなくて。
- 福山
- いやいやいや(笑)。
- 糸井
- だからこれは、
ひとりで劇団を抱えるようなものだと思うんです。
”劇団福山雅治”みたいな。
- 福山
- 劇団ひとりならぬ、”劇団福山雅治”!
- 糸井
- だから今回、『SCOOP!』をやられたのを観て、
「ああ、またこの劇団はいい仕事したねえ」
と思うわけです。
- 福山
- 恐縮です(笑)。
- 糸井
- さっき話した「正体がわからない」というのは、
一方では、どうしてもつるんとした感じに見えちゃう。
正体不明な、のっぺらぼうのように
見えちゃうわけでもありますが、
そこを『SCOOP!』では、ヒゲを生やしたり、
「その履き替えていない靴を脱いだら
足が臭いんじゃないか」なんて
受け手に想像させてしまうようなところも
演じてみせていると思います。
この先、この人は何をするんだろうっていう
楽しみがまた増えた気がしますね。
- 福山
- ありがとうございます。
劇団福山雅治。
いただきました!
- 糸井
- どうぞ(笑)。
(つづきます)
2016-10-02-SUN
撮影:加藤純平