糸井 | 周防さんは、どちらかというと、 学問的に見えますからね。 プロデューサー的な部分もありますし、 全体の環境を丸ごと捉えて表現しようとするから。 |
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周防 | はい、そうですね。 |
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糸井 | 配給のことなんかも、 普通に考えられるでしょう? |
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周防 | いや、配給のことはあんまり 考えたくないので‥‥というか 関わりたくないです。 |
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糸井 | 前もって調査したりはするでしょう? |
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周防 | 作ったものをどうやったら 多くの人に観てもらえるか、 という意味では、考えます。 |
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糸井 | 「そこは俺の仕事じゃないよ」という 人ではありませんよね。 |
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草刈 | いや‥‥。 |
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糸井 | 違うの? |
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草刈 | この方はそういうタイプですよ。 ほんとうは、私のほうが プロデューサータイプです。 |
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周防 | まったくそのとおりです。 |
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一同 | (笑) |
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糸井 | そうか、草刈さんは 自分でプロデュースしてたんだもんね。 |
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草刈 | ステージのギャラ交渉まで自分で やっていました。 でも彼は、作品を作ること以外はいやだ というタイプです。 |
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糸井 | (笑)そうか。 |
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草刈 | だから、こちら(周防監督)のほうが、 タイプとしては、ほんとうは すごく芸術家なんです。 |
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周防 | よく言う(笑)。 |
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糸井 | そう言われると、そうかもしれない。 |
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草刈 | 私はバレエという 豊かな環境ではないところでやってきたので、 「なんでもやります」というタイプです。 |
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糸井 | なんか、男と女が間違えて‥‥。 |
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草刈 | (笑) |
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周防 | まぁ、環境のせいということはあるでしょうね。 つまり、映画に比べてバレエのほうが 商売のシステムが確立されていないので、 何かをやろうと思ったら、 自分でそのシステムを作らないといけない。 草刈がプロデュース公演をやろうとしたとき、 どうしていいかわからなかったんですよ。 バレエ団じゃなくて個人が公演をやる、 そんな例はなかったから。 |
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糸井 | それは、まるで 永ちゃん(矢沢永吉さん)みたいですね。 |
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周防 | そうかも(笑)。 |
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糸井 | 聞いてると、そんな気がしてきた。 |
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周防 | ほとんどの人がバレエのことを知りませんから、 お金をどう集めて、どういう公演にして、 というところからやらないと すべてが動かない。 映画は、お金さえあれば、 流通に乗る道はあるわけです。 |
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糸井 | 「そこ、ぼくは知らない」って 言えますよね。 |
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周防 | そう。だけどバレエは、それを言っちゃったら、 誰も知らないんで、何も動かない。 日本のバレエをよくわかっている 優秀なプロデューサーがいたら、 もっと楽に自分の公演ができるはずです。 |
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糸井 | でも、いなかった。 運命は取り替えられないですね。 |
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草刈 | でもまぁ、そこで勉強できたので いい経験になりました。 映画の中で踊った 『ダンシング・チャップリン』の振付師は ローラン・プティさんですけれども、 私がプロデュースした公演は、 ローラン・プティさんの作品集だったんです。 |
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糸井 | プティさんの。 |
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草刈 | ええ。ですから、つまり ‥‥あんな怖い人とも。 |
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糸井 | やるんですね(笑)。 |
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草刈 | はい。 |
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糸井 | やっぱり草刈さんはプロデューサーだ。 |
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一同 | (笑) |
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糸井 | 「10年経ったら教えてあげる」みたいな人が どの世界にもいるけど、 プティさんにはそういう感じもありますね。 やわらかく見せてるけど、 ああいう人は怖いだろうなと思います。 |
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周防 | そういえば、できあがった映画を プティさんに見せに行く前日に 偶然、糸井さんにお会いしました。 |
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草刈 | そうなの? |
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糸井 | そうそう。 ちょっと嫌がってた。 |
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周防 | さんざん嫌がってました。 |
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一同 | (笑) |
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糸井 | ぼくはあのとき 「飛び込んじゃえば大丈夫ですよ」 なんて言ったけど、周防さんのほうも 「まぁ、大丈夫です」って おっしゃってましたよ。 |
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周防 | いやぁ、おっかなかったです。 この映画自体、公開できなくなる可能性も 考えていましたので。 |
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糸井 | そういうむずかしい人ともやりあって プロデュース公演を果たすってすごい。 草刈さんが 「私のほうができますよ」 と言いはじめてからは、 やっぱり完全に、永ちゃんでしたよ。 |
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周防 | (笑) |
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糸井 | 永ちゃんも、そうなんですよ。 「なんでバリライト点けられないの?」 「なんでプロモーターは こう動いてくれないの?」 「なんでそんなところにこれがあるの?」 アーティストとして、 「なんでそんなことやってくれないんだよ」 と言いはじめて‥‥ |
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草刈 | いやだ(笑)、 私もよくそういうこと言ってます。 それで、結論はいつも 「自分でやっちゃったほうが早い」 |
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糸井 | そうなんです。 「そうすると金がかかるんですよ」 と言われて 「かかるっていうのは、いくら?」 「もしかしたらできるんじゃねぇか」って。 舞台設定も弁当の手配も 「うちでやろう」ということになって ひとつずつ潰していったら、 結局チケットを売るところからやるようになった。 たぶん草刈さんもそれに近いでしょう? |
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周防 | 近いです。 |
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糸井 | 永ちゃんは 「ほんとうに俺のステージをよくしたい」 「俺が決めたんだからやる」 といって、たった数曲のために チェコからオーケストラを 呼んじゃったりするんですよ。 |
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周防 | 今回の映画でもね、 草刈はロシアのトレーナーを呼んで‥‥ それから、フランスからバレエマスターも‥‥。 |
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糸井 | 同じじゃないですか。 |
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草刈 | (笑) |
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周防 | しまいにはキューバ人ダンサーを スペインから呼んで。 |
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糸井 | 全部、草刈さんが決めたわけですよね。 |
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周防 | そうです。 |
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草刈 | 若者の配役は ルイジ(ルイジ・ボニーノ)さんが したんですけれども。 |
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周防 | バレエを完璧に作るためには、 そうしないとだめだと言うんで、 予算枠ないのに、途中から無理やり バシッと予算を取ってしまった。 |
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(つづきます) | |||
2011-06-29-WED |