糸井 |
まず、平武朗さんという、この若いデザイナーさんを
読者の多くがご存じないと思いますので、
ご紹介の意味を込めて、ちょっとお話しましょうか。 |
平 |
よろしくお願いします(笑)。 |
糸井 |
ぼくが、ふだんよく利用している
10 corso como COMME des GARCONS
(コルソコモ)というセレクトショップが、
事務所の近く、青山にあるんです。
ある日、そのお店にふらりと入ったら、
親しくしている店員さんに、
一枚のセーターをすすめられたんですよ。
これ、まだご紹介してないですよねって。
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平 |
はい。 |
糸井 |
そのときは、カタログ写真を見せられたんですけど、
なんというか、
まるで「すてきな絵はがき」のように見えたんです。 |
平 |
絵はがき、ですか。 |
糸井 |
なんか、額ぶちに入ってるみたいに思えて、
写真を見たとたん、もう「ほしい!」って。
それが、今日、ぼくが着てきたこのセーター。
ここにいる平さんが、デザインしたものです。 |
平 |
はい、「リキッドニット」というシリーズです。 |
糸井 |
さっそく買って、よろこんで着ていたら、
じつは、もっと種類があったんです。
そこで、もう一着、デザイン違いを買ったんですよ。 |
平 |
それは、ありがとうございます! |
糸井 |
どうして自分は、こんなによろこんでるんだろう‥‥って、
それからちょっと、考えました。
もちろんね、見たとたんに「ほしい!」なんて思える
洋服に出会うことなんて滅多にないから、
そういう「出会いのうれしさ」というのは、あったんです。 |
平 |
ぼくも洋服屋さんを回るのが大好きなので、
そういう感じ、よくわかります(笑)。 |
糸井 |
こんなセーター、見たこともないでしょう?
なのに、奇抜すぎるってわけじゃない。
文法は正しいんだけど、思いきりがいいというか‥‥。 |
平 |
無地のスウェットに、
まるで、液体を上からドバーっとかけちゃったみたいに
カッティングした古着のセーターを縫い合わせて、
1枚にしているんです。
いわゆる「古着のリメイク」ですから、
ぜんぶ1点もので、手がかかるぶん、
自分としても愛着のあるシリーズなんですよ。
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糸井 |
そのデザインセンスが「すごいなぁ」って
思ったのと同時に、
単に「気に入った洋服を買った」というだけじゃない、
別のうれしい気持ちも、あったんですよね。 |
平 |
えっと、それは‥‥。 |
糸井 |
なんだか、このセーターをつくった人と
すうーっと親しくなれたような気がしたんです。
実際、会ったこともなかったんだけど(笑)。 |
平 |
それは、洋服のデザイナーとして、
すごく、うれしいことばです。
自分のつくった洋服をとおして、
そういうコミュニケーションが生まれたらいいなって
ずっと思っていましたから‥‥。 |
糸井 |
そうしていたら、今年の2月くらいに、
平さんご本人から
「ほぼ日」宛にメールをもらったんですよね。 |
平 |
はい、コルソコモの店長さんから
糸井さんが
ぼくのセーターを買って下さったことをお聞きして。
以前から「ほぼ日」はよく読んでいましたから、
すごく、うれしくなっちゃったんですよ。
たくさんのメールが届くでしょうから、
読んでもらえるかどうかもわからないけれど、
ひとこと、お礼が言いたくて‥‥。
着てくださって、ほんとうにうれしいですって。 |
糸井 |
ぼくらもTシャツなんかをつくっていますから、
その気持ちは、すごくよくわかるんです。
それで、近いうちに会いましょうって
お返事を出したんですよね。 |
平 |
はい、ビックリしました。
自分からメールを出しておきながら(笑)。 |
糸井 |
でもね、こうやって、平さんご本人に
じっさいにお会いしてみたら、
もうひとつの「うれしい気持ち」の理由が、
なんだか、わかるような気がしてきたんです。 |
平 |
それは、どういう‥‥? |
糸井 |
平さんという「つくり手」は、
「着る人の気持ち」で、
洋服をつくっているんじゃないかと思うんですよ。 |
平 |
あ‥‥それは、つねに心がけていることです。 |
糸井 |
どの洋服が気に入るか、気に入らないかって、
ぼくたち「着る人の気持ち」じゃないですか。
平さんというデザイナーは、つくり手であるまえに、
その「着る人の気持ち」が
徹底的に研ぎすまされているなぁって、感じるんです。
つまり、デザイナーとしてのこだわりとか、
職人技を見せつけるというよりも、
「洋服を着る側の人」が、
どんなものを「うれしい」と思うのかを、
とても、たいせつにしている人なんじゃないかなって。
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平 |
はい。 |
糸井 |
ぼくは、以前からずーっと、そういうデザイナーと
いっしょに何かしてみたかったし、
そういうデザイナーがつくったセーターだから、
なんだか、
うれしくなっちゃったんだと思うんですよね。 |
平 |
たしかに、ぼくは、
まず着る側の人として、洋服が大好きなんです。
つくり手となった今でも。 |
糸井 |
だから今日は、平さんがどんな道を経て、
「着る人の気持ちでつくるデザイナー」になったのかを、
お聞きしてみたいと思うんですが‥‥いいですか? |
平 |
なんか緊張しますけど‥‥よろしくお願いします!(笑) |
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<つづきます> |