2013年あんこの旅 とらや見学。
 
第4回 「とらや工房」は和菓子屋の原点。

「あんこの旅」は続いています。
午前中に御殿場の工場を見学したあとは、
「とらや工房」を訪ねました。

御殿場の東山という場所に、
元総理大臣の岸信介氏が晩年を過ごした邸宅があります。
「とらや工房」は、その敷地のとなりにありました。
オープンしたのは2007年の10月。
現在は地元の方を中心に多くの人々が訪れているそうです。

アクセスなど、くわしくはこちら、
「とらや工房」の公式サイトをご覧ください。

こちらは、「とらや工房」の岩瀬秀夫さん。
この日は定休日だったのですが、
われわれのためにご案内をしてくださいました。

「とらや工房」は、
素朴な手作りの和菓子を
もっとおいしく、よろこんでいただくため、
常に原点に戻りながら、
新たな挑戦もし続けている場所なのだそうです。

厨房はもちろん、
訪れた人々がお買い物をできる販売所や、
落ち着いた雰囲気の喫茶室もありました。
どちらでも、本家の「とらや」さんではお目にかかれない
ここだけの和菓子を扱っています。
敷地への入場は無料。
散歩だけをしに訪れる方もいらっしゃるそうです。

わらぶきの門をくぐり、竹林を進むと‥‥見えてきました。
あれが「とらや工房」です。


ガラス越しに、厨房の様子が見えます。
「開かれた和菓子ラボ」なのですね。

岩瀬さんの親切なご案内が続いています。

「これからみなさんは、
 白衣に着替えてこの厨房に入ってゆきます。
 あんこを使った和菓子が作られるところを
 その目で、近くで、ご覧になってください。
 どんな和菓子ができるのかは入ってからのお楽しみ。
 さあ、それではまいりましょう」

「なんかディズニーランドに来たみたい(笑)。
 あんこツアー。
 わっくわくするなぁ‥‥行きましょう!」

白衣に着替え、手洗い消毒、全身エアシャワーののち、
一行は厨房の中にお邪魔しました。


▲念のため、左が大統領、となりがなかしましほさんです。

まずは、「あんこ作り」。
ほんとうはこの小豆から作るのですが‥‥

この日は時間の都合で、
小豆を炊いて砂糖と合わせ、
一晩寝かせた状態からの製造を見せていただきます。

大きな釜に入ったこちらが「蜜漬け」まで進んだ小豆です。

それをグイっと見つめて糸井重里が、
とてもまじめな顔で職人さんのひとりに訊ねました。

「これはつまり、ゆであずきの状態。
 ということは‥‥食べられますかね‥‥」

「おいしいよぉ〜。
 小豆がまだ割れてなくてサラッとしてる」

うれしくておいしくて帽子がすこしずり落ちてますね。

釜に火が入りました。
沸騰するまでしばし待ちましょう。

待っているあいだに、
空いている釜で、
大きなしゃもじ「えんま」の使い方を習う大統領。

たのしくてさらに帽子がずり落ちてますが、
それはどうでもいいことです。
大統領は、この隙間からすべてが見えているのです。

ほどなくして、大釜の小豆が沸騰してきました。

ここまで、ぐらぐらに‥‥。
使うしゃもじを「えんま」と呼ぶのもうなづけますね。


▲煮えたぎる小豆をじっと見つめるふたり。

せっかくですので、動画でご覧いただきましょう。
短い映像です。
小豆がぐらぐらに煮える様子を、どうぞ。

作られているこのあんこには、
これから寒天が加えられ、とろみがつきます。
そして仕上げに水飴が入って、ツヤが出る。

それは、どんなお菓子に使われるあんこなのでしょう‥‥?

あんこを煮詰めているあいだ、となりの厨房へ。
銅板の前に女性の職人さんが立っています。

熱した銅板の上で焼かれるのは‥‥どら焼きの皮です。
そう、本日のあんこは、
「どら焼き」のためのものでした。

職人さんは、ひょいっとタネをすくって‥‥


▲ひょいっ。この手つきが、なんともうつくしい。

銅板に乗せていきます。


▲タネがきれいに切れているので、周りにこぼれません。

ふわふわの皮が、あっという間に焼けました。

ふいに、大統領が声をかけられました。

「糸井さんもやってみませんか?」

帽子とマスクのわずかな隙間から、視線を向ける大統領。

「やりましょう、もちろんやらせていただきましょう」

ひょいっとタネをすくって‥‥

銅板に‥‥ああ‥‥ちょっと周りにポタポタ。

それでもほら、こんな具合に焼けました。

よ、大統領!
どら焼きの皮も焼ける、大統領!

表情はまったく見えませんが、まちがいなく笑顔。

なかしまさんも挑戦しました。
「よ、お菓子屋さん!」という声援のなか、
ひょいっとタネをすくって銅板の上に‥‥

おー、さすがの仕上がりではないでしょうか。

このふわっふわの焼きたての皮に、
あんこをのせて、
この場でいただくことに。

ほおらぁ‥‥。

いっただきまぁす‥‥。

「うーーまーーーーいーーーー!」

そうこうしているうちに、
先ほどのあんこも完成しているようです。
となりの厨房にもどってみると‥‥

わあ‥‥つやっつや。

「おいひーーー!」

あんこが完成したところで、
一行は厨房を出て白衣を脱ぎ、
喫茶室に案内していただきました。
床暖房があたたかい、こんなに落ち着いた喫茶室です。

見学の感想を語り合っていると、
それぞれの目の前に、ぽんっと、こんな和菓子が。

赤飯大福。

なんてきれいな大福でしょう。
あんこの旅の一行から、思わず拍手が。

ご担当の職人さんが、
赤飯大福について説明してくださいます。

「豆を煮る工程で出た渋(しぶ)を
 煮詰めて濃くしたものに、
 もち米をつけて吸収させ赤飯にします。
 それを餅にして、あんを包みました。
 餅にはあえてすこし米を残して、
 食感をたのしんでいただくようにしてあります。
 ‥‥きょうはもう、
 ずいぶんあんこを召し上がっていただきましたが、
 いかがでしょう、食べられますでしょうか?」

「食べられます! きょう死ぬと思えば!」

だ、大統領、そんなに思いつめなくても(笑)。
なにはともあれ、赤飯大福をいただきましょう。

「‥‥んん、うんみゃい。
 皮からもあずきの香りがするね、いいね」

ここで、しほさんから質問が。

「みなさんはお仕事以外でも、
 ふだんから甘いものを食べるのですか?
 その場合は和菓子? 洋菓子はどうでしょう?」

「私たちはわりとみんなそうだと思いますが、
 機会があったらどんな和菓子でも
 洋菓子でも食べるようにしています。
 コンビニなどでも勉強のために。
 ‥‥というか自分が食べたいから(笑)」


▲御殿場工場をご案内くださった鵜澤幸男さんです。

「私は毎年お彼岸になると、
 自分で北海道の豆の小豆を取り寄せておはぎを作ります。
 好きなんですね、やっぱり」

赤飯大福を食べ終わると今度は、
喫茶室がお酒のほんかな香りで満たされました‥‥。

酒まんじゅう、登場。

ぽかぽかしています。
いいお顔です。

今年から発売された
「とらや工房」ならではの酒まんじゅうだそうです。
生地にもあんにも酒粕とお酒が入っています。
ふたつに割ってみると‥‥

あんの中からも、ふわっとお酒粕の香りが。

さらりとしたあんこは口当たりもよくて‥‥。

「おいしい、おいしいです。
 そうですかぁ、
 本店にはない、こういうものを作るんですね」

「私はこの工房で働くことになったときに、
 ひとつの目標を立てたんです。
 とらやを越えよう。
 本体のとらやを越えるくらい、
 おいしい和菓子をつくろうと」

「本体のとらや側からしたら、
 自分の敵を体内に作ったんですね、それはいいですね。
 でもきっと‥‥
 百年くらいやっていると同じになるんですよ(笑)。
 それが、とらやさんのすごいところだと思う。
 切磋琢磨して、試行錯誤して、
 同じところにたどり着くというか。
 ‥‥うーん、すごいな、やっぱり。
 きょうは勉強にもなった上に、こんなにおいしくて」


▲広報担当の松平斉忠さん。

「あんこは、足りましたでしょうか?」

「ありがとうございます、十分です。
 ぼくは、そんなにガツガツはしないんです。
 量を欲しているわけではないので。
 あんこをいっぱい食べたいという人とも違うし、
 あんこに詳しいという人とも違うんですよ。
 ただ、信心をしているだけ。
 神様のいうとおりに、ただ、はいっ! と」

よ、出張大統領!

さて、
おなかがいっぱいになったところで、
御殿場への「あんこの旅」は終了となりました。
われわれは東京へ戻ります。
工場のみなさん、工房のみなさん、
ほんとうにありがとうございました!


▲工房の庭には梅の木がたくさん。

(このシリーズは、もう1回続きます。
 気仙沼ワークショップのリハーサルの様子を、次回!)

 
2013-02-17-SUN
 
まえへ このコンテンツのトップへ つぎへ
 
 
 
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN