「あんこの旅」は続いています。
午前中に御殿場の工場を見学したあとは、
「とらや工房」を訪ねました。
御殿場の東山という場所に、
元総理大臣の岸信介氏が晩年を過ごした邸宅があります。
「とらや工房」は、その敷地のとなりにありました。
オープンしたのは2007年の10月。
現在は地元の方を中心に多くの人々が訪れているそうです。
アクセスなど、くわしくはこちら、
「とらや工房」の公式サイトをご覧ください。
こちらは、「とらや工房」の岩瀬秀夫さん。
この日は定休日だったのですが、
われわれのためにご案内をしてくださいました。
「とらや工房」は、
素朴な手作りの和菓子を
もっとおいしく、よろこんでいただくため、
常に原点に戻りながら、
新たな挑戦もし続けている場所なのだそうです。
厨房はもちろん、
訪れた人々がお買い物をできる販売所や、
落ち着いた雰囲気の喫茶室もありました。
どちらでも、本家の「とらや」さんではお目にかかれない
ここだけの和菓子を扱っています。
敷地への入場は無料。
散歩だけをしに訪れる方もいらっしゃるそうです。
わらぶきの門をくぐり、竹林を進むと‥‥見えてきました。
あれが「とらや工房」です。
ガラス越しに、厨房の様子が見えます。
「開かれた和菓子ラボ」なのですね。
岩瀬さんの親切なご案内が続いています。
「これからみなさんは、
白衣に着替えてこの厨房に入ってゆきます。
あんこを使った和菓子が作られるところを
その目で、近くで、ご覧になってください。
どんな和菓子ができるのかは入ってからのお楽しみ。
さあ、それではまいりましょう」
「なんかディズニーランドに来たみたい(笑)。
あんこツアー。
わっくわくするなぁ‥‥行きましょう!」
白衣に着替え、手洗い消毒、全身エアシャワーののち、
一行は厨房の中にお邪魔しました。
▲念のため、左が大統領、となりがなかしましほさんです。
まずは、「あんこ作り」。
ほんとうはこの小豆から作るのですが‥‥
この日は時間の都合で、
小豆を炊いて砂糖と合わせ、
一晩寝かせた状態からの製造を見せていただきます。
大きな釜に入ったこちらが「蜜漬け」まで進んだ小豆です。
それをグイっと見つめて糸井重里が、
とてもまじめな顔で職人さんのひとりに訊ねました。
「これはつまり、ゆであずきの状態。
ということは‥‥食べられますかね‥‥」
「おいしいよぉ〜。
小豆がまだ割れてなくてサラッとしてる」
うれしくておいしくて帽子がすこしずり落ちてますね。
釜に火が入りました。
沸騰するまでしばし待ちましょう。
待っているあいだに、
空いている釜で、
大きなしゃもじ「えんま」の使い方を習う大統領。
たのしくてさらに帽子がずり落ちてますが、
それはどうでもいいことです。
大統領は、この隙間からすべてが見えているのです。
ほどなくして、大釜の小豆が沸騰してきました。
ここまで、ぐらぐらに‥‥。
使うしゃもじを「えんま」と呼ぶのもうなづけますね。
▲煮えたぎる小豆をじっと見つめるふたり。
せっかくですので、動画でご覧いただきましょう。
短い映像です。
小豆がぐらぐらに煮える様子を、どうぞ。
作られているこのあんこには、
これから寒天が加えられ、とろみがつきます。
そして仕上げに水飴が入って、ツヤが出る。
それは、どんなお菓子に使われるあんこなのでしょう‥‥?
あんこを煮詰めているあいだ、となりの厨房へ。
銅板の前に女性の職人さんが立っています。
熱した銅板の上で焼かれるのは‥‥どら焼きの皮です。
そう、本日のあんこは、
「どら焼き」のためのものでした。
職人さんは、ひょいっとタネをすくって‥‥
▲ひょいっ。この手つきが、なんともうつくしい。
銅板に乗せていきます。
▲タネがきれいに切れているので、周りにこぼれません。
ふわふわの皮が、あっという間に焼けました。
ふいに、大統領が声をかけられました。
「糸井さんもやってみませんか?」
帽子とマスクのわずかな隙間から、視線を向ける大統領。
「やりましょう、もちろんやらせていただきましょう」
ひょいっとタネをすくって‥‥
銅板に‥‥ああ‥‥ちょっと周りにポタポタ。
それでもほら、こんな具合に焼けました。
よ、大統領!
どら焼きの皮も焼ける、大統領!
表情はまったく見えませんが、まちがいなく笑顔。
なかしまさんも挑戦しました。
「よ、お菓子屋さん!」という声援のなか、
ひょいっとタネをすくって銅板の上に‥‥
おー、さすがの仕上がりではないでしょうか。
このふわっふわの焼きたての皮に、
あんこをのせて、
この場でいただくことに。
ほおらぁ‥‥。
いっただきまぁす‥‥。
「うーーまーーーーいーーーー!」
そうこうしているうちに、
先ほどのあんこも完成しているようです。
となりの厨房にもどってみると‥‥
わあ‥‥つやっつや。
「おいひーーー!」
あんこが完成したところで、
一行は厨房を出て白衣を脱ぎ、
喫茶室に案内していただきました。
床暖房があたたかい、こんなに落ち着いた喫茶室です。
見学の感想を語り合っていると、
それぞれの目の前に、ぽんっと、こんな和菓子が。
赤飯大福。
なんてきれいな大福でしょう。
あんこの旅の一行から、思わず拍手が。
ご担当の職人さんが、
赤飯大福について説明してくださいます。
「豆を煮る工程で出た渋(しぶ)を
煮詰めて濃くしたものに、
もち米をつけて吸収させ赤飯にします。
それを餅にして、あんを包みました。
餅にはあえてすこし米を残して、
食感をたのしんでいただくようにしてあります。
‥‥きょうはもう、
ずいぶんあんこを召し上がっていただきましたが、
いかがでしょう、食べられますでしょうか?」
「食べられます! きょう死ぬと思えば!」
だ、大統領、そんなに思いつめなくても(笑)。
なにはともあれ、赤飯大福をいただきましょう。
「‥‥んん、うんみゃい。
皮からもあずきの香りがするね、いいね」
ここで、しほさんから質問が。
「みなさんはお仕事以外でも、
ふだんから甘いものを食べるのですか?
その場合は和菓子? 洋菓子はどうでしょう?」
「私たちはわりとみんなそうだと思いますが、
機会があったらどんな和菓子でも
洋菓子でも食べるようにしています。
コンビニなどでも勉強のために。
‥‥というか自分が食べたいから(笑)」
▲御殿場工場をご案内くださった鵜澤幸男さんです。
「私は毎年お彼岸になると、
自分で北海道の豆の小豆を取り寄せておはぎを作ります。
好きなんですね、やっぱり」
赤飯大福を食べ終わると今度は、
喫茶室がお酒のほんかな香りで満たされました‥‥。
酒まんじゅう、登場。
ぽかぽかしています。
いいお顔です。
今年から発売された
「とらや工房」ならではの酒まんじゅうだそうです。
生地にもあんにも酒粕とお酒が入っています。
ふたつに割ってみると‥‥
あんの中からも、ふわっとお酒粕の香りが。
さらりとしたあんこは口当たりもよくて‥‥。
「おいしい、おいしいです。
そうですかぁ、
本店にはない、こういうものを作るんですね」
「私はこの工房で働くことになったときに、
ひとつの目標を立てたんです。
とらやを越えよう。
本体のとらやを越えるくらい、
おいしい和菓子をつくろうと」
「本体のとらや側からしたら、
自分の敵を体内に作ったんですね、それはいいですね。
でもきっと‥‥
百年くらいやっていると同じになるんですよ(笑)。
それが、とらやさんのすごいところだと思う。
切磋琢磨して、試行錯誤して、
同じところにたどり着くというか。
‥‥うーん、すごいな、やっぱり。
きょうは勉強にもなった上に、こんなにおいしくて」
▲広報担当の松平斉忠さん。
「あんこは、足りましたでしょうか?」
「ありがとうございます、十分です。
ぼくは、そんなにガツガツはしないんです。
量を欲しているわけではないので。
あんこをいっぱい食べたいという人とも違うし、
あんこに詳しいという人とも違うんですよ。
ただ、信心をしているだけ。
神様のいうとおりに、ただ、はいっ! と」
よ、出張大統領!
さて、
おなかがいっぱいになったところで、
御殿場への「あんこの旅」は終了となりました。
われわれは東京へ戻ります。
工場のみなさん、工房のみなさん、
ほんとうにありがとうございました!
▲工房の庭には梅の木がたくさん。
(このシリーズは、もう1回続きます。
気仙沼ワークショップのリハーサルの様子を、次回!)
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