2013年あんこの旅 とらや見学。
 
第3回 御殿場工場にて。(あんこ=笑う食べもの)

「とらや」御殿場工場を見学したあとの休憩中、
職人・鵜澤幸男さんたちとのお話が続いています。


糸井 あんこの話になると、
どうしてもぼくは、しゃべりすぎちゃって‥‥。
なかしまさん、いかがですか。
しほさんから、職人さんに質問があれば。
しほさん はい。
あの、和菓子では塩を入れる作り方を
よく見かけるのですが、「とらや」さんでは‥‥?

鵜澤さん 甘さを引き立たせるために
塩を入れると思うんですが、
私どもの菓子には入れていません。

糸井 塩を入れてはいけない。
鵜澤さん 個人的にはそう思っています。
小豆の風味をそこなわないためにも。
増粘剤などもいっさい使っていません。
菓子は、いちばんおいしい状態で
召し上がっていただきたいと常に考えています。
そうなると、生菓子などは
早めに召し上がっていただかないと
いけませんが‥‥。
糸井 そうですよね、
「とらや」のまんじゅうは硬くなりますよね。

鵜澤さん ええ、そうですね。
糸井 この前いただいたまんじゅうは、
その日のうちにふかして食べました。
鵜澤さん ありがとうございます。
糸井 まっぷたつに切ったのをふかしても大丈夫でした。
鵜澤さん ‥‥?
(※この時点で「とらや」さんは、
 上記リンク先の事件をご存知ありませんでした)
糸井 とてもおいしかったです。
‥‥どうしたの(じゅんぺいに)、元気ないね。

糸井 しほさんはどうでしょう。
あんこを作るとき、塩を入れますか。
しほさん 昔は入れてたんですが、
いまはくどく感じるようになったので入れてません。
使う砂糖によって変わる味わいにも
影響すると思いますし。
糸井 ああー、砂糖もいろいろありますからね。
しほさん 砂糖によって、味はすごくかわると思います。
精製度の低いものをつかうと、
コクがある感じになったり。
糸井 「とらや」さんの味は、
「少し甘く、少し硬く、後味良く。」でしたよね。
鵜澤さん ええ。それが特徴です。
糸井 ということは、あんこの砂糖は‥‥
鵜澤さん あんにもよりますが、
基本的には白双糖(しろざらとう)ですね。
糸井 しろざらとう。
鵜澤さん 白ザラメ。
純度がとても高い砂糖です。
糸井 グラニュー糖に近い?
鵜澤さん そうですね、グラニュー糖も純度の高い精製糖です。

糸井 あの‥‥生意気な発言なんですけど、
自分で甘いものを作っていて思うのは、
グラニュー糖って、いい意味で平面的なんですよ。
「すっきり甘い」というのはそれだと思うんです。
雑味があると立体感が出て、
すごくグラマラスになっちゃう。
コク、ですよね。
そうすると、その甘さと別れがたくなるんです。
鵜澤さん はい、はい。
糸井 たぶん「とらや」さんの甘さは、
墨絵に近いというか‥‥
さっと別れられるおいしさ?
しほさん そうですね、私もそういうふうに思います。
糸井 ぼくはときどき、
カレーの仕上げに、お砂糖を入れます。
そのことを隠してたんですよ。
会社でカレーを作るときにも、
仕上げでは「キッチンの外に出ろ」って言って、
秘密にしてました。

ほぼ日 (ざわざわざわ)えーーー!
あれは砂糖だったんですか?!
糸井 ま、それはたいしたことじゃないんです。
料理好きならみんなやります。
要は、立体感が出るんですよ。
味の基準値というものを
みんなは甘さで持っているんです。
だから甘さを一本立てておけば、
いろいろな方向に向かうスパイスの基準となって
くっきりと立体感がうまれるんです。
‥‥と、ぼくは思っています。
ほぼ日 はああーーー(あれは砂糖だったのか‥‥)。
糸井 ですから、甘さっていうのは
大黒柱みたいなものですよね。
みんな甘みを基準においしさを語るじゃないですか。
鵜澤さん そうですね、米でも水でも、魚も。
糸井 「とらや」さんの場合は
その甘味が後味すっきししている、と。
中田さん あの、「とらや」には
黒砂糖を使った「おもかげ」という
羊羹があるのですが、
それについてはどういう印象をお持ちでしょう。

▲写真中央が、企画課主任の中田さん。
糸井 はい、「おもかげ」。
あれはね、あんなに黒砂糖なのに、
品よく感じさせているというか‥‥。
これはもうぼくが、「とらや」のブランドに
やられているのかもしれません。
でも、ブランドってそういうものだと思うんです。
周辺の情報もぜんぶ含めて味なんで。
「おもかげ」という羊羹はさすが「とらや」、
黒砂糖なのに後味がすっきり。
と、勝手にぼくは言ってますけど、
それ、まちがっててもいいと思ってるんです。

広告をやっていたころに、
商品環境という言い方をよくしていました。
たとえば‥‥シャネルの香水があります。
それを石油缶に入れて河原で売っていたら、
安くても誰も買わない。
どんなお店でどんな店員さんが売ってくれるのか、
それも含めて、香りなんだと。
それが価値ですよね。

‥‥おれはほんと、すっごいまじめになるな、
あんこの話になると。
自分でもびっくりするわ。

一同 (笑)
糸井 「おもかげ」っていうネーミングが、
またうまいんですよ。
なんかありそうで。
「おも」で、「かげ」でしょう?
仏壇にも置きやすいですよね。
故人の面影を偲んで‥‥って。
ほぼ日 なるほど‥‥。
糸井 ぼくは最近、
壇蜜という人のことをよく語りますけど、
あのネーミングもすばらしいですよね。
「仏壇」に「蜜」。
タナトス(死の象徴)とエロス。
「おもかげ」もそうですよ。
あの世への供え物としての「蜜」「甘み」。
そして「おもかげ」の「影」は、タナトス側です。
ほぼ日 大統領‥‥。
ほぼ日 大統領の発言に、ブレがない‥‥。
中田さん ‥‥あんこに対してこんなにものすごい
愛と想いを持って語ってくださる方に
出会えたことをうれしく思います。
たいせつなことを忘れている私たちに、
あらためて教えてくださっているような‥‥。
‥‥その‥‥大統領が‥‥。

一同 (笑)
糸井 ま、ぼくが言ってるんじゃなくて、あんこが。
天のあんこの意志が私を通じて。
ぼくじゃないんです。

ほぼ日 よ。
ほぼ日 よ、大統領。
糸井 ですからぼくは、
あんこのことをオタク的に調べはしません。
ただ思うんです。
「どのくらい美人か解剖してみよう」
みたいなことをオタクはやるんですけど、
それはやりません。
語れるギリギリまでは語るんですけど、
わからないことはわかりませんと言います。
本田さん ほぼ日のみなさんが、
私の作った和菓子を食べて
目の前でこころからよろこんでくださって‥‥。
なんか、あらためて、
「ありがとうございます」
という気持ちになりました。
引き締めなければなと思いました。
作ることばかり考えがちですが、
その先を考えないとだめなんだよな、と。

▲写真右が、製造課主事の本田さん。
糸井 よろこびなんですよ。
ぼくらは、よろこびを買うんです。
‥‥だって、
甘いものは笑うでしょ、みんな。
食べておいしいときに。
一同 ‥‥‥‥!
糸井 そんなものはない。
食べて笑う。
笑う食べものって、ないですよ。
‥‥ぼくも今、しゃべりながら気づきました。
あんこは笑う食べもの‥‥。
おせんべい食べても、あんまり笑わないですよね。

ほぼ日 ‥‥たしかに。
糸井 そんなすごい食べものを作るための積み重ねが
この会社にはいっぱいあるんだろうなと思うと、
ほんとに感動さえします。
しかも、新しいおいしさも探している。
そういう発見は、
この工場のラインからは見つけにくいでしょうから、
たぶんアトリエみたいな場所で
爆発があるんでしょうね。
鵜澤さん そうです、まさしく。
このあとご案内する、
「とらや工房」という場所がまさにそれです。

糸井 そうですか。
そっちも、かなりたのしみです。
‥‥なんでだろうね、
ものすごくたのしいのにさ、
顔がマジになっちゃうんだよ(笑)。

一同 (笑)

(お菓子、ごちそうさまでした。
 午後は「とらや工房」へ! つづきます)
 
2013-02-16-SAT
 
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