|
糸井 |
あんこの話になると、
どうしてもぼくは、しゃべりすぎちゃって‥‥。
なかしまさん、いかがですか。
しほさんから、職人さんに質問があれば。
|
しほさん |
はい。
あの、和菓子では塩を入れる作り方を
よく見かけるのですが、「とらや」さんでは‥‥?
|
|
鵜澤さん |
甘さを引き立たせるために
塩を入れると思うんですが、
私どもの菓子には入れていません。
|
|
糸井 |
塩を入れてはいけない。
|
鵜澤さん |
個人的にはそう思っています。
小豆の風味をそこなわないためにも。
増粘剤などもいっさい使っていません。
菓子は、いちばんおいしい状態で
召し上がっていただきたいと常に考えています。
そうなると、生菓子などは
早めに召し上がっていただかないと
いけませんが‥‥。
|
糸井 |
そうですよね、
「とらや」のまんじゅうは硬くなりますよね。
|
|
鵜澤さん |
ええ、そうですね。
|
糸井 |
この前いただいたまんじゅうは、
その日のうちにふかして食べました。
|
鵜澤さん |
ありがとうございます。
|
糸井 |
まっぷたつに切ったのをふかしても大丈夫でした。
|
鵜澤さん |
‥‥?
(※この時点で「とらや」さんは、
上記リンク先の事件をご存知ありませんでした)
|
糸井 |
とてもおいしかったです。
‥‥どうしたの(じゅんぺいに)、元気ないね。
|
|
糸井 |
しほさんはどうでしょう。
あんこを作るとき、塩を入れますか。
|
しほさん |
昔は入れてたんですが、
いまはくどく感じるようになったので入れてません。
使う砂糖によって変わる味わいにも
影響すると思いますし。
|
糸井 |
ああー、砂糖もいろいろありますからね。
|
しほさん |
砂糖によって、味はすごくかわると思います。
精製度の低いものをつかうと、
コクがある感じになったり。
|
|
糸井 |
「とらや」さんの味は、
「少し甘く、少し硬く、後味良く。」でしたよね。
|
鵜澤さん |
ええ。それが特徴です。
|
糸井 |
ということは、あんこの砂糖は‥‥
|
鵜澤さん |
あんにもよりますが、
基本的には白双糖(しろざらとう)ですね。
|
糸井 |
しろざらとう。
|
鵜澤さん |
白ザラメ。
純度がとても高い砂糖です。
|
糸井 |
グラニュー糖に近い?
|
鵜澤さん |
そうですね、グラニュー糖も純度の高い精製糖です。
|
|
糸井 |
あの‥‥生意気な発言なんですけど、
自分で甘いものを作っていて思うのは、
グラニュー糖って、いい意味で平面的なんですよ。
「すっきり甘い」というのはそれだと思うんです。
雑味があると立体感が出て、
すごくグラマラスになっちゃう。
コク、ですよね。
そうすると、その甘さと別れがたくなるんです。
|
鵜澤さん |
はい、はい。
|
糸井 |
たぶん「とらや」さんの甘さは、
墨絵に近いというか‥‥
さっと別れられるおいしさ?
|
しほさん |
そうですね、私もそういうふうに思います。
|
糸井 |
ぼくはときどき、
カレーの仕上げに、お砂糖を入れます。
そのことを隠してたんですよ。
会社でカレーを作るときにも、
仕上げでは「キッチンの外に出ろ」って言って、
秘密にしてました。
|
|
ほぼ日 |
(ざわざわざわ)えーーー!
あれは砂糖だったんですか?!
|
糸井 |
ま、それはたいしたことじゃないんです。
料理好きならみんなやります。
要は、立体感が出るんですよ。
味の基準値というものを
みんなは甘さで持っているんです。
だから甘さを一本立てておけば、
いろいろな方向に向かうスパイスの基準となって
くっきりと立体感がうまれるんです。
‥‥と、ぼくは思っています。
|
ほぼ日 |
はああーーー(あれは砂糖だったのか‥‥)。
|
糸井 |
ですから、甘さっていうのは
大黒柱みたいなものですよね。
みんな甘みを基準においしさを語るじゃないですか。
|
鵜澤さん |
そうですね、米でも水でも、魚も。
|
糸井 |
「とらや」さんの場合は
その甘味が後味すっきししている、と。
|
中田さん |
あの、「とらや」には
黒砂糖を使った「おもかげ」という
羊羹があるのですが、
それについてはどういう印象をお持ちでしょう。 |
▲写真中央が、企画課主任の中田さん。
|
糸井 |
はい、「おもかげ」。
あれはね、あんなに黒砂糖なのに、
品よく感じさせているというか‥‥。
これはもうぼくが、「とらや」のブランドに
やられているのかもしれません。
でも、ブランドってそういうものだと思うんです。
周辺の情報もぜんぶ含めて味なんで。
「おもかげ」という羊羹はさすが「とらや」、
黒砂糖なのに後味がすっきり。
と、勝手にぼくは言ってますけど、
それ、まちがっててもいいと思ってるんです。
広告をやっていたころに、
商品環境という言い方をよくしていました。
たとえば‥‥シャネルの香水があります。
それを石油缶に入れて河原で売っていたら、
安くても誰も買わない。
どんなお店でどんな店員さんが売ってくれるのか、
それも含めて、香りなんだと。
それが価値ですよね。
‥‥おれはほんと、すっごいまじめになるな、
あんこの話になると。
自分でもびっくりするわ。
|
|
一同 |
(笑)
|
糸井 |
「おもかげ」っていうネーミングが、
またうまいんですよ。
なんかありそうで。
「おも」で、「かげ」でしょう?
仏壇にも置きやすいですよね。
故人の面影を偲んで‥‥って。
|
ほぼ日 |
なるほど‥‥。
|
糸井 |
ぼくは最近、
壇蜜という人のことをよく語りますけど、
あのネーミングもすばらしいですよね。
「仏壇」に「蜜」。
タナトス(死の象徴)とエロス。
「おもかげ」もそうですよ。
あの世への供え物としての「蜜」「甘み」。
そして「おもかげ」の「影」は、タナトス側です。
|
ほぼ日 |
大統領‥‥。
|
ほぼ日 |
大統領の発言に、ブレがない‥‥。
|
中田さん |
‥‥あんこに対してこんなにものすごい
愛と想いを持って語ってくださる方に
出会えたことをうれしく思います。
たいせつなことを忘れている私たちに、
あらためて教えてくださっているような‥‥。
‥‥その‥‥大統領が‥‥。
|
|
一同 |
(笑)
|
糸井 |
ま、ぼくが言ってるんじゃなくて、あんこが。
天のあんこの意志が私を通じて。
ぼくじゃないんです。
|
|
ほぼ日 |
よ。
|
ほぼ日 |
よ、大統領。
|
糸井 |
ですからぼくは、
あんこのことをオタク的に調べはしません。
ただ思うんです。
「どのくらい美人か解剖してみよう」
みたいなことをオタクはやるんですけど、
それはやりません。
語れるギリギリまでは語るんですけど、
わからないことはわかりませんと言います。
|
本田さん |
ほぼ日のみなさんが、
私の作った和菓子を食べて
目の前でこころからよろこんでくださって‥‥。
なんか、あらためて、
「ありがとうございます」
という気持ちになりました。
引き締めなければなと思いました。
作ることばかり考えがちですが、
その先を考えないとだめなんだよな、と。
|
▲写真右が、製造課主事の本田さん。
|
糸井 |
よろこびなんですよ。
ぼくらは、よろこびを買うんです。
‥‥だって、
甘いものは笑うでしょ、みんな。
食べておいしいときに。
|
一同 |
‥‥‥‥!
|
糸井 |
そんなものはない。
食べて笑う。
笑う食べものって、ないですよ。
‥‥ぼくも今、しゃべりながら気づきました。
あんこは笑う食べもの‥‥。
おせんべい食べても、あんまり笑わないですよね。
|
|
ほぼ日 |
‥‥たしかに。
|
糸井 |
そんなすごい食べものを作るための積み重ねが
この会社にはいっぱいあるんだろうなと思うと、
ほんとに感動さえします。
しかも、新しいおいしさも探している。
そういう発見は、
この工場のラインからは見つけにくいでしょうから、
たぶんアトリエみたいな場所で
爆発があるんでしょうね。
|
鵜澤さん |
そうです、まさしく。
このあとご案内する、
「とらや工房」という場所がまさにそれです。
|
|
糸井 |
そうですか。
そっちも、かなりたのしみです。
‥‥なんでだろうね、
ものすごくたのしいのにさ、
顔がマジになっちゃうんだよ(笑)。
|
|
一同 |
(笑)
|
|
(お菓子、ごちそうさまでした。
午後は「とらや工房」へ! つづきます) |