糸井重里
・大人になってからの知り合いというのは、
どこで生まれて、どこで育ったのかを知らない人も多い。
仕事の場面で知り合ったのなら、
ある程度はその人の過去についても想像はできるが、
もっと偶然に近い出会いをした人もいる。
H.H氏も、そういう知人のひとりだった。
それほど深いつきあいがあるわけでもないが、
いわゆる人好きのするおもしろい人で、
2年に一度位の感じで、どこやら産の珍しいコーヒーを
手土産に持って近況などを話しにきていたが、
ここ数年は音沙汰がなかった。
あと、カラオケの歌がむやみにうまいのだった。
一年ほど前に、ひさしぶりに連絡がきた。
「サルは、ほんとにいい」というのが、
夢中になって話してくれる内容のすべてだった。
だれでも知っている日本のある山奥に、
H.H氏は巨大な山小屋を持っている。
山小屋で巨大というだけで矛盾しているようだが、
工場をつくるつもりで建てたという建物なので、
大きさもそれなりに必然性があるということらしい。
しかし、それは工場ではなく山小屋なのだった。
ところが、その山小屋で、彼は大仕事をしているという。
仕事のことは、やや曖昧にしか語ってくれないのだが、
「法や道徳にさわるような悪いことではない」という。
そして「その時期、季節や、経済状況によっていろいろ」
であるともいうのだが、細かい手仕事の集約であるらしい。
「ぜんぶ、地元のサルがやってくれるんですよ」
住み込んでいるわけでもなく、約300匹のサルが、
H.H氏の山小屋に通ってくるというのだ。
そして、まじめにせっせと働いて、晩飯を食べて帰る。
その献立はH.H氏が大鍋でこころをこめて料理したもので、
サルたちは、それが食べたくてこの「工場」に来るという。
ほんとうなのか、300匹のサルを雇う社長なのか、彼は。
「簡単で根気の要る仕事については、
人間よりもサルのほうが向いている」と、彼は言う。
巨大な山小屋で栗を剥いているサルの写真も見せられた。
というようなウソップ物語を書いて、今日はもう寝る。
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