糸井重里
・毎日、「なにを食べようかなぁ」と考えるのは、
面倒だという人もいるだろうけど、恵まれたことだよ。
選べるっていうだけで、たいしたことなんだよな。
昔、アメリカ製の連続テレビ番組で
『ローハイド』っていうドラマがあってさ、
クリント・イーストウッドがまだ若手だった時代だよ。
牛を運んで旅をするカウボーイたちの物語なんだけど、
その集団の食事が毎日毎日「豆料理」なんだよ。
塩漬けの豚といんげん豆を煮込んだものだと思うけど。
「また豆かよ、毎日毎日」というカウボーイたちの不平と、
料理係のウィッシュボーンじいさんの
「食いたくなけりゃ食うな!」っておなじみの掛け合いを、
小学生時代のぼくはおもしろがって見ていたんだよ。
このコントみたいなやりとりを、ずうっと憶えていてね、
大人になってからも、よく思い出しているんだ。
つまり、毎日同じものしか食べられないつらさのことをね。
「COWBOY」って文字通り「牛追い」って意味だものね。
仕事として何千頭もの牛を運ぶ労働者たちのことだ。
テンガロンハットをかぶって拳銃くるくる回転させたり、
投げ縄で悪漢を捕まえたりする二枚目じゃないよ。
雨の日も風の日も馬に乗って牛の群を運んでいる職業。
んで、豆ばっかり食っている毎日なんだからさ、
いまどきのわしらにゃ、まねできないよ、大変なことだよ。
それは、この時代の大陸横断鉄道だって同じことでさ、
広いアメリカ合衆国のとても短めの歴史って、
こういう重労働な開拓の物語でもあるんだよね。
説教がましいことになるけど、
「なにを食べようかなぁ」とか言ってられるのは、
牛の群れを移動させながら豆ばっかり食べてた人たちの
泥だらけの物語の上にあるんだよね、聞いてるか、俺よ。
なんかねぇ、そういう歴史への敬意みたいなものを、
忘れちゃならねぇなぁって、いまさら思ったりするのよ。
いくら情報が増えてもAIが発達しても、
現実の土台がなかったら、ただの雲みたいなものだからね。
だれかが、水も豆も牛も道も用意しなきゃならないんだ。
今日も、「ほぼ日」に来てくれてありがとうございます。
アメリカが開拓の歴史だとすると、日本ってなんの歴史かな。
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