── |
峰岸さんのようなコマ撮りのアニメーターさんは
日本でも数名しかいないと聞きました。
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峰岸 |
そうですね。
人形を動かすだけで食ってます、という人は‥‥
片手で足りるくらいかなあ。
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── |
つまり、5人以内?
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峰岸 |
おそらく、そんな感じだと思います。
「自分が監督している作品の人形を
自分で動かす」
という人なら、もっといると思うんですけど。
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── |
峰岸さんのように、いわば「職人的」に
「動かすこと」だけを引き受けて
しかも食べることができている人は、少ないと。
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峰岸 |
そうですね。アメリカやイギリスには
もう「わんさか」ってほど、いるんですけどね。
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── |
これは、峰岸さんが「職人」と呼ばれている
ゆえんかも知れませんが
どんなモノが来ようが、動かす人であると
聞いてまいりました。
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峰岸 |
そうですね‥‥何でも動かしますねぇ。
手で触れるものなら、何でも。
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── |
すごい!
では、今までのキャリアで
いちばん「無茶」なオファーって何ですか?
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峰岸 |
無茶というか‥‥いろいろ大変だったのは
炊飯器かなあ。
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── |
‥‥あの、お米を炊く、電気のお釜の。
(って、何を言っているんだろう‥‥)
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峰岸 |
そう、業務用の、こんなデッカイお釜が
「歩きたい」って。
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── |
ははー‥‥。
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峰岸 |
しかも、昼間の公園を。
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── |
というと?
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峰岸 |
基本的に、コマ撮りで「野外ロケ」なんて
あり得ないんです。
時間とともに、光が変わっちゃいますから。
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── |
そうか、太陽は刻々と動いているから
写真によって
光の角度や影などが変わってしまうと。
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峰岸 |
それは、テレビ用のCMだったんですけれど
まあ、いろいろ考えて
最終的には、実写の風景のなかに
コマ撮りの静止画を合成して
どうにか、作品として完成させましたけどね。
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── |
つまり‥‥歩かせたんですね。炊飯器を。
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峰岸 |
歩かせましたね。
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── |
あの、峰岸さんが
この世界に入ったきっかけを教えてください。
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峰岸 |
わたしが、まだ幼稚園だったころ、
テレビでアメリカの人形アニメを観たんです。
ジョージ・パル監督の
『ジャスパー』という作品なんですけど。
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── |
それは、どのようなお話なんですか?
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峰岸 |
あれは、音楽もジャズだったし、
もしかすると、大人向けだったのかなぁ‥‥。
ギョロ目でタラコくちびるの黒人の男の子が
主人公なんですが、
おもしろいストーリーのなかに
ちょっと「怖い」要素が混じってるんです。
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── |
あ、子どもって
けっこう「怖い」感じ、好きですものね。
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峰岸 |
そうそう。その『ジャズパー』って作品も
画面は暗めだし、何だか絵づくりもきたなくて。
手法は「パペトゥーン」でした。
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── |
パーツを置き換えて撮る手法の、あの。
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峰岸 |
うん、男の子が「歩く」ときは
腰から下を、いちいち置き換えて撮るというね。
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── |
ええ、ええ。
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峰岸 |
制作されたのは「第二次大戦中」ですから
もう60年以上前の作品ですけど
非常に凝ってましたし、
かなり高度で、時間のかかるアニメーションを
やっていたんです。
もちろん、当時は、ただの子どもですから
そんなこと、わかってませんでしたけど。
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── |
でも、他の映画やアニメなんかとは
どういうふうに、ちがって見えたんでしょうか。
峰岸少年の目には。
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峰岸 |
やはり‥‥「まばたき」かなあ‥‥。
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── |
まばたき?
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峰岸 |
そう、ジャスパーの「まばたき」です。
グリグリっ、グリグリって
まばたきするんですけど
その「動き」が
とりわけ強烈な印象として残っていまして。
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── |
へぇー‥‥。
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峰岸 |
だってね‥‥子どもごころに
「目玉の上から
まぶたがにゅうっと出てきてる!」
って、ドキドキしたんですよ。
(1941年制作『Jasper and the Watermelons』が
こちらのYouTubeのページでごらんいただけます)
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── |
そうか、コマ撮りのことを知らなかったら
当然の疑問ですよね。
「どこから、どうやって、まぶたが!?」
というのは。
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峰岸 |
人形アニメの道を志したきっかけと言うなら、
そんな、単純なことでした。
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── |
では、そのときの「強烈な印象」を抱いたまま、
まっすぐ、今のお仕事へ?
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峰岸 |
高校を出て、アニメの専門学校に行くんですけど
動機の根っこには
あの「まばたき」が、ずっとあった気がします。
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── |
ジャスパーのまばたきが、それほどまでに。
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峰岸 |
ただ、「アニメを仕事にしよう」と思ったのは
川本喜八郎さんや
岡本忠成さんの
人形アニメーション作品を見てから、です。
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── |
なるほど。
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峰岸 |
川本さんの「鬼」なんて、本当に、すごかった。
黒バックの蒔絵のなかで
日本的な人形が、すごく細かく動いていて‥‥。
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── |
それを見て「この仕事をやりたい!」と。
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峰岸 |
ええ、アニメの学校に講師として来られていた
岡本忠成さんのスタジオに
卒業後、アルバイトで入れていただきました。
そのあと、川本さんのところで
いろいろ勉強させていただいたりしながら‥‥。
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── |
もう、どのくらいですか?
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峰岸 |
37年。
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── |
37年!
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峰岸 |
なかなか、うまくなんないです(笑)。
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── |
いやいや‥‥。でも、そう思われますか。
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峰岸 |
思いますねぇ。
毎回毎回、
「思ったとおりにアニメできないな」って
感じてるからこそ、
わたしは、次の作品をやるんだと思います。
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── |
今日、コマ撮りの撮影を見学さていただいて
こうして
峰岸さんのお話をうかがっていると
この仕事は
「好きじゃないと無理だな」って感じました。
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峰岸 |
それは、言えるでしょうね。
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── |
どんなお仕事でも、そうだとは思いますが
コマ撮りアニメの現場は
とりわけ、そのことを強く感じました。
しーんとしていて緊張感をはらんだ現場が
何ヶ月も続く一方で、
納期があんまりないときは
ほとんど寝ずに、数日で仕上げるというし‥‥
この現場は
ここにいる全員が「大好き」じゃないと
成立しないんだろうなあと。
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峰岸 |
カメラマン、進行管理、わたし、そして監督‥‥
たしかにみんな「好きな人」ばかりだね(笑)。
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── |
本日、見学させていただいた「こまねこ」は
何分くらいの作品になるんですか?
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峰岸 |
5分ちょっと‥‥ですかね。
それを「2か月」くらいかけて、撮ってます。
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── |
作品の長さとしては‥‥。
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峰岸 |
どっちかといえば、短いほうだと思います。
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── |
逆に、『ウォレスとグルミット』みたいな
一本の「映画」になると、
いったい、
どれくらいの時間がかかっているのか‥‥。
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峰岸 |
あれは「1時間半」くらいの長さですけど、
30くらいの撮影チームで
2~3年かけて、撮ってるんです。
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── |
人、時間、お金‥‥ものすごいスケールです。
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峰岸 |
まあ、作品の規模もそうですけど、
それだけの数のチームの「アウトプット」を
一定のレベルにそろえられるだけの
アニメーターがいるってことが、すごい。
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── |
層が厚い、と。
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峰岸 |
イギリスやアメリカはね、やっぱり。
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── |
ちなみに、こういうお仕事をしていると
職業病じゃないですけど、
人やモノの動きが気になったりとか、しますか?
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峰岸 |
動いてるものは、みんな好き。
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── |
みんなって‥‥それは、何でも?
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峰岸 |
はい。動くもの、好きなんです。何でも。
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── |
具体的に挙げるとすると‥‥。
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峰岸 |
もう、寄せてはかえす「波」だったり、
そよ風に揺れる「木の葉」だったり。
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── |
それを、ずっと見てらっしゃる?
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峰岸 |
ずーーーっと、見てます。
そして、しばらく見ているうちに
「この葉っぱは、何コマで揺れてるな」
とか考えはじめるわけです。
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── |
はー‥‥では、当然、乗り物なんかも?
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峰岸 |
電車とか、大好きですねぇ。
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── |
ようするに、それは
「走っている電車を見るのが好きである」
という意味ですか?
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峰岸 |
いや、電車に乗ってね‥‥。
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── |
ええ。
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峰岸 |
線路を見続けるんですよ。
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── |
うわ、そっちですか!
上から下へどんどん流れてゆく枕木を
見続ける‥‥というような?
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峰岸 |
ええ、そうです。
もう、それだけでおもしろくって
子どものころから、ずっと見続けてました。
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── |
美しい車窓の風景などではなく。
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峰岸 |
線路です。
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── |
ほんとに、お好きなんですね‥‥。
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峰岸 |
ほかにも、少ーしずつしか動かないものとか、
じぃーっと眺めているの、大好きです。
ウミウシとかね。
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── |
僕などが言うのもおこがましいですが
まさしく「天職」でいらっしゃると思います。
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峰岸 |
でも、ふだんから好きで見てるので
アニメするときに、非常に活きてくるんです。
そよ風で草がゆらゆら揺れる場面なんて、
テストしなくても
一発で、完璧に動かせる自信あります。
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── |
‥‥つまり、峰岸さんのあたまのなかには
人や動物やモノの
さまざまな場面における「動き」が
アーカイブされてると。
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峰岸 |
まあ、そんなおおげさなことじゃないけど
そうですかね、あるていどは。 |
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<つづきます> |