「仕事!』とは?
佐久間敏雅さんのプロフィールはこちら
── 佐久間さんは、GREEN DOGという
犬のための健康食品を、販売されていますね。
佐久間 ええ、現在は食品だけではなくて、
シャンプーやマウスクリーナーなどの
健康のためのグッズ、
ウェアや雑貨類、
歩行困難なパートナー(愛犬)のための
車椅子など、
犬の健康に関係する製品を
いろいろと、扱うようになりました。
── 大阪のNPO法人・ARKさんの活動にも
賛同して、支援されているとか。
佐久間 そうですね。
── ぼくたちも
「できることを、すこしする」という気持ちで、
ペットグッズのお店・GEORGEさんと
コラボレーションした
「ほぼ日手帳2011」の売り上げの一部を
ARKさんに寄付してきたんですが‥‥。
佐久間 ええ、存じ上げてます。

わたしたちGREEN DOGでは
包装に傷がついてしまった等の理由で
販売できないフードを寄贈したり、
分散型クリック募金というシステムを使って
寄付を募り、送金したりしてます。
── そもそも
「犬の健康食品を販売する」という仕事を
はじめるにあたっては、
何か「きっかけ」があったと思うのですが。
佐久間 ぼくは、もともとP&Gという会社で
大人用紙おむつのアテント
生理用品のウィスパー
乳幼児用紙おむつのパンパースなどを
担当していたんですね。
── じゃあ「犬の健康食品」とは
ぜんぜん関係ない分野だったんですか。
佐久間 ええ、そうなんですよ。

でも、P&Gのときの経験が
いまの仕事に、とても活きています。
── あの、私事で恐縮ですが、
現在1歳9ヶ月になる娘がいるんですけど、
紙おむつは、おもにパンパースを
使わせていただいております。
佐久間 あ、ありがとうございます!
と、ぼくが言うのもヘンですが‥‥(笑)。
── パンパースって、医療機関とかでも
多く採用されてるとかって聞きますし、
他の紙おむつにくらべて
ちょっと高いように思うんですけど‥‥。
佐久間 ええ。
── なんか、選んじゃうんですよね。
佐久間 はかせやすい?
── あ、そんな気はします。

それと、おむつ交換のときに
サイドを破るんですが‥‥。
佐久間 破りやすい?
── そうなんです!
佐久間 やはり‥‥品質はいいと思います。
── ポイントは、ギャザーですか。
佐久間 ええ、とうぜん、それもありますし、
中に入ってる
高分子吸収体性能
ちがうと思います。
── 吸い込みがいいということ?
佐久間 ええ、逆戻りしないということ。
── あ、それはわかります!
佐久間 ‥‥あはははは(笑)。
── すみません、盛り上がってしまいました。

でも、そのときのご経験が
現在のお仕事である「犬の健康食品販売業」に
どう関わっているんですか?
佐久間 そうですね‥‥具体的にどう、というよりも、
前の職場で学んだことや経験がなければ
今の仕事は
たぶん、できてないと思うんですよ。
── じゃあ、そのP&G時代のことを
もう少し、おうかがいしてもいいですか?

なんか、おもしろそうですし‥‥。
佐久間 ええ、かまいませんけど(笑)。
── えーと、まずは、パンパース班に配属?
佐久間 いえ、アテントです。

その後、ウィスパー担当に変わりまして、
最後のキャリアが
パンパースのブランドマネージャーでした。
── P&Gって、会社の名前よりも
ブランド名を立たせてる会社ですよね。

ボールドとか、アリエールとか‥‥。
佐久間 ファブリーズとか、マックスファクターとか、
ヴィダルサスーンとか、
‥‥ポテトチップスのプリングルズとか。
── 佐久間さんの場合は
アテント、ウィスパー、パンパースですから、
なかでも「紙」系だったんですね。
佐久間 ええ、吸い込むものについては、
任せてください、という。
── おお、吸い込むもの専門家!
佐久間 ただ、アテントは、もう
P&Gのブランドじゃないんですけどね。

エリエールの
大王製紙さんに売っちゃったんで。
── あ、ブランドって
そういうこともあるんですね。
佐久間 ええ、まま、あります。
── 別の会社に買われたら、
ちがう商品になっちゃうんですか?
佐久間 最初はいっしょでしょうけど
製品を開発する人が変わってきますから、
ちがってくるでしょうね。

値段とかも変わってきますし。
── いちばん長かったのは‥‥。
佐久間 ウィスパーです。
4年半ぐらい、やっていました。
── ぼくは男なので、
ぜんぜん詳しくないんですけど、
ウィスパーも
売れてるブランドですよね。
佐久間 ええ、かつては
ナンバーワンシェアだった時期もありました。

ただ、ぼくが会社を辞めるときは、
ユニチャームさんとか
花王さんの商品に押されておりまして‥‥
シェアを落としてましたが。
── そういうふうに、ある商品が盛衰するのには、
どういう理由があるんでしょう?
佐久間 うーーーん、紙製品の場合は、
やはり、技術的な部分が大きいと思います。

漏れる漏れないとか、つけ心地がいいとか。
── そういう「性能」って
どうやって‥‥口コミで広まるんですか?
佐久間 それもありますけど、
まず第一に
各社、サンプリングをかなりしっかり
やっていますね。

大勢のお客さまに試供品を配ったりして。
── なるほど、それで製品のことを知ってもらい、
同時に広く意見を集める‥‥と。
佐久間 P&Gで学んだことの第一は、
ぼくたちは
お客さまのことを知らなければならない、
ということ。

顧客が何を求めているのか、
そのニーズを徹底的に調べて
答えていく、そのこと大切さでした。
── 消費者理解、というやつですか。
佐久間 ウィスパーを担当していた4年半のうち、
最後の2年は
そのことだけをやっていた
くらいで。
── それは、いろいろリサーチしたり‥‥。
佐久間 アンケートをとったり、
ホームビジットと言うんですが、
女性調査員さんに
実際にお宅を訪問してもらって、
どんなふうに
商品を使っているか、うかがったり‥‥。
── ええ、ええ。
佐久間 生理用品をつけた状態の女性を
CTスキャン
して、
製品がきちんとフィットしているかどうか
調べたり‥‥。
── 科学的‥‥といいますか、
何というか、徹底的なんですね。
佐久間 実際、自分でもつけてみたり‥‥。
── え!
佐久間 いやぁ‥‥あはははは。
── 佐久間さんご自身が、つけてみた?
佐久間 ええ‥‥まぁ(照れる)。
── 何か、わかったんですか!?
佐久間 それは‥‥つけ心地とか‥‥。
── わかりましたか!
佐久間 いや、正直、あまりわかったことは
ありませんでした。


実際、ぼくは、生理になりませんし。
── そ、そうですよね。
佐久間 でも、お客さまの声をきちんと聞いて、
何が求められているのか、
消費者のニーズを汲み取る訓練を
徹底的に叩き込まれたのが、
いまの仕事に、とても活きてるんです。
── 消費者のニーズって言いますけど、
それって、時代時代で変わりますよね?
佐久間 はい、それはもう、刻々と。

その時代のお客さまが求めているものを
きちんと、把握すること。

ウィスパーの場合は、
まさにそれで、成功した例だと思います。
── その点、くわしく聞かせてください。
佐久間 ウィスパーは
そもそも製品のクオリティがかなり高く、
評判も良かったんですが、
何より、ブランドイメージの打ち出しが
時代に、すごくマッチしていたと思うんです。
── 具体的には‥‥。
佐久間 いちばん最初のウィスパーのCMって、
ご存知ですか?
── すみません、わからないです。
佐久間 いわゆる「キャリアウーマン」的な
イメージの女性が
真っ黒い背景に立って、
まっすぐ、カメラに向かって語りかける、
ものすごく静かなCMでした。
── ははぁ。
佐久間 当時、活躍されていたヴァイオリニストや
カメラマンを起用して、
「自信」だったり、
「女性としてのアイデンティティ」だったり、
そういうものに
満ちあふれたイメージの映像だったんです。
── なるほど。
佐久間 男性に負けないキャリアを持った女性が
静かに、力強く、
ウィスパーのことと、自分のことについて語る。

当時、1980年代前半だったんですけど、
ちょうど
女性が社会進出していった時期と重なっていて。
── あの、それまでのCMって‥‥。
佐久間 まったく、テイストがちがったんですよね。

たとえば、笑福亭鶴瓶さんが
出演されていた
ユニ・チャームのCM、ご存知ですか?
── え! 鶴瓶師匠が? 男なのに!?
佐久間 いや、もちろん女性も出てくるんですよ。

でも、満月の着ぐるみを着用した
まっ黄色の鶴瓶さんが、
窓辺でたたずむ女性のところにやってきて、

「ごめん、遅れて~」
「よかったー、来てくれて」
「忘れへんてー、月に一回やもん」

‥‥みたいな、コント仕立てのCMで。
── そ、そんなノリだったんですか。
佐久間 今では、ちょっと考えられませんね(笑)。

まだ、そういう時代だったという
ことだと思うんですが、
女性からすると、
ちょっと、共感しづらいというか‥‥。
── たしかに、そうかもしれません。
佐久間 そういう時代の、ウィスパーのCMでした。

ただ、そのウィスパーも
1990年代、
「そこまで肩に力入れてやらんでも
 いいんちゃうの?
 もうすこし楽に、自然にいこうよ」
みたいな風潮になると、
イメージが顧客と離れていったんです。
── ははー‥‥。
佐久間 当時、そういう時代にマッチするような
新しいCMつくりを
担当させてもらったんですね、ぼく。
── ええ。
佐久間 テストで3本のCMをつくりました。

トータル1億円くらいかかったんですけど、
ぜんぶボツになって‥‥。
── ええ!?
佐久間 どれも日の目をみなかったんです。
── 1億円かけてつくったものだけど
出さないほうがいい、という判断?
佐久間 消費者に見てもらうんです、コマーシャルを。
その評価で決まるんです。

その結果、べつに悪くはなかったんですけど、
ズバ抜けてよかったわけじゃなくて。
── お客さまの反応が「悪くない」のに
「ズバ抜けて良くはない」
という理由で
1億円かかったものを、全ボツですか?
佐久間 勉強になりました。
── ようするに、徹底的に「お客さま」なんですね。
佐久間 それが、P&Gで学んだほとんどすべてと
言っていいかもしれません。

お客さまの求めているものを、徹底的に追求する。
── ええ、ええ。
佐久間 それが、今の仕事でも、活きているんです。
── つまり‥‥。
佐久間 犬のニーズを徹底的に考えること、です。
<つづきます>
2011-07-25-MON
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もくじ
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第一回 
1億円かかったCM、ぜんぶボツ。
2011-07-25-MON
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第二回 
ぼくは犬のことをやるべきなんじゃないか。
2011-07-26-TUE
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