── 明石家さんまさんや三宅恵介ディレクターに
鍛えられた渡辺さんは
ガレッジセール・ゴリさんとは
あくまで別人のゴリエさんや
宮迫博之さんと山口智充さんの「くず」を生んだ
『ワンナイR&R』などの番組を
手がけるわけですけど、
お仕事の参考にしているのは‥‥やっぱりテレビ?
渡辺 そうですね‥‥まぁ、テレビ屋ですから、
テレビを見ること自体は、まぁ当たり前なんですが
映画も、すごく参考にしていますね。
── あ、そうですか。
渡辺 それは、コントをつくりたいと思ったときに、
「物語」が書けないと
ダメだなって、気づいたからなんですよ。
── 物語、ですか。
渡辺 なぜなら、かつて、
ただのテレビファンだったときに見てた
『ひょうきん族』も、
テレビ屋になってから見返してみると、
「ドラマ」だったんです。

タケちゃんマンブラックデビル
壮絶なドラマだったんですよ。
── ははぁ。
渡辺 だから、漁るように映画を見ていたら
「こういう設定があるんだ」
「こういう台詞があるんだ」
「こういう役柄があるんだ」
そういうことが、いちいち勉強になりました。
── なるほど、なるほど。
渡辺 いま話に出た「くず」は
『ブルース・ブラザーズ』ですしね。
── あ、そうでしたか。
渡辺 アメリカの『ブルース・ブラザーズ』は、
ギャングがブルースを歌ってますよね。

日本の「くず」では
ヤクザがフォークを歌ってるんです。
── あははは、そうか!(笑)
渡辺 ぼくたちがつくる「外側のストーリー」自体は、
わりと「泣ける話」だったりするんです。

でも、その「泣ける話」を
芸人さんが、おもしろくしてくれる。
── へーっ、そういう構造なんですか‥‥。
渡辺 やっぱり「笑わせる」という作業は、
最終的には芸人さんのもの。

だから、その芸人さんたちが
いちばん「笑わせやすい環境」を整えるのが
自分の仕事だと思っているんです。
── ええ、ええ。
渡辺 その場合、「笑い」の直前が
感動的であればあるほど、
つまり「笑い」からかけ離れていればいるほど、
落差として「笑い」が大きくなるでしょう。
── ようするに「笑い」に向かっていく過程で
いかに「いい話」をつくれるかが重要だと。
渡辺 よく見ると「タケちゃんマン」なんかも
いい話だったりするんです。
── それは、気づきませんでした‥‥。
渡辺 だからこそ『ひょうきん族』というのは
バケモノのような番組だったんです。

三宅さんたちがつくった感動的な話を、
さんまさんやたけしさんが
滅茶苦茶に破壊していったんだと思います。
── それでは、たとえば具体的に
参考になった映画など、ございますか?
渡辺 ここまで言っといて映画じゃないんですけど(笑)、
やっぱり『24』は、大きかったですね。
── あのアメリカのテレビドラマの?
意外ですね。
渡辺 テレビ屋として超ショックでした。
── それは、なぜですか?
渡辺 24時間のリアルタイムでドラマが進んでいく。
これがまず、
テレビの世界で、誰もやらなかった企画ですね。
── ええ、すごく斬新でしたよね。
渡辺 そしてもうひとつは、
壮絶などんでん返しの繰り返しでしょう。
── そうですね。
渡辺 あれって
「お笑い」とまったく同じなんですよ。

ようするに、話の構造が
「フリ、オチ、フリ、オチ」の連続で。
── ははーっ、なるほど‥‥。
渡辺 振って落として、振って落として‥‥の繰り返しを
猛烈に手間暇かけてやっているんです。
── たしかに、
どんでん返しに次ぐどんでん返し過ぎて
話のはじめのほうのこととか、
あんまり覚えてないほどですよね。
渡辺 つまり、ぼくらがコントでやってきたことを、
彼らは、さらに徹底的にやっているんです。

だから
同じテレビ屋として悔しかったんです。
── 悔しいというのは、リアルですね。
渡辺 映画の場合は、
どこか「別の世界」と思っているから
悔しいって気持ちは起こらないんです。

でも『24』は「同じ土俵」でしょう?
── ええ。
渡辺 ぼくたちは、映画のやりかたを
テレビに持ってきてコントをつくったけど、
彼らは
「24時間がリアルタイムに進行する」
という
テレビでしかできないことをやって、
テレビ屋として全世界に発信した。

そのすごさに、もう感服でした。
── なるほど、なるほど‥‥。

それでは、他の放送局と比べたときの
フジの「お笑い」って、
どういう特徴があると思われますか?
渡辺 それはやっぱり「つくりもの」だと思います。
── つくりもの?
渡辺 ようするに「フィクション」ですね。

『ひょうきん族』でいえば
タケちゃんマンブラックデビル、
『みなさんのおかげです』で言えば
仮面ノリダー、
『ごっつ』で言えば
トカゲのおっさん、
『笑う犬』で言えばミル姉さん‥‥‥。
── 言われてみれば、そういうキャラものって
「8チャン」が多いかもしれないですね。
渡辺 たぶん、他局にはないんじゃないかなぁ。
── たしかに‥‥そうかも。
渡辺 つまりそれが、欽ちゃん(萩本欽一さん)の
「良い子悪い子普通の子」
あたりから
脈々と受け継がれてきた
フジの笑いの「お家芸」だと思っています。
── そうか、「ヨシオ、ワルオ、フツオ」
「キャラクター」ですもんね。
渡辺 ぼくたちは、そういう「お家芸」を培ってきた
先輩の芸人さんや演出家の背中を見て、
勉強させていただいているんです。
── はじめて「プロの笑い」がつかめたというか、
「こういうことかも?」って
わかったきっかけって、何かありますか?
渡辺 あれは‥‥2年目か3年目のとき、
まだ『あっぱれさんま大先生』のAD
やってたんですが
番組で慰安旅行に行ったんですよ。

で、夜の宴会タイムになって
みんなでお酒を飲んでたんです、ワァワァと。
そこにはもちろん、さんまさんもいて。
── ええ、ええ。
渡辺 でね、ものすごいヘタな歌を歌った先輩が
いたんです、余興で。

歌い出しからものすごいヘタで。
── そんなにですか。
渡辺 場の全員が「ええ~っ!?」ってなった瞬間、
緞帳を下ろしたんですよ。

ウィーーーーーーーーーン‥‥って。
── あはははは(笑)、それは渡辺さんが?
渡辺 そう。なんか、とっさに体が動いたんです。

そしたら、緞帳を下ろしたことで
笑いになって、拍手が起きたんですよ。
── なるほど。
渡辺 で、自分でもちょっとビックリしていたら
さんまさんが
「タク、今のはええで」と言って、
賞金をくれたんです。
── わはははは、「賞金」とはすごい!(笑)
渡辺 後から考えると
めちゃくちゃヘタな歌を歌ってる先輩は
「ボケ」なんですね。

で、緞帳を下ろしたのは
「ツッコミ」だったんですよ。
── つまり「ボケ」と「ツッコミ」によって
「笑い」が生まれたと。
渡辺 ああ、笑いってこう生まれるんだ‥‥って、
あそこが、ひとつの分岐点だったと思います。
── ちなみに、緞帳を下ろしたのは
「ツッコミ」だと認識して?
渡辺 たぶん‥‥でも、本当にとっさに
手が動いたんですよ、ボタンに。

今でもハッキリ覚えてますよ。
真っ赤なボタンでしたよ。
── ‥‥素敵な話ですね。
渡辺 え? そんなに? ありがとうございます。
── いや、でも、どんな仕事でも
後から考えると「分岐点だったな」という瞬間、
あると思うんですよ、きっと。
渡辺 そうでしょうね。

ぼくの場合は、だから
「さんまさんに賞金をもらった日」が
それなんですよね。

<つづきます>
2010-12-08-WED
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もくじ  
第1回 オレにもパスが来るんだ。 2010-12-07-TUE
第2回 さんまさんに「賞金」をもらった日。 2010-12-08-WED
第3回 失敗はぜんぶおいしい、ウケるから。 2010-12-09-THU
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