── |
吉村さんの「フィルムの楽しさ研究」は
その後、どのように展開していくんですか?
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吉村 |
世間がデジタル化まっしぐらだった
2004年くらいに、『カメラ日和』という
デジカメだけでなく
フィルムもしっかり取り上げるような雑誌が
創刊されて、
女の子に支持されたんです。
これまで、いろいろと考えてきたことは
間違ってなかったんだと、確信しました。
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── |
えっと、ようするに
その女の子たちが、例の「元・女子高生」?
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吉村 |
そう、高校時代に「写ルンです」を
めちゃくちゃ使いこなしていた女の子たちが
フィルムを楽しんでいたんですよ。
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── |
つまり「デジタルカメラの便利さ」とは
別のところに成立する「フィルムの楽しさ」を
享受している人たちが、
思い通りのところに、やっぱり、いたと。
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吉村 |
同時期に、
カメラピープルというサイトを運営していて
のちに学芸大学で
モノグラムという写真屋さんをはじめることになった
ミヤモトタクヤさんと、出会いました。
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── |
本日、ご同席いただいておりますね。
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ミヤモト |
突然ですが、ミヤモトです。
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── |
改めまして、こんにちは。
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ミヤモト |
こちらこそ、こんにちは。
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吉村 |
僕のなかでは、ミヤモトさんや
自由が丘の
ポパイカメラさんと知り合えたことが
「フィルムの楽しさ」を考えるうえで
すごく大きかったですね。
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── |
話を戻しますと「便利なデジカメ」でなく、
むしろ
「不便なフィルムを楽しむ人たち」が‥‥。
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吉村 |
いたんです。見えないところに。
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── |
見えない‥‥ところ。
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吉村 |
若い女性というのは
フィルムメーカーの付き合いの範囲のうちでは
なかなか知り合えないので。
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ミヤモト |
カメラ・写真業界をかたちづくってきたのは
高価なカメラを買ってくださる
おじさまだとか
いわゆる「カメラ小僧」と呼ばれるような
男の人ばかりだったんです。
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── |
なるほど。
それじゃ、知り合えなさそうですね。
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吉村 |
でも、見えないところで
「若くて、感度の高い女の子」たちが
今の感性でフィルムを楽しんでいた。
そのことを実感できたところで、
ミヤモトさんや
ポパイカメラさんという
意識の高い写真屋さんと出会ったんです。
そして、そういう潜在的な顧客に向けて
一緒に、何か働きかけができないかなと。
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── |
ええ、ええ。
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吉村 |
試しに、ワークショップをしてみました。
弊社の「ナチュラ」という
フィルムカメラを使って、自由が丘で‥‥。
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── |
はい。
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吉村 |
そしたら見たこともないくらい
たくさんの女の子が来たんです。
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── |
見たこともないくらい、ですか!
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吉村 |
いや、本当に、こんなにもたくさんの
若い女の子が
「写真」のことで集まってる場面なんて
見たことがなかった。
あの日から、考えが完全に変わりました。
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── |
完全にとは、すごいです。
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吉村 |
だって、それまで写真のイベントと言えば
本当に「男くさーい」感じだったんです。
だから、こっちにも目を向けるべきだ、と。
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ミヤモト |
ただ、今でこそだいぶ広まってきましたけど、
当時は、うちも
写真業界や愛好家のかたには
理解されていませんでした。
いわゆる「カメラ女子」向け、ということで。
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── |
でも、言い換えれば
「まったく新しいマーケット」が
見つかったわけですよね?
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ミヤモト |
そうそう、そうなんです。
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吉村 |
それも、急に。
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── |
ちなみに「カメラ女子」の人たちというのは
「撮っているもの」も違うんですか?
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吉村 |
ぜんぜん違いますね。撮りかたも含めて。
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ミヤモト |
いわゆる「記念写真」的なものとは
まったく別の写真を撮ってます。
そういう写真を撮るとすれば
「あえて」という感じ。
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── |
へぇー‥‥。
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ミヤモト |
だから、正統派の写真愛好家からすると
「なんで、こんなのを
こんなふうに撮ってるの?」
と言いたくなるような、
ものすごく、日常性の高い写真ばかりで。
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吉村 |
たとえば「脱いだ靴」とか‥‥。
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── |
あ、でも、それって
僕は、わりと違和感を感じなさそうです。
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吉村 |
でしょう?
今だったら、ぜんぜんわかるんですけど、
昔は、あり得ない写真なんです。
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── |
そうなんですか。
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ミヤモト |
プロに言わせたら、構図もめちゃくちゃだし、
人の首が、ヘンなところで切れていたり。
セオリーとしては
「なってない」のかもしれないですけど
みんな「感性」で撮ってるんです。
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── |
好きなものを、好きなように撮っている。
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吉村 |
ワークショップのときに
ひとりの女の子と、知り合ったんですね。
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── |
ええ。
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吉村 |
休憩時間に、彼女の写真のまわりに
他の女の子たちが
わーっと群がって、眺めてるんですよ。
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── |
へぇー‥‥。
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吉村 |
その子が使っていたのが、チェキでした。
そして僕は、チェキの写真を
あんなに、
みんながおもしろがって眺めてる場面は
はじめて見たんです。
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── |
そうなんですか。
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吉村 |
チェキの写真では
あんなこと起きないと思ってましたから。
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── |
ユーザーに可能性を教えられた、と。
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吉村 |
そうですね。
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── |
その人の写真って、
どういうところが、よかったんでしょうか?
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ミヤモト |
チェキというのは
パッとフラッシュを焚いて撮るカメラなので
メリハリがしっかり出るんです。
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── |
ええ。
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吉村 |
ようするに、ふたりでピースしている場面を
撮るためにつくった
いわゆる「パーティーカメラ」なんです。
でも、その子はチェキで「風景」を撮ってた。
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── |
それが‥‥想定外だった?
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吉村 |
僕みたいな「写真おじさん」にとっては
まったくの想定外でした。
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── |
なるほど‥‥(「写真おじさん」‥‥)。
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ミヤモト |
いちばん値段の安いエントリーモデルのチェキは
手動の「絞り」がついているんです。
そこを敢えてズラすことで
クセのある雰囲気を、出してみたり。
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── |
自分なりに、遊んでるんですね。
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吉村 |
天気が「晴れ」なのに
わざと「曇り」マークで撮ってたりして。
そうやって
カメラの側を変にコントロールすることで
独自の写真を撮っていたんです。
そんなこと、考えもしなかったです。
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── |
でも、おもしろいですね。
だって、気づいたら
今までの「お客さん」のエリアの外側に
新たなお客さんの塊がいたんですから。
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吉村 |
そうなんです。
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── |
従来のカメラ業界とは無関係の場所、
といっても
過言ではなさそうですものね。
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ミヤモト |
同じ時期に、いわゆる「トイカメラ」のシーンも
盛り上がってきていたんです。
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── |
ええ、ロシアのカメラの「ロモ」とか
中国製の「ホルガ」とか‥‥ですよね。
当時、ファッション誌の編集をしていたんですが
新しいホルガが出るとか、
ロモの展覧会があるとか、よく記事にしてました。
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ミヤモト |
そういうカメラを売っている場所って
「カメラ屋さんじゃない」んです。
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── |
というと?
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ミヤモト |
「雑貨屋さん」なんですよ。
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── |
なるほど‥‥つまり「売ってる場所」が、
そもそも違うんだ。
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吉村 |
従来の写真業界とは、ぜんぜん違う場所で、
ぜんぜん違う写真の市場が、生まれていた。
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ミヤモト |
トイカメラとか、ポラロイドとか。
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── |
「カメラ女子」とか。
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吉村 |
たぶん、そういう動きって
写真業界の内側にいただけでは、わからない。
どんどん業界の外へ出ていって
そういう人たちを目の当たりにして、わかる。
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── |
そうなんでしょうね。
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吉村 |
その場へ行って話をしない限り、
なかなか、その重要性には気付けないんです。
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ミヤモト |
そこが、吉村さんのすごいところなんですよ。
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── |
いろんなところに出没している‥‥的な?
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ミヤモト |
僕、たまーにですけど
ファッションブランドのレセプションに
呼ばれて行くと
本当に、いろんな業界の人が
吉村さんのことを、知っているんです。
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吉村 |
あはは‥‥まあ(笑)。
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ミヤモト |
ファッション系の人たちのなかに
ひとりだけ、スーツ姿の吉村さんを見かけたり。
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── |
でも、ロモとかホルガが
ファッション誌で盛り上がっていることって
ファッション関係の人と
話していたら、普通の話題として出そうです。
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吉村 |
やっぱり、写真業界のなかにしかいないと
山岳写真家だとか
年配の写真家しかわからなくなってしまう。
サラリーマンって、
会社の外に出ていくことが難しいところも
あると思うんですけど、
ちょっと出れば、すぐにわかることが
ちょっとも出ないと、さっぱりわからない。
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── |
なるほど。
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吉村 |
あのとき、写真業界の内側から外へ出ていって
「フィルムのおもしろさって、
何なんだろう」
と、真剣に考えたことは、
僕の一生の財産になるだろうなと思います。 |
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<つづきます> |